ROA、日本が米逆転(世界企業、日本の立ち位置)
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注目のコメント
データ的に、とても違和感を感じる。後述するが、意図的にこの記事を書いたとしたら、極めて残念。
結構この関連の記事をPickしてきたし、運用業に従事しているときも見てきたが、それらでレバレッジが主因で日本のROEが低い(ROAでは差はない)という話は聞いたことがない。下記は7月の日経の記事だが、このグラフでも日本と世界のROEの差は利益率に起因すると書いている(これは金融除きの分析)。その結果との差は何か?
https://newspicks.com/news/2409159
またみさき投資・中神社長の東証での講演資料だが、スライド17に日米欧(ドイツではない)の比較があるが、ここでも差は利益率。
http://bit.ly/2uJiGLd
なぜ、これだけの差が、上記資料など一般で言われているポイントとずれた結果になっているのか?たぶん金融も含めた計算を、日経225という「いびつな指数」でやっているから。
金融業はレバレッジの塊の業種なので、それが入っているか入っていないかでレバレッジの数値は大きく変わる。
なので、記事で使われている日本=日経225、米国S&P500、ドイツDAXについて、ETF資料で業種構成比を見てみた(いずれもBlackRockのiShare)。
そうすると日経225は金融2.33%(銀行・保険・証券の合算)、SP500は14.18%、DAXは16.66%。
なぜ日経225だけ低いかというと、指数が株価を単純平均するという方式で作られているのに対して、SP500やDAXは時価総額加重という違いのため。この問題点はよく指摘される点で、一般的に運用業界ではTOPIXなどが使われる。
この調査が構成比をかけているのか、それとも実際の規模を加味しているのかは分からない。だけど、問題だと思うのは、それくらい重要な論点なのに、記事で分析手法について、母集団と決算期以外言及していないこと。
日経225採用企業を母集団としているが、そこを指数構成比で荷重しているのか、それとも母集団企業の実数を積み上げているのか、平均して求めているのかでは、結果は全く違う。
おまけに、ROA重視が政府の未来戦略2017で入っている。日本企業のROEが低いことを、すべてレバレッジのせいにしているように読める文章で、そこへの誘導が意図だとすれば、極めて遺憾。資産効率が改善したことで日本企業のROAがアメリカ、ドイツを凌いだということで嬉しい記事ですね。
自分でデータを取って確認していないので、いい加減なことは言えないんですが、背景には、アメリカやドイツの大手企業が大型の買収によって資産の中に巨額の「のれん」が含まれていることも米独のROAが低くなっている面もあるのかなぁと推測しています。
米独企業ののれんは償却しないので、どうしたって資産が大きいためROAが低くなりますが、日本企業ののれんはIFRS/USGAAP採用企業以外は償却しないので資産が小さくROAが高くなる傾向にあります。財務レバレッジが低いということは、事業に使う総資産の多くを自己資本で賄っているということです。利益が一定なら、レバレッジが低いほどROAがROEに比べて相対的に高くなる。日本企業はこのところ内部留保を急速に増やしていますから、ROEで比べるよりROAで比べる方が、改善度合いが高くなるということですね。それはそれで喜ばしいことですが・・・・
改善幅はともかく、売上高利益率の絶対水準は日本企業の4.8%に対し米企業は9.2%で、米企業は日本企業のほぼ2倍。一方、財務レバレッジは日本企業の約3倍に対し欧米企業は4倍台とのことなので、売上高利益率ほどには差がありません。
日本企業が資産を有効活用していることは間違いなさそうですが、技術力や製品の魅力を梃子に小さな設備で付加価値の高いモノを生み出しているといえるのか (・.・? 1990年以降、我が国の設備投資が低迷して機械設備の年齢が米国やドイツに比べてかなり高くなったといわれます(経済財政白書2013年版)。近年、設備の更新投資は多少増えているようですが、欧米企業と比べてどうでしょう。
万一、日本企業が償却済みの古い設備を使って収益率の低いモノを作り続けているとすれば、ROAの高さは必ずしも喜ぶべきことにはなりません。総資産の大きさは適用する会計基準によってかなり大きく異なる側面もありますから「ROA、日本が米逆転」という見出しや「財務テクニックに頼らず地道に取り組んできた構造改革が、成果を生みつつある」という説明で優越感に浸るのは禁物であるように感じます。