近い将来、英国は欧州連合(EU)から離脱する。テリーザ・メイ首相は実業界のリーダーたちとの連携を強化している。

企業幹部やロビイストは、予備交渉や、政府が移行期間の必要性を認識し始めていることに満足しながらも、離脱そのものとその後の貿易協定について、さまざまなことを要求している。

Bloomberg Newsは各業界のリーダーに取材を申し込み、EU離脱時にどのような取り決めを求めるか、これまでにどのような進展があったかを質問した。

1. ヘルスケア

英国の製薬会社グラクソ・スミスクラインは、政府がより「実利的なアプローチ」に転換したことを歓迎し、少なくとも2年の移行期間を求めている。一方、アストラゼネカは、業界が新しい環境に適応するための準備期間は3~5年必要だと述べている。
EU脱退はEUからの支援が得られなくなることを意味するため、もし英国政府が同等の支援をしなければ、研究開発(R&D)が失速するかもしれない。
また、アストラゼネカのような大企業は、EUの科学者が英国で働くことができるような移民法を求めている。さらに、EUの規制当局である欧州医薬品庁がロンドンから拠点を移すことになるため、政府は連携を維持する必要があるという。

2. メディア

英国のエンターテインメント業界にとって、EUでの権利を失うことは映画やテレビ番組への投資の抑制につながりかねない。
米国のスタジオはヨーロッパの拠点として英国を選択しているが、その地位も脅かされる可能性がある。放送局は英国のライセンスでEUとその人材にアクセスしてきたが、EU離脱によってライセンスが無効になった場合、スタジオやオフィスの移転を余儀なくされるだろう。
さらに放送局は、投資を促す補助金を打ち切られないよう、英国で制作された番組が引き続き「ヨーロッパ制作」として認められることを求めている。
さらに、ITVなどのテレビ局は、主な収入源である広告についても懸念している。もし関税によるインフレと通貨の下落が利益をむしばむようなことがあれば、英国の小売業者は広告費を削減するかもしれない。

3. 通信

英国からの旅行者はEU離脱後、電話料金が高くなる可能性がある。EUは6月にローミングの手数料を廃止したが、BTグループやボーダフォン・グループなどの通信事業者はEUネットワークの卸値の上昇に直面するかもしれない。
EU労働者の移動規制は特にBTに打撃を与えるだろう。BTはインターネットの速度を向上するために光ファイバーの増強を進めており、電柱に登ってケーブルを敷設する作業に多くの移民が従事している。
また、通信事業者は国境を越えたデータの流れが妨げられないことを望んでいる。もし欧州委員会が英国も同等のデータ安全保護策を講じているとみなさなければ、データの自由な流れが妨げられる恐れがある。

4. テクノロジー

英国のテクノロジー業界が主に抱いている懸念は、EUの有能な人材を雇用できなくなることだ。ロビー団体「テックUK」によれば、テクノロジー業界では、2009~2015年に新規雇用された6人に1人がほかのEU加盟国の人材だったという。
また「中小企業連盟」は、EU加盟国の人材はEU離脱後の自身の権利について不安を抱き、どれくらい英国にとどまることができるのか心配していると指摘する。「政府にとっては、期限をぎりぎりまで延ばすほうが理にかなうだろう」
さらに、EUが計画しているデジタル単一市場を英国がどれくらい導入するかも宙に浮いたままだ。

5. 農業

英国の農業経営者は、最大の輸出市場であるEUへのアクセスが困難になることを恐れている。もし世界貿易機関(WTO)の関税が適用されれば、農業はほかの業界よりも苦しむことになるだろう。肉や穀物の関税率は40%を超える。
また、業界は労働力の確保も求めている。「英農業園芸開発委員会」の報告によれば、英国では2015年、農業従事者の20%前後に相当する約2万2000人がEUの人材だったという。「英農民組合」は季節労働者に特別なビザを発行するよう働き掛けている。
さらに、EU離脱はEUからの助成が打ち切られることも意味する。他国と貿易協定を結ぶ際も、例えば、塩素で殺菌された米国の鶏肉を受け入れざるを得ないなど、農産物の品質基準が低下する可能性がある。

6. 金融

銀行が最も望んでいるのは、2年間の離脱交渉後、EUの単一市場にそのままアクセスできる長い移行期間が設けられることだ。
ロビー団体「UKファイナンス」のステファン・ジョーンズCEOは「加盟金融機関の顧客の利益を守ることができるようなEU離脱を実現するには、移行期間を設けることが『最優先事項』だ」と述べる。
一方、移行期間が設けられず、2019年3月にEUでの権利が失われた場合のために、金融機関は英国に拠点を置く一部の事業を移転し、EU内に取引拠点を新設したり、拠点を拡張したりする準備を開始している。
ドイツとフランスはユーロ決済の監視役を引き継ぎたいと考えており、そうなれば英国からの人材流出が促進されるだろう。

7. 自動車

自動車メーカーはEU離脱後、EU内の貿易に10%の関税が課されることを懸念している。2015年の自動車輸出は、EU内への輸出が過半数を超えていた。
PAコンサルティング・グループの試算によれば、単一市場での権利を失う「ハード・ブレグジット」が成立した場合、英国車の価格は平均2300ポンド(約33万円)上昇するという。EU内に散らばった製造拠点で部品を自由に移動することも難しくなるだろう。
「自動車製造販売協会」は政府に対し、EU離脱が成立するまでの間、英国が関税同盟と単一市場にとどまることができるよう「暫定的な措置を講じてほしいと公式に」要請している。また英国政府は、国民投票後に工場への投資を自粛しているトヨタ自動車と日産自動車に対し、何らかの保証を約束する書簡を送っている。
※ 続きは明日掲載予定です。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Charlotte Ryan記者、Thomas Seal記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:boschettophotography/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.