【求人掲載】企業変革家が語る、事業再生に求められるプロ経営者の条件

2017/10/31
米系コンサルティングファームでコンサルタントとしてのキャリアを磨いてきた安藤一郎氏。アメリカン・エキスプレス・インターナショナル、DHLジャパン、日本マクドナルド、牛角・成城石井のホールディングス企業といった事業会社の現場でも力を発揮し、数多くの企業を再生に導いてきた。再生ファンドからの指名で経営手腕を発揮することも多い安藤氏に、ファンドが求める経営者の条件を聞く。
ファンド=ハゲタカは本当か
──2000年ごろ、外資系ファンドが弱った日本企業を乗っ取る様子から「ハゲタカ」と揶揄されたこともありましたが、改めて、日本経済にとってのファンドの意義を教えてください。
安藤:株式の強引な取得(バイアウト)や、経営権取得後の大量のリストラなど、2000年ごろのファンドの企業再生のやり方には批判の声もありました。
ですが、本来ファンドは、疲弊している企業に手を差し伸べ、資金や人材などのリソースを投入し企業を再生する、日本経済にとってプラスになる真っ当なビジネスを行っているのです。
「ハゲタカ」のイメージは、ファンドに詳しくない人が持つ誤解というか、そもそも企業価値に対する考え方が一般の人とファンドでは大きく異なるために、認識に齟齬(そご)が生まれるのでしょう。
企業の価値は、現株価ならびに発行部数の「時価総額」で決まる。これが、多くの人の意見だと思います。
しかし、ファンドは「EBITDA(イービッダ)」という指標で企業の価値を判断することが多いと思います。EBITDAとは、大雑把に言えば減価償却や金利・税金を差し引く前の利益のこと。
端的に言えば、ファンドは、その企業がどれだけ実体として稼いだのか。ビジネスによって生み出されたキャッシュの量、さらにはその成長や継続可能性に注目しています。私もまったく同じ考えです。なぜなら、企業の真価はその企業が生み出す付加価値によって決められるべきだからです。
企業再生に裏技はない
──「プロ経営者」には、キャッシュフローを生み出す経営術やノウハウのようなものがあるのでしょうか。
企業経営や再生に関して、何か特別な処方箋や裏技のようなテクニックがあると思っている人もいるようですが、そんなものはありません。これは、長年コンサルティングをやればやるほど感じることです。
では、私は何をしているのか。一言で説明すれば「当たり前のことを淡々とやる」。これだけです。
やらなければならないのに後回しにしている。理由をつけてやっていない。このような課題を洗い出してどんどん解決していきます。
業種、規模、企業の国籍を問わずに対応できるのは、そのためです。
細かくは5つのP、「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(店舗)」「People(人材)」「Process(過程)」で見ていきますが、大きなフレームワークとしては3つの枠を意識しています。「戦略立案」「組織改革」「オペレーション」です。
なかでも私が経営に参画して真っ先にやるのが戦略立案です。企業の訴求価値「バリュープロポジション(以下、VP)」を決定するのです。簡単に言えば、当社の「売り」の部分。お客様が他社ではなく、当社に来ていただくべき理由です。
VPを社是のような形で掲げる企業もありますが、その多くはぼんやりしています。
その「ぼんやり」を明確にし、企業や社員が目指すゴールとすることで、先に掲げた5Pに落とし込み、改革を実行します。
──具体的な事例を紹介してください。
今年の1月まで私が代表取締役をしていたソシエ・ワールド(以下、ソシエ)の、経営参画時の社是はこうでした。
「トータルファッションリーダー」
そもそもソシエは、アパレル企業ではありません。ファッションリーダーになれるわけがない。私が「ぼんやり」と言った意味がわかったと思います。
ソシエは、国内外あわせて170店舗ものサロンを展開する美容系企業で、サービスはエステ、ヘア、ネイル、アイ、スポーツと幅広い。教育体制が充実しており、技術はもちろん、言葉遣いなどの接客サービスも一流で、サロンの内装などへのこだわりもありました。
そこで私はVPを「トータルビューティー」「パーソナルケア」「一流へのこだわり」と改めたのです。
バリュープロポジション(VP)を明確にすることが企業再生の第一歩。
「おままごと」をやめさせる
──VPが定まった後の改革はどのように進んでいくのでしょうか。
組織改革に着手します。VPにつながらない、意味のないことをやめてもらうのです。
たとえば、会議の席配置にやけに気を使うこと、会議で大して読まれもしない資料を用意させること。私から言わせればこれらは全部「仕事版おままごと」です。
もう一歩踏み込むと、会議で発言しない人も改革に値します。会議おままごとをしているのと同じですから。
──プロパー社員がいきなり外部から来た人の意見をそう簡単に聞くものでしょうか。反発がありそうです。
それが、不思議にないんですよ。きっと、私が無駄だと思うことは、多くの社員も同じように意味のないことだと考えていたのではないでしょうか。
もちろん、言い方には気を使います。先の資料でいえば、「必要だったら戻しましょう」とフォローを入れました。ただ、「戻そう」という声はありませんでしたし、その後の会議でもまったく問題ありませんでした。つまり、必要なかったということです。
「自分の意見なんてどうせ聞いてもらえないから発言しない」という人もいますが、意見が正しければ、社員のポジションに関係なく採用されます。
だから、社内で「間違っている」「これが正しい」「無駄だ」と感じることがあれば、平社員であっても声を大にして発言してもらいたい。そうすれば、その人が実質的意思決定者になれる。もちろんその内容が正しければですけどね。こうした理解と行動が企業を元気にします。
自分でできないから他人の力を借りる
──無駄の排除と言えば、コスト削減についてはいかがでしょうか。
コスト削減はしなくてはいけない。でも、それができないから経営状態が悪化している。まずは、自分たちだけではもうどうにもならない状況なのだということを理解しなくてはいけません。
それを実行するただひとつの手段は、他人の力を借りること。コスト削減を得意とするコンサルティング会社やサービスを利用するのです。
私が社外取締役にもなっているプロレドパートナーズであれば、コンサルティングの内容が明確です。
彼らは戦略コンサルティングファーム出身者で創業した経営コンサルティングですが、フィーを固定ではなく、成果報酬でもらうという形をとっています。
例えば、1億円コストを削減したらその何%が報酬という具合に、売り上げアップもコスト削減も含めて、コンサルティングの全てが完全成功報酬型ですから、やれば確実にプラスになる。
コストマネジメントであれば、削減額がそのまま利益貢献額となり、仕組みを作ってしまうのでその後効果が継続しやすいわけです。
マクドナルドでコーヒーのタダ券
──このように聞いていくと、企業再生の肝は細部にありそうですね。
どこから改革を行うか、プライオリティはもちろん重要ですが、もっと細かい、実際に着手していく順番が重要です。
たとえば、私が経営に参画していた日本マクドナルドは、当時、店舗数は3900、年間来店者数は約13億人。BtoCビジネスの象徴のような存在でした。
客数が重要なのは、多くのBtoC企業が理解しています。コーヒーのタダ券を配布して客を呼び込むことにしました。大勢の人がマクドナルドに殺到するのは間違いなかった。でもそのまま実行したらまず大失敗していたでしょう。
なぜなら当時のマクドナルドのコーヒーはお湯にコーヒー味がついたようで、おいしくなかったからです。せっかくご来店いただいても、「二度と来るか」、となってしまいます。
ですので、コーヒーを上質なものに変えることが先です。それをしっかりと実現してから、タダ券です。この手順を間違えていたら失敗していたでしょう。
会うと「得する」と思わせる努力
──リーダーシップについてはいかがでしょう。スティーブ・ジョブズのようなカリスマ性を持つ経営者はそうはいないと思います。
私もカリスマ性はまったくありません。経営者として受け入れられたのは、運もよかったんです(笑)。
でも、リーダーシップは簡単に持てます。そもそも、大多数に対して一気にリーダーシップを構築することは不可能だと認識して、一人ひとりと地道に関係性を築いていくこと。
ポイントは、社員に「ギフト」をあげることです。モノは何でもいいんです。
私は会議などで、落ち込んでいたり、悩んでいたりする社員に対して、気づきやアイデア、具体的なサポートを「プレゼント」します。「安藤の会議に出席すると何か得する」と思ってもらうよう努めるのです。
結果として、会議への参加意欲も高まりますし、会議の質も上がる。会議が終わった後、従業員の顔が生き生きしていれば、私にとってはうれしい会議です。
経営者は「NATO軍」になるな
──最後にお聞きします。プロ経営者に必要な能力や経験とは、どういったものなのでしょうか。
ダメな経営者の例を挙げると分かりやすいでしょう。私はよく「NATO軍」と言っていますが「No Action Talking Only」。
概念やアイデアを言うだけで、実際に動かないのはダメな経営者です。部下に頼むことは、最後の最後になったら、肝の部分はすべて自分でもできなくてはいけないのです。
次に大切なのは、ロジカルに物事を考えられ、かつ、他者に説明できる能力です。特に、ファンド経由で経営に参画する場合は、ファンドの先にいる投資家に自分の経営戦略をしっかりと説明する必要があるからです。
あらゆる事象を概念化する能力
また、因数分解の能力、あらゆる事象を概念化する能力も必要です。
目の前に乱雑に積まれた課題を、項目ごとに分けて考えるのです。メッシュ細かく解を積み重ねていくのが企業再生の本質ですから。
さらに一歩進んで、その整理されたファクターを他の事象と比較したり当てはめたりすることも、より本質的な問題解決には欠かせません。
私は、この「概念化」をいつも頭の中で行っています。そうやって、企業の問題を解く公式を頭の中にストックしているのです。課題解決の引き出し、ともいえるでしょう。この引き出しを増やすには、やはり経験を積むしかありません。
若い方にアドバイスするとすれば、最初は他の経営者の引き出しをまねること。でも、課題にぶち当たったら自分で考え、引き出しを増やすのです。自分で考えて物事を概念化し、引き出しを増やしていくことで、経営者としてスキルアップすることができるでしょう。
(聞き手:久川桃子 構成:杉山忠義 写真:北山宏一)
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