SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、最近話題となっているEVシフトについて、エネルギーの観点から背景を整理し、今後の動向を考える。

輸送用燃料の石油依存度は高い

現在、世界の燃料として最も一般的なものは、化石燃料である。輸送部門全体の燃料は、世界の石油消費量全体の過半を占めている。また、輸送部門の大半を担うのは自動車であることから、自動車用燃料の石油依存度は高いといえる。
現在、石油の供給源は、サウジアラビア、ロシア、イラン、イラクなど中東を中心とした一部の国に依存している。近年は、シェールオイル開発により、米国が原油生産国上位に急浮上してはいるが、石油埋蔵量の新規発見は減少傾向にあり、基本的な構造は変わっていない。また、特定の国への依存度が高いということは、政治的なリスクを高める要因にもなり得る。
エネルギーの安全保障の概念に基づくと、自動車による石油の使用量をある程度減らす(石油依存度を下げる)ことが必要となる。その手段の1つとして、自動車業界においては様々な動力源の開発が行われてきた。そして、現在の技術水準で実用段階にあるものが電動化技術である、という事情が推察される。

排ガスへの対策が必須

化石燃料を燃焼させると、CO2やNOxなど、温室効果や大気汚染のもととなる排ガスが発生する。そのため、1960年代頃を境に、排ガス規制が自動車開発の前提とされてきた。
なお、世界のCO2排出量を部門別にみると、2014年時点で輸送部門が全体の23%を占めており、最大である電力に次いで大きい。

各国政府が規制強化とEV普及を推進

近年の大きな動向としては、米国カリフォルニア州におけるZEV規制が挙げられる。
ZEV規制とは、同州内における年間販売台数6万台を超えるメーカー6社(米Chrysler、米Ford Motor、米General Motors、本田技研工業、日産自動車、トヨタ自動車)は、同州内における販売台数の14%をZEV(Zero Emission Vehicle)にしなければならないという規制である。現在は、アリゾナ、コネチカットを始めその他の州でも徐々に導入が進んでいる。
ここでのZEVは、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池自動車)のみとされ、ガソリン、ディーゼルはもちろんHV(ハイブリッド車)も対象外とされている。
2018年型以降は同規制が強化される。州内の総販売台数基準が6万台から2万台へと引き下げられるため、対象となるメーカーが多くなり、ZEV販売比率も16%に引き上げられる。
また、直近では2017年7月、フランスや英国が、2040年までにガソリン車、ディーゼル車の新車販売を禁止にする方針を示したことは記憶に新しい。続いてドイツは2030年、オランダやノルウェーなどは2025年をめどとして、同様の方針を表明している。
世界最大の自動車市場である中国でも、2016年にNEV(新エネルギー車)規制が打ち出されたが、さらに2017年9月にそれを強化する方針が発表された。中国国内で年間3万台以上の乗用車を製造、販売するメーカーを対象に、2019年には生産販売総数の10%、2020年には12%をNEV化するよう義務付けるとしている。また、他国と同様にガソリン車やディーゼル車の禁止も検討するようだ。

「電動車両」の普及状況を確認

改めて、現状のEV(電気自動車)およびPHV(プラグインハイブリッド車)の普及状況を確認してみる(以降は、EVとPHVを合わせたものを電動車両として記載))。
国際自動車工業連合会(OICA)によると、2016年の世界新車販売台数は6,946万台、保有台数では12億台を超えている。また、国際エネルギー機関(IEA)によると、同年の電動車両(EV+PHV)の販売台数は75万台、集計開始以来の累計では約200万台に達したとされている。
このことから、現状の電動車両の普及率は、販売台数にして約1%、保有台数にして0.1~0.2%とみられる。

なお、IEAは、2050年頃までの車種別販売台数を下記のように予測している。2020年時点でのEV+PHVは、販売台数全体の7%を占めるとされているが、その予測に対する現状の進捗は順調とは言いがたい。

各社相次いで電動化戦略を発表

一方で、電動化に向けた各社の方針発表は相次いでいる。下記は、2017年9月末時点までに確認可能な各社の電動車両販売計画である。
自動車メーカー側で電動化戦略の公表が加速したのは、2015年に起きたVolkswagenのディーゼル車排ガス不正問題が実質の発端だが、直近の政策発表がそれに拍車をかけている。事前の投資計画があったとはいえ、車種開発の猶予を考慮すると、各社とも非常に厳しい状況に直面していることは間違いない。

電池分野の技術革新は途上

では、実際の電動化はどの程度のスピード感で進むのだろうか。電池分野の動向をみてみると、量産車への普及には、もう一段の技術革新が必要な状況である。
現在、電動車両向け電池の主流となっているリチウムイオン電池については、航続距離延長とコストダウンを目指した研究開発が継続されている。一方で、安全性やエネルギー密度などの観点では、すでに理論限界が近づいているとの見方も出てきているようだ。
また、原材料価格がネックとなり、今後の価格低減が期待通りに進まない可能性も高まっている。リチウムイオン電池の正極材料には、リチウムやコバルトなどのレアメタルを使用しているが、総量には限界がある。また、電池開発が活性化するほど、原材料不足が加速し、さらなる価格高騰につながりやすい。
このような問題を解決するため、リチウムイオン電池を代替する手法の開発もあわせて行われてきた。具体的には、正極材料のレアメタルフリーを実現するナトリウムイオン電池や全固体電池、リチウムイオン空気電池などが挙げられる。
全固体電池は、電解液を使わないことから液漏れの恐れがなく、高電圧化、大容量化にも対応しやすい。また、高価な部材であるセパレータも不要となる。電解質が難燃性であることから発火もしにくいほか、幅広い温度帯において安定するという特徴も持つ。
実際の車両への採用にはまだ時間がかかるが、今後の研究開発を続けるにあたっては朗報もある。
2017年7月、東京工業大学やトヨタ自動車のメンバーによる研究グループから、安価かつ汎用的な電解質材料を発見したことが報告された。これにより、全固体電池の大幅なコスト引き下げが可能になる見込みである。高価なGe(ゲルマニウム)と、化学的に不安定なCl(塩素)を、Sn(スズ)とSi(ケイ素)による組成に置き換えることで、生産や使用における安全性や性能向上を実現している。

内燃機関の改善は続く

このような状況から、自動車メーカー各社は、排ガス対策の基本である燃費の改善についても、これまで通り取り組み続けている。燃費改善の具体的な方法としては、車体の軽量化やエンジンの効率化などが挙げられるが、ここでは直近のエンジンの事例を取り上げる。
「日産 リーフ」に始まり、EV市場をけん引してきたイメージのある日産自動車は、2016年8月に可変圧縮比エンジンを量産化した世界初の事例となる「VC-T」を発表。EV開発のみならず、内燃機関の効率化にも継続的に取り組んできたことを示した。
トヨタ自動車は、TNGAに基づく新型エンジンとして、2016年12月に2.5l直噴ガソリンエンジンを発表。これにより最大熱効率40%、ハイブリッド用では41%と高水準を達成した。また2017年4月には、TNGAに基づく第2世代エンジン開発プロジェクト「DS20」に着手することを公表している。
マツダは、2017年8月に、次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」を2019年に実用化する方針を発表した。燃焼方式として、圧縮着火と火花点火の2種類を切り替える独自技術(火花点火制御圧縮着火(SPCCI:Spark Controlled Compression Ignition))を用いる。「SKYACTIV-G」採用の現行ガソリンエンジンに対して、エンジン単体の燃費率を最大20~30%程度改善できると見込んでいる。

エコカー製品化のハードルは依然高い

実際の販売車種から、動力源ごとの重量あたり価格と航続距離の分布を下記表に示す。
なお、今回は感覚的な把握を趣旨として、理論値ベースの単純比較を行っている。数値の厳密性をみるものではない点に留意したい。
実際には、乗り方や走行環境により数値は大きく変動するが、現状はガソリン車やHVの方が、価格や航続距離で一定の優位性があることは事実である。
現状のEVでも近距離走行には十分だが、今後本格的な普及を目指すのであれば、ガソリン、ディーゼルほどではないにしても、やはり航続距離の向上が課題となるだろう。
価格帯については、ブランディングによる違いも大きいため、一概には言えないが、EVはガソリン車よりやや高めの設定となっている。特にFCVでは、いわゆる高級車セグメントに近い。将来的には、補助金などがなくても手が届く商品であることが望ましい。
また、充電/充填にかかる時間やステーションの不足、消耗したバッテリーの交換など、維持管理まで含めた消費者の利便性についても、いまだ改善の余地がある状況である。

また、EVは、中古価格の残価についても、まだ課題が残る。



電源との関係性が強まる自動車

このような状況においても、自動車メーカー各社は地道な改善と製品化に取り組み続けている。
独Mercedes-Benz(独Daimler)は、2017年9月に開催されたフランクフルトモーターショーで、燃料電池システムとプラグインハイブリッドシステムを組み合わせたFCV「GLC F-CELL」を公開した。その際、水素製造への再生可能エネルギー導入などについても言及している。
「Well to Wheel(井戸から車輪まで)」という概念は有名なものだが、自動車のエネルギー使用を考える際には、車両の動力源のみならず、車両に供給される燃料が何によって作られるのかも論点として欠かせない。
2017年8月から、日本においても「エネルギー基本計画」の見直しに向けた審議が開始されたが、これは発電のみならず、用途ごとの使用まで一貫して関わるものであることを念頭に置きたい。
その意味では、現在は水素も化石燃料由来のものが主流であり、EVと同様の問題に直面しているといえる。
その状況にも関わらず、今回Daimlerは、水素燃料にも引き続き取り組んでいく姿勢を積極的に示した。なお、トヨタ自動車も、2015年の段階で燃料電池自動車のコンセプトカー「TOYOTA FCV PLUS」を発表している。
いずれも長期的なエネルギー戦略に基づき、自動車の動力源が多様化する未来を描いたものであると考えられる。一方で、この2年間のうちに、より現実的な技術が見つかっているということは、改めて注目すべき点といえるだろう。

まとめ~次世代に向けた改善と挑戦~

「海図のなき、前例のない戦い」(トヨタ自動車代表取締役社長豊田章男)という言葉にも表現されているように、現在の自動車業界は大きな変革期にある。
従来は、自動車が石油燃料を使用するという前提のもと、石油燃料の使用量をいかに減らせるか、使用した石油燃料をいかにクリーンに排出するか、といった観点での開発が主体だった。また、政府もそれに基づいた政策をとってきた。
しかし、今後電動化による輸送用燃料(動力源)の多様化が進んでいくにつれ、石油燃料の使用を前提とした規制の多くは、効力が弱まっていくだろう。
エネルギー以外の方面では、自動運転システムが挙げられる。ここでは詳細を省略するが(以前の記事を参照)、自動運転システムの確立により、長期的には高度なモビリティ社会が形成されていく。
事故ゼロの達成を含む安全な道路交通システムの構築を始め、個人の自由で快適な移動の担保、物流や旅客など自動車関連産業における連携強化、それに伴う交通流の最適化などが期待されている。
このように、自動車産業を支えるインフラ基盤が大きく変化することにより、ようやく自動車が究極のエコを目指す出発点に立つことができる。
ただし、その時までにはまだ時間がかかる。研究開発に取り組むだけではなく、中期的には、実際に製品化を行い、事業としての継続性を保つことも避けられないだろう。
今後自動車が、エネルギーインフラの一端を担う役割を、どのように体現していくのか。各社の戦略に注目していきたい。

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