ポジティブ心理学というムーブメントは、人々の幸福、健康、生産性を高めるのに役立つものとして知られている。そうした実現を手助けしてくれる実用的ですぐれた書籍リストを紹介しよう。

進化する学問領域と発見の積み重ね

「ポジティブ心理学」という学問領域は、もう何十年も前から存在する。だが、いくつかの重要な研究のおかげもあって、特にここ数年で社会に対するその影響の大きさが認められるようになった。
このムーブメントの研究者たちが発見したのは、企業環境における思いやり、感謝、ポジティブシンキング、レジリエンス(精神的回復力)、瞑想、親切などの実践は、ビジネスにも良い影響を及ぼすということだ。
つまり、仕事を楽しめる生産的な環境を作れば、それがもっとも価値のあるリソース、すなわち人材をストレスや燃え尽き、恐怖(権力を持った人使いの荒いリーダーに起因するもの)、仕事の不安定さによる感情的・身体的悪影響から日々守ってくれるのだ。
筆者がポジティブ心理学に関して読者に紹介できる実用的な情報リソースを探していたとき、このムーブメントの有名な紹介者が作成した「宝の山」に出会った。
Positive Psychology Program」のウェブサイトをぜひ訪れてみてほしい。おそらくこれは、ウェブ上で最高のポジティブ心理学の情報リソースだ。
その共同創立者で、オンラインマーケティングを得意とするセフ・フォンテインと、オランダのマーストリヒト大学で心理学を教えるヒューゴー・アルベルツ教授は、力を合わせてこのワンストップショップを作り上げた。
このウェブサイトには、ブログ、講座、訓練、格言、カンファレンス、そして著名なポジティブ心理学研究者のデータベースが揃っている。

仕事や起業に応用できる11冊のリスト

フォンテインはこの傑出したブログで、ポジティブ心理学に関する書籍の総合的な「生きたリスト」を提供している。内容は、このムーブメントの初心者、熱烈なファン、そしてそれらの中間に位置するすべての人々に向けたものだ。
フォンテインによるリストは多面的で、いまも成長を続けている。
そこで筆者はこの中から、学術的な研究ではなく、仕事や起業にまつわる広範な場面で誰もが応用できそうな理解しやすいものに焦点を当てて、わたし自身のお気に入りを選び出した。それが以下に示すリストだ(順不同)。
1.『ポジティブ心理学が1冊でわかる本』イローナ・ボニウェル著(邦訳:国書刊行会)
この領域に足を踏みいれたばかりなら、まず手に取ってほしいのがこの本だ。フォンテインはこう言っている。
「まったくの初心者にはこの本をお勧めする。将来の研究の方向性に影響を及ぼそうとする試みというよりは、ポジティブ心理学の現状が書かれている。したがって、まずこの領域について学ぶにはきわめて優れた本だ」
2.『フロー体験 喜びの現象学』ミハイ・チクセントミハイ著(邦訳:世界思想社)
チクセントミハイは「フロー」状態に入ることに関する研究の専門家で、ポジティブ心理学のパイオニアのひとりだ。だがいったい、フローとは何なのだろうか? フォンテインは言う。
「フローとは、それが何であれ、その人がいまやっている仕事に役立つだけでなく、その仕事からより大きな満足感を得るのにも役立つような、精神的集中の状態だ」
3.『世界でひとつだけの幸せ ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生』マーティン・E・P・セリグマン著(邦訳:アスペクト)
セリグマンはポジティブ心理学の創始者として、そしてこの領域の著名な権威のひとりとして広く知られている。
セリグマンによるこの本は「人々が健康と幸福を高めるために利用できるような、ポジティブ心理学の主な概念を紹介することを目的としたハンドブック」として、大きな影響力を持っている。
4.『ポジティブな人だけがうまくいく 3:1の法則』バーバラ・L・フレドリクソン著(邦訳:日本実業出版社)
生活においてポジティブになろうとして苦労している人たちや、ポジティブ心理学を生活に役立てる実用的な方法を探している人たちにとって、この本はとても良いハンドブックになりうる。
ポジティブな生活とは、実り多く繁栄し、感謝の念に満ちた生活であり、それぞれの人と状況において何が良いことで、何が正しいことかを探していく生き方だ。
5.『HAPPIER 幸福も成功も手にするシークレット・メソッド ハーバード大学人気No.1講義』タル・ベン・シャハー著(邦訳:幸福の科学出版)
ベン・シャハーは著述家であり、連続起業家であり、ハーバード大学の歴史上、最も受講者の多い2つの講座(「ポジティブ心理学」と「リーダーシップの心理学」)の講師でもある。
シャハーの独創性は、科学的研究、学術調査、自己啓発的アドバイス、スピリチュアルな啓蒙を組み合わせて、人々が日常生活でもっと満たされ、もっと心のつながりを持ち、そしてもちろん、より幸せになるために使えるような一組の行動原則にまとめあげたことにある。
6.『Happiness: Unlocking the Mysteries of Psychological Wealth』(幸福:心理的な豊かさを解き放つ)エド・ディーナー、ロバート・ビスワス・ディーナー著(邦訳なし)
この本は、物質的豊かさ、感情的知性(「心の知能指数」)やソーシャル・キャピタル(社会関係資本)などのよく知られる概念にはとどまらない新しい概念、つまり「心理的豊かさ」について記述している。
心理的豊かさには、それぞれの人生に対する態度、社会的サポート、精神的な成長、物質的リソース、健康、そして従事している活動などが含まれる。
7.『Positive Leadership: Strategies for Extraordinary Performance』(ポジティブなリーダーシップ:卓越したパフォーマンスへの戦略)キム・キャメロン著(邦訳なし)
著者がこの本を書いた目的は「読者が、卓越したパフォーマンス、つまり平均をはるかに上回るパフォーマンス水準に到達する手助けをすることにある」と、フォンテインは述べている。
この本は、たとえば従業員たちの間で(そして自分自身に関して)どのように思いやりを奨励すれば、全体の幸福度と組織の健全性を大きく改善できるかといった、ポジティブ・リーダーシップに関するヒントを探しているビジネスリーダーにとって最高のリソースになるだろう。
8.『ポジティブ・リーダーシップ』マーガレット・H・グリーンバーグ、セニア・マイミン著(邦訳:草思社)
フォンテインによると「著者は、雇用プロセスの変革、あるいは従業員の成績についての考え方の再構成によって、より優れたリーダーへの道を歩み始めるための実用的な方法をいくつか教えてくれる」。全体として、これは仕事場での幸福度と生産性を高めたいリーダーにとって、とても良いリソースだ。
9.『幸福優位 7つの法則 仕事も人生も充実させるハーバード式最新成功理論』ショーン・エイカー著(邦訳:徳間書店)
このリストの中で、筆者の一番のお気に入りがこの本だ。ショーン・エイカーはTEDの人気講演者としても知られる。
エイカーは本書において、これまでに42カ国の何千人にもおよぶフォーチュン500企業の幹部と仕事をしてきた経験から得た、いくつかのストーリーとケーススタディを示しながら、よりポジティブになって仕事での競争力を得るために、脳をどのようにプログラムし直すことができるかを説明してくれる。
リーダーと従業員の双方にとって、良いガイドとなるだろう。
10.『やり抜く力 GRIT(グリット)──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』アンジェラ・ダックワース著(邦訳:ダイヤモンド社)
フォンテインの説明を引用すると「著者は、スペリング競争の参加者から、軍で訓練を受ける兵士たち、フットボールのコーチ、企業のCEOに至るまで、ストレスの高い状況に置かれる人々へのインタビューを行い、そうした場所で成功する人々に共通の特質と考え方を特定している。ポジティブ心理学の教えを生かすことで、キャリアでの成功を求める人なら(実際には、どんな種類の成功でも同じだ)、誰でもこの本に価値を見出すはずだ」。
11.『最高の仕事ができる幸せな職場』ロン・フリードマン著(邦訳:日経BP社)
このリストで筆者が2番目に好きな本がこれだ。多くの受賞歴がある心理学者ロン・フリードマンは、動機付け、創造性、行動経済学、神経科学、そして経営学に関する最新の研究を用いて、仕事の成功を本当に導く要因は何かを明らかにしている。
とても面白く、さまざまな逸話や科学的なエビデンスが盛りだくさんだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Marcel Schwantes/Principal and founder, Leadership From the Core、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:RomoloTavani/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.