米国防総省のイノベーション実験組織「DIUx」は、突如現れる標的に迅速に対処するためのソフトウェア開発に取り組んでいる。前長官の時代に設立されたDIUxは、長官交代を乗り越えて生き残った。

突如現れる標的に対応する新ツール

IS(イスラム国)やアルカイダの分派を叩くために出撃している米軍のパイロットたちは、近い将来、「突如現れる」標的の攻撃を命じられるかもしれない。シリコンバレーで開発された合理的な作戦計画ツールを介して、逃走車両や奇襲攻撃の一団、道端に爆弾を仕掛ける者たちなどを狙い撃つのだ。
米国防総省の組織「ディフェンス・イノベーション・ユニット・エクスペリメンタル」(DIUx:国防イノベーション実験部隊)は、2017年8月から数週間にわたって、カタールのアル・ウデイド空軍基地にある米空軍の作戦計画拠点にソフトウェア専門家を派遣する。彼らはそこで空軍とともに、新たなツールのベータ版開発に取り組む。
空軍では現在、事前に予測できない「突如現れる」標的への「動的な攻撃」を調整する際に、チャットや「Microsoft Excel」「Microsoft Word」など、雑多なアプリケーションを組み合わせて利用しているが、新ツールはこれらに代わるものだ。
航空作戦のアップグレードはDIUxにとって、これまでのところ最も野心的な取り組みだ。
DIUxは2年前、カリフォルニア州マウンテンビューに設立された国防総省傘下の組織だ。当時のアッシュ・カーター国防総省長官のもと、小規模で革新的な非軍需企業の優れたアイデアを取り込むために立ち上げられた。
DIUxが今回の航空作戦ソフトウェア開発に関与している事実は、カーターの後を継いだ現長官のジェームズ・マティスも同組織を支持していることを裏付けている。
そのマティス長官は、米西海岸に滞在中の8月10日にDIUxを訪問し、同組織への支援を表明する予定だ。「私はDIUxを強く後押ししている」と、マティス長官は8月9日、同行する記者たちに述べ、テクノロジー分野の出先機関を設立したカーター前長官の「先見の明」を称えた。

37件の試験プロジェクトに資金提供

とはいえ、DIUxの最初の年は順調とはいかなかった。当時のカーター長官は仕切り直しを決め、初代の責任者に替えてラージ・シャーをトップに迎えた。シャーは「F-16」戦闘機のパイロットだった退役軍人で、テック系のスタートアップを率いていた人物だ。
DIUxは、オバマ政権が推進したプロジェクトとして廃止も噂されたが、米統合参謀本部副議長を務めるポール・セルヴァ空軍大将の強い支持を受けて生き残った。
DIUxがこれまでに成し遂げた最大の功績は、事務手続きに変化をもたらしたことかもしれない。
国防総省は、ワシントンの政界と結びついている古くからの軍需企業と大型契約を結ぶのに慣れており、手続きもお役所的だったが、DIUxの開発した合理的な契約締結プロセスは、小規模なテック企業が同省と契約を交わすのにかかる時間を短縮した。
DIUxは2016年6月以降、企業との契約を通じて、37件の試験プロジェクトに約7100万ドルの資金を提供している。
DIUxによると、契約した企業は、アルファベットのベンチャーキャピタル部門GV、アンドリーセン・ホロウィッツ、セコイア・キャピタルを含む投資家の支援を受け、これまでに約18億ドルのベンチャーキャピタル資金を調達しているという。
DIUxは、カーター前長官の下では国防長官府の直轄だったが、今後は国防総省が先ごろ決定した調達部門再編に伴い新設されるポスト、研究・エンジニアリング担当次官の管理下に入る。
したがって、DIUxが長く存続できるかどうかは、再編に関わる新任の国防副長官パトリック・シャナハンの支持を得られるかどうかにかかっている。

アルファベットのシュミット会長も国防に関与

そしてDIUxは目下、テロリストとの戦いにおける自らの価値をただちに証明するチャンスをつかんでいる。
今回、米空軍がDIUxに協力を求めたのは、軍需大手ノースロップ・グラマンと契約して進めていた航空作戦計画の現代化プロジェクトが失敗に終わったためだ。
空軍は7月、コストが当初予定の3億7400万ドルから7億4500万ドルに増大する見込みとなったのを受けて、ノースロップによる作戦計画ネットワークの開発作業を打ち切った。
ヘザー・ウィルソン空軍長官はインタビューの中で、打ち切りとなったノースロップとの契約を例に挙げ、ソフトウェア関連では「国防総省全体が良い結果を出している」とはいえないと述べている。
DIUxを率いるシャーは2016年10月、グーグルの親会社アルファベット会長で、国防総省の国防イノベーション諮問委員会に名を連ねるエリック・シュミットとともに、前述のアル・ウデイド空軍基地を訪問した。
両氏はそこで、現行の航空作戦計画の弱点を目にした。空中給油機による給油計画の作成という人手のかかる作業が、幅2mほどのホワイトボードを使って手作業で行われていたのだ。

年内目標、戦闘任務へシステム投入

DIUxは、空軍の計画作成担当者、およびサンフランシスコに本拠を置く「Pivotal」(ピボタル)のソフトウェア開発者5人とともに、合理的な計画作成システムを予算150万ドルで120日以内に完成させたと、国防総省は述べている。
第609航空作戦センターを指揮するポール・J・メイキッシュ空軍大佐によれば、空軍の航空作戦センターでは現在、「Jigsaw」(ジグソー)と呼ばれる自動化ツールを使って、空軍中央司令部に属する空中給油機50機を、米軍と同盟軍の航空機により効率的にマッチングさせて補給を行っているという。
次なる目標は、「突如現れる」標的を攻撃するための合理的システムを、年内に実際の戦闘任務に投入することだ。同システムでは、標準的な9項目からなる様式のデジタルメッセージを使って、数時間にわたる出撃中に、新たな標的をパイロットに指示する。
DIUxによる開発作業のコーディネーターを務めるエンリケ・オティ空軍中佐はインタビューで、「Microsoft WordやMicrosoft Excelは優れた製品だが、戦闘中の衝突回避に特化したものではない」と述べている。
「現在も衝突回避策はとられているが」、それは電話での通話やチャット、Excelを介して行われており、そのため「全員が単一のアプリケーション内でやり取りできるシステムを構築中だ」という。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Anthony Capaccio記者、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:Phototreat/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.