【岡島×入山】若手のポテンシャルを見抜く方法

2017/8/9
40歳が社長になる日』の著者である岡島悦子氏は、「2025年、日本の大企業にも40歳社長が多く誕生する」と予測する。なぜ今、40歳社長なのか。経営、リーダーシップの形はどう変わるのか。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄氏と語る(全4回)。

28歳からリーダー候補に

入山 具体的にどのような企業が、「40歳社長」の育成に向けて動き始めているのですか?
岡島 たとえば、アステラス製薬は、長期のサクセッション・プランニングを完全に始めています。未来のリーダー候補の母集団ピラミッドが作られていて、100人ぐらいがそこに入っています。まさにAKBのような感じですね。
入山 ジャニーズ的な感じでもありますね(笑)。
岡島 100人の中でも、3年以内の社長候補、5年以内のリーダー候補、10年以内のリーダー候補といった形でわかれています。
そうした会社が力を入れているのは、研修ではなくアサインメント(配置)です。リーダー候補をどの仕事に配置するかを徹底的に考え、実際、私も配置のお手伝いをしている企業もあります。
岡島悦子(おかじま・えつこ)
プロノバ社長
経営チーム開発コンサルタント、経営人材の目利き、リーダー育成のプロ。三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス経営陣を経て、2007年プロノバ設立。アステラス製薬、丸井グループ、セプテーニ・ホールディングス、リンクアンドモチベーション、ランサーズの社外取締役を務める。主な著書に『抜擢される人の人脈力
入山 では、リーダー研修のようなものは、研修自体に意味があるのではなくて、その人の能力を見極めて、「この候補者はこういう能力が足りないから、この配置で成長させてみよう」というふうに配置するヒントとして行っているのですか。
岡島 研修の場では、経営知識を教えてはいますが、経営学を学んでもらうというよりも、その人たちが半年や1年ぐらいでどれくらい伸びるかという学習能力を見ています。その中で、「この人はすごく変化適応力が高い」という人がいたら、あえて海外法人に送ってしまったりします。
入山 ポイントは、一部の次世代リーダー層だけではなくて、何万人の会社であれば、20代から40代まで100人ぐらいはプールをつくっておくということでしょうか。
岡島 そうです。数万人の大企業でも、一番若い人では28歳ぐらいからサクセッション・プランに入っていますね。
入山 完全に、外資系のやり方ですね。
岡島 そうですね。
今までの日本企業は、役員や役員一歩手前の人に対して経営育成塾での育成をしてきました。
下の図は、縦軸が役職で、横軸は伸びしろ・ポテンシャルを示しているのですが、今までの日本企業では、1,2,3のすでに役職のある人がサクセッション・プランの対象でした。
入山 日本企業は「肩書き」で入ってしまっていた、と。
岡島 そうなのです。執行役員の一歩手前や部門長クラスの人たちが中心ですね。
入山 やばいな、私はそういう人たちへの研修をやっている気が(笑)。
入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学ビジネススクール准教授
慶応義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を経て、2013年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』。
岡島 私もそうした経営者育成研修を長年やってきました。ただ、言葉を選ばずに言えば、役職は高いけれども、もう伸びしろがない人も結構多いのです。
入山 結構いっぱいいますよね。「ずーっと工場長をやっていました」という方とかね。
岡島 もちろん執行役員としてふさわしいとは思うんですが、社長ではないよねという。
入山 大変よく分かります。
岡島 今、先進的な企業では、図の9とか6のエリアの人材、つまり伸びしろがある20~30代くらいのハイポテンシャル人材を発掘し、成長させるために「ストレッチ・アサインメント」と言われる厳しめな職務に配置しています。不確実な意思決定の経験を積ませるための「島流し」のような配置です。

「えこひいき抜擢」のすすめ

入山 岡島さんに、すごく単純な質問があるのですが、人の「ポテンシャル」はどうやって見抜くのですか?
岡島 ポテンシャルとは、普遍解ではなく、その企業にとってのポテンシャルだと思っているので、本当は固有解だと思っています。
もちろん、学習能力、変化適応力、変化を楽しいと思えるマインドセット等、共通する項目もありますが、本来はその企業にとっての「伸びしろ」とは何か、を各社固有で規定すべきなのです。
業界によってポテンシャルの定義は異なりますし、たとえ同じ企業であっても、時価総額が1000億円のときと、1兆円のときでは、社長に求められるものが全然違ってきます。
たとえば、Googleについても、新規事業への投資を行う持ち株会社のAlphabetの社長と、既存事業を成長させるGoogleの社長とでは、サクセッション・プランが大きく異なるはずです。Alphabetの社長は、何かを地道に積み上げてきた人よりも、イーロン・マスクみたいな人のほうがむいていますよね。
入山 なるほど。ただそれは、結構難しい問題ですよね。はっきり言うと、日本でも、孫さん、永守さん、柳井さんの後継者はあきらかに見つからないですよね。
岡島 ニケッシュさんでも難しかったわけですから、一人で継承できる人は存在しないだろうな、チーム型でやるというのが一つのソリューションだろうなと私は見立ててはいます。しかしそれすらもかなり難しいだろうなと感じています。
ポテンシャルの見抜き方、というお話でしたが、大企業の中にいるハイポテンシャルな人材や、伸び盛りのベンチャーにいるようないい人材が、いつの間にか組織に最適化されてしまって、ポテンシャルが衰えていくケースが多いのです。
入山 よく分かります。そうならないためにも先ほど岡島さんがおっしゃった、本で書かれている「島流しの人材育成」が大事ですね。僕もすごく賛成です。
岡島 ハイポテンシャル人材を早めに見極め、キャリアの早めから意思決定の経験の機会を提供する、冨山和彦さんの言葉で言うと「修羅場」ですね。
冨山和彦と牧野正幸が考える「ニューリーダーの条件」
「えこひいき抜擢」ですから、できれば、最初の修羅場は、嫉妬の対象になりにくい目立ちにくい場所が良い。だからこそ「島流し」と表現しています。

商社の悩み

入山 具体的に、どの辺が島流しの島になるんですか?
岡島 これは必ずしも地域ではありません。
よくあるのが、小さめの子会社社長や、買収した会社のポストマージャーインテグレーション(PMI)を担当してもらうという配置です。
例えば、PMIの仕事は完全にアウェーですし、買収した会社の情報もあまりなくて、面従腹背みたいな人もいっぱいいる。こうした環境の中で変革の意思決定をしまくってもらう、というのは修羅場の最適事例ですね。
入山 商社は、結構そんな感じかもしれません。子会社がたくさんありますから。岡島さんも商社の出身ですよね?
岡島 はい、三菱商事に11年いました。
入山 特に三菱商事はそうしたことをやっていますよね。
三菱商事は「経営人材」のプロ集団になれるか
岡島 そうですね。三井物産も、CFOをたくさん輩出しようとしていますよね。
こうしたポジションが「サクセッション・プラン」のハイポテンシャル人材への「意思決定経験の場」となると良いですよね。
入山 僕は大手商社の人たちとの交流があるのですが、彼らは30代ぐらいで買収した会社に送られて、修羅場を経験している人も多い。だから、大手商社には潜在的にはいい人材がいると思っているのです。
ただ、商社が難しいのは、そうした人材がそのまま外に出ずに、商社に残ってしまうことなのです・・・・。
岡島 修羅場経験をした後、また次の修羅場経験、あるいは自社の経営経験をできるまでに、相当な時間がかかる、ということですよね。
入山 そうした、40歳、50歳ぐらいで、実力は微妙にあるけれども上のポストが詰まっていて役職がない人が、大手商社にはウヨウヨしている印象です。チャレンジできなくて、やがて腐ってしまう。もったいないなーと。
岡島 そう。商社の人は、駐在していたときが一番キラキラしていた、それこそ経営の現場で意思決定をできていたので、一番やりがいを感じていた、という人も多いですよね。
入山 商社は、そういった人が辞めて外に出ないのです。
岡島 給与も高いですからね。
入山 何より、奥さんが辞めさせてくれない(笑)。
岡島 「嫁ブロック」ですね。
入山 嫁ブロック!(笑) でもそうなんです。「うちの旦那は何々商事に勤めていますのよ」と言いたいのかなあ、と。
岡島 優秀かつ若いうちに意思決定を経験した逸材がいるにもかかわらず、年功序列の秩序を壊すような大胆なサクセッション・プランニングを実行できない大企業も多いようです。
結果として、大企業にはもったいない人材になっている人たちがたくさんいます。どうにか、そうした人たちの経験の武器が溶けてしまう前に、経営の意思決定の機会を提供したいですね。

エリート教育の復活

入山 リーダー育成という点で、僕はやっぱりサイバーエージェントは優れていると思います。特に、人事のトップである曽山晢人さんがすごい。
【特別対談】サイバーエージェント流、才能の見つけ方、生かし方のすべて
サイバーエージェントには非常にシンプルな方針があって、「経営者人材は経営をしないと育たない」と言っています。だから、サイバーは新入社員をいきなり社長にさせたりするわけです。
曽山さんも藤田晋さんも「社長という肩書きほど安いものはない」と言っているのですが、本当にそうですよね。
岡島 私も曽山さんとはよく話をさせていただいていますが、サイバーエージェントでは、どういう人が会社の中でのリーダー候補かをしっかり見極めた上で、配置転換をうまくやっています。
そもそも、今の時代「公平な人事」などありえません。年功序列的に配置、昇格をさせることはむしろ、ポテンシャルの高い人材に対する「機会損失」となってしまいます。
「役職は役割だ、偉さではない」という認識の文化を醸成する必要があります。そのうえで、サイバーエージェントのように、ハイポテンシャル人材には、キャリアの早い時期から3カ所くらいで経営トップ系の仕事を経験してもらう、これによって経営者としての意思決定力と経営観がぐっと伸びるのです。
入山 だから、岡島さんのおっしゃっているのは、普通にGEなどの外資系企業がやってきたことを、もう少しフレッシュにさせた感じだと思うのです。はっきり言うと、「社内でエリート教育をすべきだ」っていうことですよね。
岡島 まさに、そのとおりです。
*明日に続く。
(写真:瀬谷壮士)