フィンテック分野のスタートアップ数社が「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」と協力し、グローバル金融機関と決済プラットフォームの相互運用性を高める新しいソフトウェアを開発、公開した。

誰でも自由に使える「モジャループ」

モバイル・バンキング・システムが広がりを見せているのを受け、フィンテック分野のスタートアップ数社が「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」と手を結び、銀行口座を持たない発展途上国の人々へのサービス提供に乗り出した。
アイオワ州デモインを拠点とする決済ネットワーク「ドゥオラ(Dwolla)」や、サンフランシスコのブロックチェーン・ネットワーク「リップル(Ripple)」などの5社は、ゲイツ財団と協力し、誰でも自由に使えるオープンソースのバンキング・ソフトウェア「モジャループ(Mojaloop)」の開発に取り組み、10月16日に公開した(提携各社はこの取り組みに関して報酬を得ているが、ゲイツ財団は具体的な金額を明らかにしていない)。
モジャループという名は「1」を意味するスワヒリ語の「モジャ」に由来する。このソフトウェアの狙いは、金融機関とモバイル決済プラットフォームの相互運用性を高め、アフリカやアジアに住む、銀行口座を持たない、あるいは利用しにくい人々にサービスを提供しやすくすることにある。
世界銀行のデータによれば、現在、銀行口座を利用できない人はおよそ20億人にのぼる。この数は、2011年に比べて、20%しか改善されていない。
ゲイツ財団の貧困層向け金融サービス担当副ディレクタを務めるコスタ・ペリックは、Inc.の電話取材に対して「こうした人々が銀行を利用できないおもな理由は、従来型の銀行支店やATMから遠く離れた場所で暮らしていることにある。また、従来の銀行は、そうした人々にサービスを十分に提供するだけの設備を備えていない」と説明した。
さらにペリックの指摘によれば、企業の多くは、大きな収益を得られない可能性のある貧困層向け技術への投資に二の足を踏んでいるという。
モジャループ開発の背景には、資金繰りの手段としてデジタル・ウォレットを使う消費者が増えていることがある。つい先日には、オンライン決済・送金の代表格である決済サービス大手「ペイパル(PayPal)」が、市場価値でアメリカン・エキスプレスを上回った。

「インターレジャープロトコル」技術

ピュー・チャリタブル・トラストの最近の調査によれば、アメリカでは、各種料金の支払い、購入、送金やその受け取りにアプリを利用している人が人口の半数近くにのぼる。
また、発展途上国では、スマートフォンの普及に伴い、モバイル・バンキングも広がっている。同じくピューの調査によれば、インドでは現在、人口のおよそ55%がスマートフォンを使って金融商品を購入しているという。
ここ数年、アメリカと欧州を中心にデジタル・バンキング・ソフトウェアが急増している一方で、そうしたソフトウェアは、かならずしも外国の金融機関に対応しているわけではない。そのため、数十億人規模にのぼる潜在顧客へのアクセスが妨げられているのが現状だ。
たとえばケニアでは、デジタル・バンキング分野のスタートアップが手がける「エムペサ(M-Pesa)」というサービスが、20万人近い顧客を貧困から抜け出させるのに貢献してきた。だが、このサービスは、ルワンダやウガンダなどの隣国ではまだ導入されていない。
ゲイツ財団のペリックによれば、バングラデシュの「ビーキャッシュ(Bkash)」をはじめ、いくつかの別のシステムが存在してはいるものの、そうしたシステムは、システム間でも、金融機関との間でも、相互運用性がないことが多いという。
「これ(モジャループ)が生み出す次なるイノベーションの波により、今後はモバイル・バンキング・システムだけでなく、従来の銀行にも接続できるようになるはずだ」とペリックは言う。
モジャループは、金融事業者がさまざまなシステムをまたいで決済取引をおこなうことを可能にする「インターレジャープロトコル」と呼ばれる技術を利用している。
タンザニア中央銀行のベノ・ンドゥル総裁は、準備された声明のなかで「相互運用性は、ファイナンシャル・インクルージョン(あらゆる人に金融に関する知識やサービスを提供すること)のためにも、市場の成熟のためにも必要だが、実現するのは難しい」と述べている。
「この技術の導入に乗り出すことができて喜んでいる。この技術は、企業にとっても政府にとっても相互運用を簡素化し、金融サービスへのアクセスを加速させるものだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Zoë Henry/Staff writer, Inc.、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:PeopleImages/iStock)
©2017 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.