スウェーデンは「人口1人当たりのユニコーン企業の数」に関して、シリコンバレーに次ぐ存在だ。スウェーデン王立工科大学(KTH)からスピンアウトし、グローバルな可能性を持つ製品を手がけるスタートアップ3社を紹介する。

「人口1人当たりのユニコーン企業」シリコンバレーに次ぐ

スウェーデンは「人口1人当たりのユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の企業)の数」に関して、シリコンバレーに次ぐ存在だ。そしてスウェーデン王立工科大学(KTH)は、ストックホルムのマサチューセッツ工科大学(MIT)として知られている。
KTHからスピンアウトした次の3社は、世界的に成長する可能性があると筆者は考えている。まずは、スマートフォンのカメラを使い、手の動きを3Dでとらえることができるソフトウェアを開発したMano Motion。CEOはベンチャー企業を次々と立ち上げている人物だ。
Greenelyは、家庭でのエネルギー使用状況を記録するアプリを提供している。Shortcut Labsは、モバイル機器の機能をショートカットするスマートなワイヤレスの「ボタン」を提供する会社だ。
ほとんどの会社は、必要とするスタッフの一部をKTHから雇うことができているが、米国からも人材を求めている。Mano Motionは米国市場に売り込むために、カリフォルニア州パロアルトにオフィスを開設しようとしている。
*  *  *

1. Mano Motion

Mano Motionのダニエル・カールマンCEOはハワイ・パシフィック大学でコンピューター情報システムとファイナンスを学び、船舶技術者として働いていた。銀行向けにモバイルバンキング・アプリケーションを開発し、ゲーム会社を設立後、オンライン賭博会社Unibetの役員となった。
9月17日のインタビューでカールマンCEOが語ったところによると、その後ヘルス・テクノロジー会社を立ち上げるため娘とともにストックホルムに戻っていたが、起業家を支援するKTH Innovationの要請で、2015年にMano Motionに入社した。
Mano Motionの共同設立者シャルーズ・ヨウセフィ博士とハイボ・リー教授は2010年、「手の動きを分析する研究」を始めた。そして、小さな画面上で手の動きを正確に記録する方法に関して、特許申請をすることになった。
KTH Innovationは、カールマンがこのアイデアをビジネスにすることができる起業家だと考えた。カールマンに会ったヨウセフィ博士とリー教授はこう言った。「ダニエル、私たちは世界を変えたい。もっと自然で直感的に対話できるテクノロジーをつくりたい」
カールマンは2人が目指すところに賛同した。そして今後、人間とコンピューターの対話では、視覚、声、動作を組み合わせて人間の意図を表すことになるだろうと考えた。Mano Motionは2017年6月まで、顧客の検証を得るための試作品をつくっていた。
カールマンCEOは、10カ国から14人を選んでチームをつくった。
KTHの修士課程か博士課程で、ディープ・ラーニングやコンピューター・ビジョン、あるいは人間とコンピューターの対話を研究していた若い研究者たちを雇ったほか、シンガポール国立大学、スウェーデンのリンネ大学、ジョージ・ワシントン大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校からも人を雇い入れた。
2017年9月までにMano Motionは、可能性のあるパートナーと20を超える秘密保持契約を結び、Mano Motionの技術を使ってアプリケーションをつくりたいという開発者から1000以上のリクエストを受けた。
開発者や企業はMano Motionのアプリケーションを無料で試すことができるが、商業化するにはライセンス費用を払わなければならない。
カールマンCEOは、2018年にパロアルトにオフィスをつくる計画だ。販売とマーケティングの拠点とし、おそらくはスタンフォード大学から人を雇う。
また、香港や上海の市場を見据えて、もう1カ所アジアにも販売とマーケティングのオフィスを開く予定だ。2018年末までには、Mano Motionの従業員数は30人を超えると見込んでいる。

2. Greenely

タンモイ・バリはKTHで土木工学を勉強し、持続可能な都市計画と設計で理学修士号を取得した。学術論文のプロジェクトでスマートシティ「ストックホルム・ロイヤル・シーポート」のコンサルティングに携わっていたとき、ある考えが浮かんだ。
大手公益企業が提案するコンピューターシステムをつくる代わりに、電力網からのデータを直接使い、家庭のエネルギー使用状況を記録したいと思ったのだ。これがGreenely設立の基本となったアイデアだ。
9月17日のインタビューでバリが説明したように、彼は事業計画のコンテスト「ベンチャー・カップ」に参加したあと、2014年2月に正式にGreenelyを立ち上げた。
2016年、Greenelyは約13万ドルの売上を記録した。2017年はその2倍の26万ドルを予定している(6000以上の世帯と大手公益企業3社にサービスを提供する計画だ)。
Greenelyのフルタイム従業員11人は、エネルギーと電力、事業開発、製品開発、マーケティングなどの経験を持つ。その多くはKTH出身だ。プロダクト・マネージャーや最高技術責任者などの重要ポストの人材確保には、英国とスウェーデンのヘッドハンターの力も借りた。バリは次のように述べる。
「今後は、相当数の人材を雇おうと考えている。特に必要なのが、管理部門の増員と人事マネージャーの採用だ。心理学者と行動科学者も要る。
すぐれたプログラマーと事業開発者は、スウェーデン(ストックホルム大学やヨーテボリ大学)とカリフォルニア(スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校、カリフォルニア工科大学)から採用する」

3. Shortcut Labs

Shortcut Labsの共同設立者でもあるヨアキム・ウェストルンドCEOは、2010年に造船工学の設計及び製品実現でKTHで理学修士号を取得し、その後ニュージーランドで帆走ヨットの設計をしていた。だが彼は、1カ所にとどまれない人物だった。
ウェストルンドCEOは、9月18日のインタビューで次のように語った。
「私は、プロジェクト管理コンサルタントとプロダクト・マネージャーとして、いくつかのポストについていた。スカニア(Scania)のような大きな企業や、スウェーデンの銀行数社のコンサルタントをしていたのだ。
最後に雇われたのは、スウェーデンの小さなITセキュリティ会社SecMakerで、プロダクトおよびプロセス・マネージャーとして働いた。私は1年に1度仕事を変えたが、自分で仕事を始めるまでは、あまり落ち着けるところがなかった」
ウェストルンドCEOが立ち上げたのは、スマートフォンに取りつけるボタンをつくる会社で、このボタンはもともとは、彼がタバコをやめる助けとなったものだという。ウェストルンドCEOはこう説明する。
「雇われていたときは、プロジェクトをいくつか持っていた。そのうちの1つが禁煙を助けてくれるiPhoneのアプリで、私もこれで『スヌース(スウェーデン伝統のかぎタバコ)』をやめた。スヌースを摂取するときに、アプリで緑色の大きなボタンをタップし、摂取量を管理するというものだった。
だが、1時間に1回以上、喫煙のたびに携帯を手に取り、ロックを解除し、アプリを立ち上げてボタンをタップするというのは面倒だった。そこで、携帯からボタンを外に出して物理的なボタンをつくることを思いつき、『Flic』が生まれた。私はワイヤレスのボタンでどれだけのことができるか、考えを膨らませた」
ウェストルンドCEOは続ける。
「2012年には実用的な試作品をつくり、私のスヌースのアプリと連動させて、スタートアップが集まるストックホルムのさまざまな活気あふれるイベントで、それを見せて回った。ある人が、起業家を支援するイノベーション・グラントに申し込んではどうかとアドバイスしてくれた。
ソフト・ファンディングを2回やったあと、仕事をやめる決心をし、共同設立者のアミル・シャリファトを引き入れた。彼は非常に生産的で有能な取締役だ。生産技術の研究をやめて、最高執行責任者(COO)として入社してくれた。
そしてプラナフ・コズーリは、私の製品設計を補足し、信じがたいほどのカリスマ性と人脈づくりのスキル、セールスをするうえでの素晴らしい存在感で、社交を苦手とする私を助けてくれている」
Shortcut Labsは2014年末にクラウドファンディング・キャンペーンを開始した。それ以降、20人の従業員とともに、世界中のおよそ10万人のユーザーに対して、20万個以上の製品を販売・出荷してきた。
従業員の中には、KTHのソフトウェア開発コースの一環としてFlicに関わったという優秀なソフトウェア・エンジニアのチームもいる。年間売り上げは約150万ドルで、急激に成長中だ。
Shortcut Labsは、設計者1名、ハードウェアとソフトウェアのエンジニア数名、事業開発の上級職数名の採用を考えている。
ウェストルンドCEOはこうした人員を、ストックホルムとアジアで、オートデスク(Autodesk)、セールスフォース・ドットコム(Salesforce.com)、ドロップボックス(Dropbox)、ESIグループなどの企業から見つけることができると考えている。
*  *  *
3社は、グローバルなニーズに向けてビジネスを構築している。もし世界中の顧客に製品を販売することができるなら、彼らがもっと大きくなるだろうことは想像に難くない。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Peter Cohan/Founder, Peter S. Cohan & Associates、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:scanrail/iStock)
©2017 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.