小型ロボットアームを3Dプリンターで使う「思いもよらぬ利用法」

2017/10/19

コー・ロボットとスタートアップ

デンマークで起業し、その後アメリカ企業に買収されたユニバーサル・ロボッツの共同創業者に以前聞いた話で、今でも「面白いなあ」と思い出すことがある。
それは「自分たちが作った製品なのに、想像もつかない方法で利用する人々がいて驚く」という内容だった。
ユニバーサル・ロボッツは、小型のロボットアームを開発・製造する。これまでロボットアームと言えば、自動車工場で車体を持ち上げているような巨大な産業ロボットのものだったが、最近の「コー・ロボット」と呼ばれるアームはもっと小さい。
人間のそばで動いていても安全なので、コラボラティブ・ロボット、略してコー・ロボットと呼ばれる。ユニバーサル・ロボッツのアームは、そんなコー・ロボットの代表格とされる。
こうしたコー・ロボットは、価格も安く取り扱いも大げさでないので、中小規模の工場などで利用されることも多い。さらに、これまでロボット化が考えられなかったような「想像もつかない利用方法」も出てくるのだ。
その一つが、ニューヨーク・ブルックリンにあるヴードゥー・マニファクチャリングというスタートアップでの利用だという。

印刷された立体が載ったプレート

ヴードゥー・マニファクチャリングは、3Dプリンターを利用して製造業規模のビジネスをやろうとしている。
3Dプリンティングは、すでに製品のプロトタイプを作ったり、部品のひな型を作ったりするのに用いられているのだが、ヴードゥーではさらに先を行って、これで製造業を営んでしまおうとしているのである。
未来の製造業はこうなる、ということを体現しているような会社だ。同社のサイトには「少量生産を、高速3Dプリンティングで実現」と書かれている。
さて、そのヴードゥーが利用しているユニバーサル・ロボッツのアームは、10キロまで持ち上げることができるアームである。それを3Dプリンターの中に入れるプレートの出し入れに利用しているのだ。
3Dプリンティングは下の方から印刷を重ねていくようにして立体を作り上げるのだが、その作業はプレートの上で行われる。立体が完成するとプレートごと取り出して、また新しいプレートを入れ、次のプリントをするというのが製造の手順だ。
ヴードゥーでは、これまでこのプレートの出し入れに全作業の10%の時間が費やされていたという。この時間をどうにかカットできないかと願って導入したのが、コー・ロボットのアームだった。
設置も稼働も簡単で、ロボットの先につけるハンドもユニバーサル・ロボッツがアプリストア形式で提供している周辺機器のハンド開発会社のものを選んだ。小型アームなので、コストは産業ロボットの5分の1で済んだという。

プリンターの稼働率は90%以上に

ヴードゥーでは、160台の3Dプリンターを動かしているのだが、このロボットアームは可動式のベースの上に載せて移動させれば、そのうちの100台まで対応可能になる。
ロボットアームは、立体のプリントが仕上がったプレートを取り出して所定の台の上に置き、そこから新しいプレートが収められた箱から1枚を取り出して3Dプリンターの中に設置。その後、プリンター開始の信号を送る。この作業を延々と繰り返すわけだ。
何台ものプリンターが積み上げられた棚の前に陣取って、アームは働き続ける。
このロボットアーム導入後は、プリンターの稼働率が30〜40%から90%に上がったというから、休みなく働くロボットの成果はなかなかのものだ。ヴードゥーでは、ロボットのコストは6カ月で元が取れるとしている。
ヴードゥーは3Dプリンティングによって、少量ロットならば射出成形製造と競合できるスピードとコストを実現しようとしている。ロボットアームによる自動化がそれを後押しするわけだ。
3Dプリンティングが本当に製造ツールになっているのも感慨深いが、そこに新しいタイプのロボットアームを導入しようと考えたのも面白い。成果が出ているのが、何よりの納得点である。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:Universal Robots提供)