【1万字】田原総一朗のリーダー論。安倍、小池、石破、小泉、橋下を評す

2017/10/22
これから日本を率いるリーダーには何が求められるのか。そして、安倍首相やポスト安倍の候補たちは、リーダーとしての資質を備えているのか。北朝鮮情勢など総選挙後の展望とあわせて、ジャーナリストの田原総一朗氏に聞いた(聞き手:佐々木紀彦)。

ポスト安倍の議論が始まっていた

――田原さんは、小池百合子都知事を、リーダーとしてどう評価していますか?
買っていましたよ。小池はいるだけで非常に存在感がある。
東京都議選で小池は、「都知事として東京をどうするか」をほとんど示していないのに、都民ファーストの会をつくった。そして、候補者は名前も知らず、人柄もわからず、業績もない人ばかりなのに、49議席獲得と圧勝した。
小池という存在だけで勝ったようなものですよ。
今年7月2日に投開票された東京都議選では、都知事選に続いて圧勝。都民ファーストの会が第一党に躍り出た(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
とにかく、小池は勝負師で敵をつくるのがうまい。
都議会のドンの内田茂、元東京都知事の石原慎太郎、それから、オリンピック組織委員会の委員長である森喜朗を敵にして、何となく勝っていくじゃないですか。敵をつくって勝つのがうまい。
――今回の選挙では、安倍首相をうまく敵にできなかったのでしょうか。
いや、安倍首相も一時は追い込まれた。
自民党の幹部たち、つまり、安倍首相は一時、230議席取れなかったら辞任をせざるをえなくなるため、ポスト安倍に誰が就くか、幹事長や官房長官を誰にするかを議論していた。具体的には、野田(聖子)や岸田(文雄)という名前が出ていた。それぐらい危機感があったんです。
ただ、小池が「排除」と言いだしたので風向きが変わった。これでいちばんほっとしたのは、安倍首相でしょうね。
9月29日の会見で小池知事が、民主党の合流組の一部を「排除する」と発言。これをきっかけに希望の党は失速し、自民党には大きな追い風となった(写真:ロイター/アフロ)
――この大きなミスがなくても、いずれ希望の党の人気は落ちたとみていますか。
そこの見方は難しい。
小池としては、「なんで民進党が自民党の受け皿になれないのか」という思いがあった。つまり、自民党の安倍内閣支持率がドーンと落ちても、民進党にいかないのはなぜかと。
そこで小池は、「民進党は、憲法改正に賛成の人間も、憲法改正に反対の人間も、みんなまぜこぜになっているから、すっきりしたほうがいい」と考えた。だから、憲法改正反対派を排除すると、希望の党という政党が分かりやすくなると思ったんでしょう。
――そういう意味では、排除という方針自体が間違っていたのではなくて、あの時期に、あの言葉を使ってしまったことが間違いだったと。
言葉が良くなかったですよね。
枝野(幸男)たちは憲法改正に絶対反対ですから、排除なんて言わなくても、独立して党を作ったはず。排除と言わなければ、傷はあんまり深くならなかった。
僕は、小池がうまく戦えば、今回の選挙に勝てたと思う。一時は、自民党も安倍首相も真っ青になったわけだから。
党首討論でも小池氏は劣勢を強いられた。さらに、立憲民主党の誕生も、希望の党には逆風となった(写真:ロイター/アフロ)

安倍首相は「普通の人」

――現在の情勢では、自民党勝利の可能性が高いですが、総選挙後に、安倍首相は何に取り組むのでしょうか?
憲法改正でしょう。
希望の党も憲法改正はOKだから、やりやすいですよ。何だかんだ言っても、公明党も賛成するでしょう。
しかし問題は、「憲法改正を何のためにやっているのか」がよく分からないこと。憲法改正して、日本をどういう国にするというビジョンがない。
――「美しい国」ではないのでしょうか?
美しいってどういうこと?
――私に聞かれても分からないですが(笑)。
日本の場合、今だって美しい。こんなに自然が残っている国はないですよ。
――田原さんは、安倍首相をリーダーとしてどう評価していますか?
去年の9月に安倍首相に一対一で会ったときに、「衆議院でも参議院でも自民・公明で3分の2をとったから、いよいよ憲法改正ですね」と言ったの。
そしたら、安倍首相は少し考えて、「大きな声では言えませんが、実は、憲法改正する必要がなくなりました」と言ったんです。
そこで、「安倍さんは2006年から憲法改正と言っていたのに、なぜですか?」と聞いたら、実は、集団的自衛権の行使を決めるまではアメリカがうるさかったが、行使を認めたら、アメリカが何にも言わなくなったから憲法改正する必要がない、と答えたんです。
――安倍首相は、何かの理念があって憲法改正を目指していたのではなく、アメリカからのプレッシャーが大きな理由だったということですか。
付け加えると、憲法改正をした総理大臣として名を残したかった。
安倍首相には、それまでの総理大臣とまったく違う点が一つある。彼は、政治家になるための覚悟と決意が必要がなかったんです。そんな総理大臣は初めてですよ。
これまでの総理大臣は、政治家になるときに、「政治家になる」と覚悟して意思決定している。しかし、彼は、おじいさんもお父さんも政治家。だから、気が付いたら衆議院議員になっていた。まったく決意していないんです。
成蹊大学卒業後、神戸製鋼での3年間の勤務を経て、1982年に父である安倍晋太郎外務大臣の秘書官に就任。1993年に衆議院議員に初当選した(写真:Koichi Kamoshida/Getty Images)
ジャーナリストの青木理が、『安倍三代』という本で、祖父・寛、父・晋太郎、晋三の安倍三代について調べています。
そこでわかったのが、おじいさんも、お父さんも、ちゃんと頑張ったけれども、安倍晋三は実につまらないということ。彼の昔を知る人に話を聞いても、力強いエピソードが出てこない。つまり、安倍首相は、普通の人間なんですよ。
普通の人間には良さと悪さがあります。
彼は普通の人間だから、とても素直です。僕は、安倍首相が当選2期目のときに、彼と石原伸晃、塩崎恭久、浜田幸一の息子の浜田靖一らが出席する若手勉強会に出たことがある。
そのときに一番いろいろしゃべったのが、浜田や塩崎で、安倍さんはほとんど何もしゃべらなかった。しゃべることがないから、人の話を聞くだけだった。

安倍首相は幸運だった

――そんな普通の人が、安倍一強といわれるほどの総理になった。
それは、小選挙区制という選挙制度の影響が大きい。みんな安倍首相のイエスマンになった。
そして、彼は神経がたるんで、驕りが出てきた。
たとえば、森友学園問題に関して言うと、国有地を8億円以上も安くした理由を財務省の官僚たちは当然記録に残していますよ。ただ、野党になんだかんだ追及されて、それを破棄したことにしてしまった。
かわいそうだったのは、国会でこの問題について答弁をさせられた財務省の佐川宣寿元理財局長ですよ。嘘八百と言われて、恥さらしになった。それで申し訳ないということで、彼は国税庁長官に登用されたんです。
ほかにも安倍首相は、言わなくてもいいことを言った。
森友学園の許認可や土地売買には、自分も妻もまったく関係していない。もし関係していたら、総理大臣も議員も辞めると発言した。でも実際には、夫人が、森友の名誉校長をやっていて100万円を寄付していた。
共謀罪についても、こんな難しい法律を作るのに、野党の質問に満足に答えられない金田勝年を担当大臣にした。
共謀罪の国会審議では、法案の担当大臣である金田勝年法相の答弁が二転三転。混乱を招いた(写真:Natsuki Sakai/アフロ)
なんでこんなことになったかを確認したら、金田を指名したときには、共謀罪法案を通す気はなかった。しかし、一強多弱になったから、この際にやってしまおうということになったのでしょう。
それから、加計問題。学長の加計孝太郎は、親父の代からの仲良しで、安倍首相の40年来の友達です。その加計学園が獣医学部を作りたいと申請したのであれば、「40年来の友達だからといって甘くするな。厳しくやれ」と言っていればよかった。
それなのに、自分には関係ない、と言っている。この話を初めて知ったのが今年の1月と言っているが、去年だけで7回も飯を一緒に食べてゴルフをしているのに、その話が一度も出てこないのは不自然ですよ。
結局、すべての問題に関して、説明するのが面倒くさいと思ったんでしょう。
――なぜ安倍首相のような「普通の人」が、これほど権力基盤の強い首相になれたのですか。
運があったんでしょうね。
それと、かつての民主党、今の民進党があまりにだらしなかった。国民が、民進党に愛想をつかした。しかし、自民党以外の受け皿がない。ただ、まさか共産党を政権に就かせるわけにいかないと、国民は思っているんでしょう。
今も国民の多くはアベノミクスに満足なんてしていませんよ。しかし、アベノミクスに対する代案は出てこないので、過去4回の選挙は全て自民党が勝っている。
【ビル・エモット】アベノミクスにもコイケノミクスにも落胆している
国民は、野党の党首から、アベノミクスの批判なんて聞きたくない。それよりも、あなたの党が政権をとったら何をするか代案を出してほしいと思っている。それが今の状況です。

日本には保守政党がない

――なぜ野党からろくなリーダーが出てこないのでしょうか?
自民党がリベラルであって、野党もリベラルだからですよ。日本には保守が必要なのに、日本には保守がないんです。
日本というのは、世界の中で、極めて特殊な国です。何が特殊かというと、アメリカやヨーロッパ各国は、選挙では必ず保守とリベラルの戦いになる。
アメリカでいえば、共和党が保守で、民主党がリベラル。イギリスでいえば、保守党が保守で、労働党がリベラル。フランスもドイツも同じです。
保守とは何かというと、経済面では徹底的に自由競争。いわゆる、新自由主義です。そして、政府は、社会のことにあまり介入しない小さな政府を目指す。
ただ、自由競争をすると、格差がどんどん大きくなって、生活が苦しくなる人が増えていく。その結果、次の選挙ではリベラルが勝って、格差を縮めるために規制を設ける。そして、生活が苦しくなった敗者を救うために、福祉、社会保障にガンガンお金を入れる。すると財政が悪化して、次の選挙では保守が勝つ。
つまり、アメリカもヨーロッパも、保守とリベラルがほぼ代わり番こに政権を取ってるんですよ。
翻って日本を見ると、自民党は保守政党なのに経済はリベラル。大きい政府でばらまき。だから、1000兆円もの借金ができてしまった。
日本は野党もリベラルばかりであって、誰も財政再建を真剣に考えていない。こんな国は先進国で日本だけです。
日本で、保守らしい保守をやったのは、小泉純一郎だけですよ。
彼は痛みを伴う構造改革を行った。ただし、日本は自由競争が嫌いだから、朝日新聞を筆頭に、新自由主義を批判するんです。
2001年から2006年まで首相を務めた小泉純一郎氏。郵政民営化、道路公団改革など、小さな政府を目指した政策を推進した(写真:ロイター/アフロ)
――外交面における保守とリベラルの違いは何ですか?
アメリカで保守とリベラルを分けるのは、実は、安全保障が大きい。
共和党は、世界の警察という考え方なので、アメリカが戦争を始めるのは共和党のときが多い。民主党は、どちらかというと、ハト派です。
そういう意味では、自民党はリベラルですよ。一番大きい問題は、日本が戦後、安全保障をアメリカに任せてしまったこと。だから、自民党の党首はこれまで憲法改正と言わなかった。アメリカに任せればいいと考えてきた。
――日本は自由競争が嫌いで、保守が生まれないのだとしたら、未来永劫、今の自民党政権が続くのでしょうか。日本に本物の保守政党が生まれることはないですか。
生まれないですね。保守をやろうとしたのは、渡辺喜美のみんなの党ですが、すぐに失敗してしまった。
――都市の有権者に意見を聞くと、小さい政府に賛成の人はかなり多い気がするんですが。
そんなことないですよ。
もし自由競争に賛成ならば、終身雇用なんてあり得ない。年功序列もあり得ない。日本の社長は、大体サラリーマン上がりですが、アメリカやヨーロッパは、サラリーマンと経営者は全然別なんです。サラリーマンの成れの果てが社長なんていう国は、日本しかない。
そうしたサラリーマン経営者の欠点が、今、露呈してきた。サラリーマン経営者は、失敗が怖いから、チャレンジできない。
その一番の典型が銀行ですよ。まだ、自動車メーカーであれば、トヨタ、日産、ホンダにはそれぞれ何となく特徴がある。
でも、三菱東京UFJ、三井住友、みずほには何にも特徴がない。なぜみずほに預金しているかというと、単に店が近いからとか、ATMが多いからでしょう。
こんな企業が存在する国は珍しい。こうなったのも、政府が銀行を保護してきたからですよ。

トランプは武力行使するか

――今、喫緊の政策テーマは北朝鮮問題ですが、下馬評通り、総選挙で自民党が勝利した場合、安倍さんはどう対処すべきですか。
11月5日にトランプ大統領が日本にやって来る。トランプ大統領が、拉致被害者の横田夫婦に会うのは大サービス。これはおそらく安倍首相が頼んだと思う。
いちばんの問題は、こんなにサービスをするということは、トランプ大統領は日本に対して何を注文するんだろうということです。
ごく最近まで、アメリカ側は、ティラーソン国務長官もマティス国防長官も、最終的には、トランプ大統領と金正恩委員長のトップ会談を想定していた。
マティス国防長官(左)とティラーソン国務長官(右)はトップ会談を想定していたが、トランプ大統領が2人の意見を聞かない可能性もある(写真:AFP/アフロ)。
もし武力行使をしたら、北朝鮮が日本や韓国に対して攻撃しかねないので、トップ会談しかないだろうと考えていた。それは、日本の河野太郎外務大臣も、小野寺五典防衛大臣も同じです。
しかし、ここにきてちょっと変わってきた。トランプ大統領が、ティラーソン国務長官やマティス国防長官の言うことをどうも聞かなくなってきている。
理由は二つあります。
一つは、トップ会談をすると、北朝鮮に対して「核を廃棄しろ」とまで言えない可能性が高い。核開発を凍結させるにしても、核保有は認めざるをえない。そうすると、日本も韓国も核を持ちたいと考えて、核が世界中に広がりかねない。
もう一つの理由は、オバマとの違いが出せなくなる。
トランプ大統領は、オバマが北朝鮮に対して何もしなかったから核やミサイルの開発がどんどん進んでしまった、とぼろくそに批判している。「俺はオバマとは違う」と見せつけるためにも、北朝鮮をぎゃふんと言わせないといけない。
となると、トランプ大統領が、マティス国防長官やティラーソン国務長官の言うことを聞かなくなって、武力行使に踏み切るのではないか、という見方が外務省や防衛省でも出てきた。
北朝鮮に対して挑発的な発言を続けるトランプ大統領。11月5日からの訪日、その後の韓国、中国の訪問で何を語るのかに注目が集まる(写真:ロイター/アフロ)
もしかしたら、トランプ大統領は日本にやってきて、安倍首相に「武力行使をやるから、了承してくれ」と言う可能性がある。そのときに安倍首相はノーと言えるのか。
さらにトランプ大統領は、その後、韓国を経由して中国に行って習近平国家主席と会談するはず。そのときに、「武力行使をするかもしれないが、そのとき中国は黙って見ていてくれよ」というようなことを言うかもしれない。
中国も、中国の言うことをまったく聞かない金正恩を嫌っているので、可能性は非常に低いけれども、米中で組んで金正恩を殺すかもしれない。
――アメリカが武力行使に踏み切った場合、北朝鮮は日本や韓国を攻撃するとみていますか。
アメリカが武力行使をした瞬間、日本にミサイルが飛んできますよ。北朝鮮は、日本向けのミサイルはすでに狙いを定めていますから。
北朝鮮は北極星2型、ムスダン、スカッドER、ノドンなど多数のミサイルを保有。日本に打ち込まれるリスクもある(提供:KNS/KCNA/AFP/アフロ)
それは、日本側も分かっています。北朝鮮がミサイルを撃った瞬間に、そのミサイルの動きをすべて追えるレーダーをアメリカは持っているし、日本はミサイル迎撃の装置を30個ほど持っている。
――ただ、すべてのミサイルを迎撃できるとは限りません。
そのことについて、このあいだ、小野寺防衛大臣に「迎撃が成功する確率は何パーセントぐらいか」と聞いたら、「その質問だけは勘弁してください」と言っていました。
――もし日本にミサイルが落ちたとしたら、安倍内閣は吹っ飛びますか?
意外と吹っ飛ばないと思う。
むしろ、日本では「もっと守りを固めよう」「自衛隊をもっと強くしよう」、下手すると、「日本も核兵器を持とう」という話になるかもしれない。安倍内閣が飛ぶかどうかは別にして、野党が政権を取るということはあり得ない。

石破・小泉連合の可能性

――来年は自民党の総裁選もありますが、もし自民党の中でリーダーが変わるとしたら、どういうシナリオが考えられますか。ポスト安倍は誰ですか?
今は、大した議員がいない。全員、安倍首相のイエスマンになってしまった。
――今の自民党は、サラリーマン的な日本の大企業に似てきたのでしょうか。
東芝と同じ。言い換えると、神戸製鋼化と言ってもいい。
――先ほど、自民党執行部がポスト安倍候補として、岸田さんと野田さんの名前を挙げたということでしたが、この2人をどう評価しますか。
なぜこの2人の名前が出たかというと、安倍首相が、その2人がいいと言ったからですよ。
今の自民党は安倍首相のイエスマンばかりだから、安倍首相が名前を出さない人間は候補に挙がらない。安倍首相の口から、石破という名前は絶対に出てこないですよ。
――岸田さんに対する評価はどうですか。
安倍首相のイエスマンだよね。自分の意見を出したら、安倍から嫌われるから怖いんだよ。安倍首相から、言い寄られるのを待っている。
早稲田大学卒業後、日本長期信用銀行を経て、父である岸田文武の秘書に。1993年に衆議院議員に初当選。2012年12月から2017年8月まで外務大臣を務めた。現在は自民党の政調会長(写真:ロイター/アフロ)
野田は女性だから、岸田よりは多少面白いかもしれない。
――野田さんはどこが面白いのでしょうか。
この前の総裁選のときに、野田は総裁選に出ようとした。一時は、推薦人を25人集めたけれども、自民党の執行部が、「野田なんかを持ち上げたら、選挙で公認しないぞ」と脅した結果、18票になって立候補できなかった(立候補には推薦人が20人必要)。
それでも、唯一、彼女は立候補しようとした。そこは評価できる。
 上智大学卒業後、帝国ホテル勤務、岐阜県議会議員を経て、1993年に衆議院議員に初当選。37歳で小渕内閣の郵政大臣に就任。現在、総務大臣を務める(写真:Tomohiro Ohsumi/Bloomberg via Getty Images)
一方、石破は立候補しなかった。
あのとき僕は石破に、「地方創生大臣を辞めて、立候補しろ」と言ったんです。そしたら、石破は、「実は、地方創生大臣で今までやったことはプロローグでこれからが本番。本番の前に辞めて立候補するのは無責任じゃないですか」と言って、立候補しなかった。
――野田さんは総理の器なんでしょうか。
一番の問題は、「日本をどうするか」というビジョンを持っていないこと。
――ビジョンがない人ばかりですね…石破さんは、どう評価しますか。
真面目だと思う。ただ、なぜ石破が伸びないかというと、仲間をつくるのが下手だから。
慶應義塾大学卒業後、三井銀行勤務に勤務。父である政治家の石破二朗の死をきっかけに、政治家に。1986年に衆議院議員に初当選。防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣、地方創生担当大臣を歴任(写真:遠藤素子)。
もともと、石破は田中派だったのだけれども、旧経世会の額賀福志郎に、「田原さん、石破にもっと若いのと一緒に飲めと言ってくれ」と何回か言われたことがある。
それで、石破に「もっと若いやつと飲め」と言ったら、「田原さん、勉強が大事です」と答えたの。
――小泉進次郎さんはどうですか?
そういう意味では、石破と進次郎は仲がいい。石破にとっては、進次郎と、浜田靖一がいちばんの味方ですよ。
――石破さんと進次郎さんが組んだら、自民党内でも、政界全体でもムーブメントを起こせますか。
起こせるかもしれない。まあ、進次郎は、タイミングを待っているんじゃないかな。
【Day6】石破茂と小泉進次郎。二人が見据える「安倍が総理を辞める日」
――進次郎さんに、父親的な勝負師の才能を感じますか。
あると思うけどね。親父のときから、はっきりしている。
小泉純一郎が総裁選に立候補したときに、亀井静香が橋本龍太郎と組もうとした。そのときに僕は、小泉の側近だった中川秀直に会って、「亀井を口説け」と言ったの。「あいつは、脇が甘いから、口説いたら乗るぞ」と。
「では、なんて言って口説けばいいんだ」と言うから、「橋本の応援なんかしたって意味がない。もし小泉を応援してくれたら、100パーセント亀井さんの言うことを聞く。だから、小泉が首相になったら、亀井さんが首相になったのと同じだ」と言えと助言した。
それを実行したら、亀井が降りた。ところが、小泉は首相になっても、亀井の言うことをまったく聞かなかった。
それで、僕は小泉に、「あなたは首相になったけど、人間的には問題だ」と言ったの。
そしたら、小泉は「田原さんがおっしゃるとおり、人間的に問題だ。だけど、権力とはそういうものだ」と。なかなか言うなと思った。
私の意見に小泉純一郎は「殺されてもやる」と答えた
亀井は100パーセント裏切られた。その代わりに、民主党政権になって、亀井が郵政担当大臣になって、日本郵政の社長をクビにして、郵政をがーっと引っかき回した。
僕が亀井に、「そんなにあなたは、郵政に興味があるのか」と聞いたら、「まったく興味はない。ただ、俺は、小泉の野郎が作ったことをぶち壊したかった。それだけだ」と言っていた。政治とはそんなものですよ。

橋下徹の失敗

――今回、選挙に出馬するという噂も出た橋下徹さんはどう評価していますか?
彼の一番の失敗は、石原慎太郎と組んだことですよ。
もともと大阪都構想を掲げて、地方自治を唱え上げていたのに、国政に関心を持ってしまった。そして石原と組んだから中途半端になってしまった。それでは負けてしまう。
小池もそうですよ。東京都知事なら、東京都知事として実績を出さないといけない。それなのに、国政に関心を持ってしまった。
やっぱり橋下が国政に興味を持たなくて、あくまでも大阪で頑張っていれば、大阪府の府民や大阪市の市民も相当共感したと思う。
早稲田大学卒業後、弁護士として活躍。2008年に大阪府知事、2011年に大阪市長に就任。2015年に大阪都構想の賛否を問う住民投票を実施するも否決。同年、政界引退を発表した(写真:アフロ)
そもそも、なぜ大阪の地盤沈下が激しいのかというと、大阪の主要企業がみんな東京本社に引っ越してしまったからですよ。
例えば、京都の企業は、京セラをはじめとして京都で頑張っている。愛知もトヨタをはじめとして愛知で頑張っている。大阪も創業者は地元で頑張ったけれども、3代目、4代目になって東京に行ってしまった。
――橋下さんには、まだ政治家としてチャンスがありますか?
僕は、今度の選挙にも当然出ると思ったけれど、出なかったね。もう政治家を諦めたのか、それとも、もう一回大阪でやるのか、それは分からない。
ただ、彼はやっぱり政治家だと思う。このあいだも、自分のレギュラー番組が終わって、ほかにやることがないだろうから。
小池だって、これでつぶれてしまったわけでなく、また復活する可能性はあると思う。

経営者は政治に進出するか

――そのほかに、田原さんが期待している政治家はいますか?
1人は進次郎だろうね。
それと、民進党でいうと、玉木雄一郎が希望の党に入るとは思わなかった。ほかに、惜しかったのは、山尾志桜里だね。彼女には、相当期待していた。また復活するかもしれないけれども。
――山尾さんのどういう点を評価していたのですか。
はっきりものを言うし、頭がいい。だから、一度は、幹事長の仕事を任されることになったんでしょう。
東京大学卒業後、司法試験に合格し検察官に。2009年、衆議院選挙に初当選。2017年に民進党の幹事長に内定していたが、不倫疑惑が持ち上がり、離党した(写真:田村翔/アフロ)
――立憲民主党の枝野さんは大化けする可能性があるんでしょうか。
枝野は、真面目だと思う。
ただ、言っていることは、福島瑞穂とあんまり変わらない。今回の選挙で、枝野がなぜ健闘しそうかというと、判官びいき。日本にはそういうところがある。
――米国ではフェイスブックのマーク・ザッカーバーグが2020年の大統領選に立候補するのではないかという噂もあります。日本でも、政治家ではない人たち、たとえば、ビジネス界から政治を変える人は出てくるのでしょうか。
それはあり得ると思う。
【新】2020年、ザッカーバーグは大統領に立候補するのか
――この人が政治に出たら面白いと思う経営者はいますか?
何人かいる。
ただ、僕は、ベンチャービジネスの経営者をずっと取材しているけれども、今のベンチャービジネスの経営者は、あまり金についてはどうも思ってない。
それよりも、業を起こすことで、社会を変えたいと思っている。政治よりも、ベンチャービジネスで社会を変えたいという仕事人が多い。

言論の自由に命をかける

――最後の質問なのですが、田原さんはどういう思想を持っているのでしょうか。保守なんでしょうか、リベラルなんでしょうか。
まずは戦争は駄目だという思いが強い。
それと、もう一つ、ああいう戦争に日本が入ったのは、言論の自由がなかったからであり、言論の自由は絶対だという思いがある。この国は言論の自由をなくしたら、絶対にうまくいかないと思う。
だから、誰に対しても悪いと思えばちゃんと言う。森友、加計問題では、安倍が悪かったとしっかり言う。
――最近の日本で「言論の自由が失われつつあるのではないか」という声もあります。たとえば、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」による報道の自由度ランキングで、日本は180カ国中72位にまで落ちていますが、危機感はありますか?
危機感は強くない。悪いのは、新聞社などのメディアの経営者だから。
今起きているのは、言ってみれば、自主規制ですよ。安倍なんて怖くない。でも、政府からにらまれないほうがいいと思って、みんな自主規制しているんです。
僕は、戦争を知っている最後の世代。僕が小学校5年生のときの夏休みに、天皇の玉音があった。5年生の1学期から社会科の授業が始まって、軍事教練も始まる。そのときに社会科の教師がこう言ったんです。
「世界の侵略国であるアメリカ、イギリスを打ち破って、アメリカ、イギリスの植民地になっているアジアの国々を独立させ、自由に解放させればいい。そのための正義の戦争だ。だから、君らも早く大人になって、戦争に参加して、天皇陛下のために名誉の戦死をしよう」
ところが、2学期になったら、教師たちの言うことが180度変わった。
「あの戦争は実は、間違いの戦争だった。やってはいけない戦争だった。君らは、これからは、平和のために命をかけよう」
そして1学期まで英雄だった東条英機たちが逮捕された。1学期までは東条英機を褒めちぎっていた朝日新聞や毎日新聞も、逮捕されて当然だと言い始めた。
そうしたことを体験しているから、僕は、大人たちがもっともらしい口調で言うことは信用できない。偉いやつの言うことは信用できない。マスコミもまったく信用できない。
国家というのは国民を騙すというのが僕の原点。だから、言論の自由のためには、命を懸けてでも戦わないといけないと思っています。
(写真:遠藤素子)