極小住宅を広く使う、折りたたんで住居を変えるロボット家具「オリ」

2017/9/28

ボタン一つで家具が変化する

近い将来、ロボットが家庭に入ってくるようになると、家のデザインも変わらざるを得ないと言われる。
つまり、人間が作ったスペースに無理やりロボットを適応させるのではなく、人間も少しロボット側に歩み寄り、ロボットが動きやすい場所を作るべきだという考え方だ。
お掃除ロボットのために、すでにわれわれは床の上に散らかったおもちゃを片付けたり、障害物を取り除いたりしているのが、その走りだろうか。
ところが、住居自体をロボットにしてしまおうという考えが出てきた。それもすでに製品化間近という段階だ。
それは「オリ」と呼ばれるロボット家具である。オリは「折り紙」から取った名称で、その名の通り、折りたたみが可能な家具である。ボタン一つで、家具が変化するしくみだ。
オリは、見たところ巨大な棚で、部屋の中心に陣取っている。棚の中に見えるのは、本棚、テレビのスペース、引き出しなど。片側には、平らな台もある。
ミソは、この棚自体が左右に動き、また棚の中にデスクやベッドがしまい込まれていることである。これらがその時の用途に応じて、ボタン一つで出てくるのだ。

狭い住宅でも空間を有効利用

オリが想定するのは、ニューヨークのような高密度の都市生活である。賃貸アパートはどんどん高くなっているので、必然的に1戸あたりの床面積が狭くなる。
そうした時に、スッキリきれいな住まいを保ち、かつ空間を有効利用するにはどうすればいいのか。そこから出てきたのが、このアイデアだった。
具体的な使い方は、次のようになる。スタジオ、つまりワンルームのような場所を想像して欲しい。
日中は、オリを片側へ少し寄せておく。窓側にソファなどを置いたちょっとリビングルームのようなスペースがあれば、そこに向かってオリは机の天板を押し出す。椅子を持ってきて座れば、そこはリビングルーム兼書斎というわけだ。
棚の反対側には日常的な小物などを入れてあるので、それを取りに行ったりするかもしれない。
夕方、友人たちがやってくる際には、オリをもっと寄せて、リビングルームのスペースを広くする。ソファと数脚の椅子があれば、十分に余裕のあるパーティースペースにもなる。
夜になると、オリを今度は窓側へ寄せるのだが、その時に下から出てくるのがベッドだ。けっこうしっかりと作られたベッドで、半永久的に使えそうである。棚で仕切られていることによって、ちょっとコージーで落ち着いた寝室ができる。
オリは、いわゆる家具版トランスフォーマーロボットといったところだろうか。

マイクロリビングと住居の未来

今、アメリカでは「マイクロリビング」という表現をやたら耳にするのだが、これは極小住宅のことである。
さすがのアメリカも、都市部では住まいを信じられないくらい狭くしなければならなくなったためで、オリはそうした極小住居のラグジャリー版コンドミニアムなどでの導入を狙っているという。
そうか、家具や住まいの空間をロボットにすればいいのかと、オリを見て確かに感心した。動く時には気をつけて挟まれないようにしなければならないのは、相手がロボットなのだから当然だ。停電するとベッドが出てこないかもしれないが、それも電気仕掛けのロボットなので仕方がない。
だが、変化する空間というアイデアは結構使えそうである。
現在のオリは、スマートでスッキリしたデザインに仕上げてある。だが、もしこんな考え方が広まれば、トランスフォーマー家具にももっと洗練されたデザインや突飛なデザインが出てくる可能性もあるだろう。天井から食卓が下りてきたり、ベランダが飛び出したりする、などだ。
日本の住居では布団を敷いたり座敷机を出したりできる畳の間が、そうした変化の空間だったわけだが、このオリはいかにも西洋風のアプローチだ。1台1万ドル程度の価格を目指しているという。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:© Ori 2017.)