一定の成功をおさめると、企業は往々にしてアクセルから足を外すものだ。だがジェフ・ベゾスは、そこに問題があると考えている。同氏が株主に宛てた書簡から、同氏の「Day 1」思考を探る。

1997年、株主に送った書簡の意味

アマゾンを設立して以来、ジェフ・ベゾスは自身のチームにこう言い聞かせてきた。アマゾンでは、いまがつねに「Day 1(1日目)」なのだ、と。
ベゾスは、1997年に株主に向けて送信した書簡を毎年、再配信することで、この哲学に対するアマゾンのコミットメントを強化している。同書簡のなかでベゾスは、この「Day 1」アプローチの展望をくわしく記している。
ベゾスは、アマゾンに対する自身のビジョンを次のように表現している。
いまという時代は、インターネットにとっての、そして、われわれが計画を順調に実行できるなら、アマゾン・ドット・コムにとっての「Day 1」です。

現代のオンラインコマースは、顧客のお金と貴重な時間を節減しています。そして将来は、パーソナリゼーションを介して、発見のプロセスそのものを加速させるでしょう。アマゾン・ドット・コムは、インターネットを活用して、顧客のために本物の価値を創出します。

そしてそうすることによって、たとえ確立された大きな市場のなかでも、揺るぎないフランチャイズを築きたいと思っています。(中略)われわれは楽観的ですが、警戒を怠らず、緊迫感を維持しなければなりません。
この緊迫感を維持しているからこそ、20年後のいまも、アマゾンは積極果敢なスタートアップでありつづけている。たとえ、同社の年間売上が1000億ドルを超えていようとも──。
ある程度の成功をおさめた企業は、しばしば、アクセルから足を外す。一定の売上高を達成し、従業員数に関しても転機を迎えると、彼らは成熟した企業としての振る舞いを模索する。そうすることで彼らは、その成功を可能にした特質を捨てることになる。これは望ましいことではない。
大企業になったからといって、積極果敢なスタートアップのように振る舞うのをやめなければならないわけではない。また、事業の初期において成長を促してきた緊迫感を捨てなければならないわけでもない。そうしたことが可能であることは、アマゾンが証明している。
「Day 2(2日目)」がどのようなものになるか尋ねられたベゾスは、株主に向けた2016年の書簡のなかで、率直な回答を述べている。
「Day 2」は停滞です。それに続くのが、今日的意義の喪失です。それに続くのが、つらく耐え難い衰退です。そして、それに続くのが死です。だからこそ、つねに「Day 1」なのです。
ベゾスは、この「Day 2」の衰退が実際にどのようなものなのかを、気づくとその渦中にいる企業に向けて詳しく説明している。
たしかに、この種の衰退は極度のスローモーションで起こります。老舗企業なら何十年ものあいだ「Day 2」から利益を得られるかもしれません。それでも最終結果は訪れるのです。
おそろしいことだ──。
ただし、ご安心を。ベゾスは、企業が緊迫感を持ったスタートアップでありつづけるための方法についても、明快なアドバイスをしてくれている。同氏はそれを4つのキーエリアに分けている。

1. つねに顧客を意識する

ビジネスの中心にあるのは、顧客に向けた価値の創出だ。長期にわたり一貫してそれを行うには、顧客が抱える問題を他に類を見ないやり方で解決することに、容赦のない姿勢でのぞまなければならない。
あなたがやらなければならないのは、ほかに選択肢はないと思ってもらえる経験を、顧客に向けてつくり出すことだ。ベゾスによれば、これが「Day 1」企業であることの最も重要な側面だという。
顧客は、自分ではまだ気づいていなくても、より良いものを求めています。顧客を喜ばせたいという願望が、彼らのための新たな価値の創出を駆り立てるのです。

2. 「プロセス」を「成果」の代理にしない

プロセスは重要だ。効率的で効果的な運営を助けてくれるからだ。
プロセスは、顧客に対していつも同じレベルのクオリティーを繰り返し何度も提供するのを助けてくれる。しかし気をつけなければ、あなたがプロセスに動かされてしまうことになってしまうだろう。
ベゾスは2016年の書簡のなかで、こうしたアプローチの危険性について説明している。
こうしたことは、大きな組織で非常に起こりやすいといえるでしょう。プロセスが、自身が望む結果の代理になるのです。成果に目を向けるのをやめて、プロセスが正しく実行されているかを確かめるようになるのです。

(中略)優れた顧客経験は、ハートや直感、好奇心、遊び心、ガッツ、センスなどから始まります。それらのどれも、調査から得られるものではありません。

3. 外部のトレンドを受け入れる

自社内で起きていることや、あなたが自社に対して持っているビジョンとは関係なく、ビジネスの行い方を変えつつある外部の力というものが存在する。
迎合を余儀なくされるまで待つのではなく、そのトレンドに目を向けて、それを受け入れるかどうかは、あなた次第だ。ベゾスは2016年の書簡のなかで、こうした姿勢が不可欠である理由を説明している。
もしトレンドに戦いを挑むなら、それは未来に戦いを挑んでいるも同然です。トレンドを受け入れれば、追い風を受けられます。

4. すばやく決断を下す

起業したばかりのころは、持っていない情報が大量にある。したがって、手元で使えるデータを駆使して最善の決断を下す努力をしなければならない。
十分なリソースが得られるようになり、確実性のレベルを高めるより多くの情報が得られるようになっても、こうした姿勢をあえて取り続ける必要がある。ベゾスは、これについて確固たる考えを持っており、2016年の書簡のなかで次のように述べている。
大半の決断は、自分が望む情報量の70パーセント程度に基づいて下されるべきでしょう。90パーセントまで待つなら、ほとんどの場合、決断に時間がかかりすぎているかもしれません。
いまこそ「Day 1」に立ち返るべきときだ。あなたが手がける事業の規模や歴史の長さは関係ない。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Sonia Thompson/Marketing strategist, consultant, and author、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:Muhla1/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.