【進次郎ーDay3】大谷翔平を見習え。目指すは「二刀流」の国づくり

2017/10/13
「魔法のじゅうたん」で北海道を激走
北海道札幌市内のあるタクシー会社では、朝から掲示板に一枚の紙が貼られていた。
そこに書かれていたのは、小泉進次郎の遊説日程だった。彼が街にやってくると、メインロードが渋滞する。
小泉進次郎の演説会を仕事の妨げと捉えるか、聴衆を目当てに商機と捉えるか。この日の札幌では、ドライバーの間で判断が分かれたという。
「こんな貼り出しがあったの、初めてですよ」
ベテランのドライバーは、そう言って笑った。演説の開始時間に合わせて、駅前のタクシープールに並び始めたらしい。
商売のためではない。小泉進次郎の演説というものを一度は自分の耳で聴いてみたかったという。札幌市内の違う場所でつかまえた別会社のタクシーでも同じ話題になった。
公示後3日目、進次郎は朝7時発の全日空機に乗って、新千歳空港に8時28分に到着。
昨日までの2日間をノーネクタイで過ごしていたが、今日は水色のレジメンタルタイを着けていた。本人曰く、「北海道は寒いから。クールビズじゃおかしいでしょ」。
空港から車で40分ほどかけ、苫小牧駅近くの自民党候補の選対事務所前(北海道9区)で一席打った。
その後、1時間半近くかけて車で移動し、岩見沢市内のホテルサンプラザ前で演説。この北海道10区は、2012年に自民党と公明党で候補者調整が行われた選挙区である。
元岩見沢市長が自民党の比例代表北海道ブロック1位となる代わりに、小選挙区選出の公明党前職を支えている。
演説会場では公明党の演説会なのに自民党の遊説車が使用されていた。北海道における自公共闘の象徴区だからだ。進次郎にとっては公示後初めて公明党の応援に入ったことになる。
小雨に見舞われた岩見沢から札幌市内に入り。はじめに新さっぽろ駅前(北海道5区)に立ち、冒頭に「札幌のみなさん、こんにちは。そしてお久しぶりです」とあいさつ。
直前の岩見沢でも同じフレーズを言っていたが、同じ選挙区に入る場合はいつも同じ地点に立つようにプランが組まれている。
それを利用して、「みなさんのこと、よく覚えていますよ」と告げて聴衆に親近感を持たせるのが小泉進次郎の話術というものだ。
また、新さっぽろでは、約200人の聴衆の中からJAの政治組織・全国農政連会長(北海道在住)がいるのを見つけ出し、街宣車の上から「私が農林部会長の時にお世話になった飛田(稔章)さんがあそこにいらっしゃる。北海道の農業界で有名な方なんです」と言って、高いところからのごあいさつ。
ランチは、国道12号沿いにあるプレハブ建てのラーメン屋。当別町にある有名店ののれん分けらしい。
進次郎は塩ラーメン(800円)を頼み、鉄板餃子をスタッフたちと分け合った。
筆者を含むメディア関係者たちは外で待っていたが旨そうな匂いに誘われ、取材対象に遠慮しながらも近くの席で札幌ラーメンをすすることになった。
それから、白石区役所前(北海道3区)、大通西4丁目(北海道1区)、発寒中央駅前(北海道4区)、札幌サンプラザ(北海道2区)と、この一日で札幌市が属する全選挙区を回った。
白石区役所前ではマイクがハウリングした瞬間、進次郎は「マイクの改革も必要だな」とぼやき、聴衆を笑いの渦に巻き込んだ。
しかし、今日はまだ終わらない。
札幌市内にある丘珠空港を使い、17時30分発の日航機で飛んだ。空港から車で約30分かけて到着した最終目的地は、函館駅前(北海道8区)だった。
終了時間は、18時49分だった。 明朝は11時前までに岩手県奥州市内の演説会場に到着しなければならない。
その場合、ルートが2つある。
北海道新幹線で同じ岩手県内まで夜の間に移動するか、それとも函館空港発の最終便で東京に帰り、翌朝の新幹線はやぶさ号で北上するか。
天候不順や思わぬ事故でひとつの経路が塞がった場合のために、常に別ルートが用意されているのだ。 それが不可能な移動を可能にする〝魔法のじゅうたん〟の一面である。
ちなみに、答えは前者だった。
これまで過去5度の全国行脚で300回近くの街頭演説が行われてきた。
筆者が知る限り、進次郎が来られないことで中止となったことは、真冬の爆弾低気圧の影響で北海道便が欠航した2度しかない。
「自民党職員のロジの力は、本当にスゴイ。あれは伝統芸、無形文化財ですよ」 。進次郎は今日の遊説日程が終わった後、普通電車に揺られながらそう呟いていた。
10月12日の「小泉進次郎の言葉」
「この北海道で新しい生き方、『人生100年時代』を教えてくれている象徴的な存在が、日本ハムファイターズの大谷翔平選手ですよ。
ピッチャーもできて、4番バッターとしても活躍できて、『二刀流』と呼ばれていて、もしかしたらアメリカのメジャーリーグに行くかもしれないというニュースもありますけど、アメリカでは大谷さんと違うタイプの二刀流がいる。
それは、アメリカのメジャーリーガーをやりながら、アメリカンフットボールのプロの選手でもある(人です)。
つまり、日本で言えば、Jリーグの選手をやりながら、プロ野球の選手でもある。そんな二刀流で活躍できている人がいるんです。
日本でも大谷翔平さんのような方を生きているうちに見られるということは、本当に幸せだと思うけど、もしかしたら将来、Jリーグとプロ野球の両方をやっている選手を見られるかもしれない。
そうやって活躍できる人材を生んでいくためには、これからの日本の発想を変えないといけない。
私は、学校の部活動だって、一つの部活をやることが当たり前じゃなくて、月・火・水が野球部で、木・金・土がサッカー部。
そういったことが当たり前になって、なにが自分に合っているのか、自分の中でも得意、不得意がわからない時代で、いろんなことを経験して、なにが自分に合っているのかを一人一人が見つめながら、見据えながら、人生を切り開いていくような、一本のレールではなくて、いくつものレールがしっかりと用意されているような社会をつくっていきたいと思っています。
そういう国づくりをしっかりやっていくわけです」(10月12日午後2時ごろ、北海道札幌市白石区)
「自民VS野党」一騎打ち
小泉進次郎は北海道に12もある選挙区のうち、8つを1日で回った。
北海道は立憲民主党を軸に短期間で野党一本化が進んだ地域で、自民党と野党の一騎打ちの構図になった選挙区が7つもある。
全国紙の情勢調査では、大半の選挙区で自民党が苦戦を強いられているようだ。
(写真:ロイター/アフロ)
進次郎は、この日は一つひとつの構図を事前に確認しながら、会場ごとに演説の内容を変えたという。
この日、札幌市内でアクロバティックな移動をしてまで函館に入ったのは、北海道8区が与野党対決の中でも自民党にとって最も厳しい戦いを演じているからにほかならない。
自民党の前田一男が前々回の衆院選で初当選するまで、自民党は16年間も議席から遠のいていた。
前田の対抗馬である民進党の逢坂誠二は今回、希望の党にも立憲民主党にも行かず、無所属の立場で戦いに臨んでいる。
それは、個人の力で自公を凌駕する独自の勝算があるからだ。
北海道はもともと労働組合や市民運動、そして農家の地位向上に取り組む農民連盟という団体の基盤が強く、地域に根付いた彼らが社会党を支えてきたという歴史がある。
その上、中選挙区時代には自民党内の同士討ちも激しかった地域であり、そのしこりは今でも道内各地で残っている。
こうした背景があるおかげで、北海道の民主党や民進党は革新勢力と保守の一部を取り込むことで、自民党と互角の戦いを演じてきた。
それが、北海道の国政選挙を見る時の筆者の理解である。
進次郎も函館駅前の演説でこう触れていた。「北海道は歴史的に自民党にとって厳しい選挙区です。その中でも特に厳しいのは、この函館なんです」。
✳︎敬称略
(取材・構成・写真:常井健一、動画:石原弘之、編集:泉秀一、冨岡久美子)