「官と民」のデータがもたらす未来。カギは「協調と競争」

2017/8/18
AIやIoTといったテクノロジーの活用が、企業の成長力を左右することが必至な中、日本の政府はどのようなIT戦略を持っているのか。政策が産業界に与える影響は大きいだけに、国のIT戦略は注視する必要がある。政府のIT戦略立案・推進の中枢を担う内閣官房のIT総合戦略室。ここで副政府CIOを務める神成淳司氏に政府IT戦略の未来を聞いた。
バラバラだった基盤のテコ入れ
──約4年前、最初の「世界最先端IT国家創造宣言」で、最高水準のIT利活用国家・社会を整備すると発表しました。この4年の成果をどのようにみていますか。
神成:2001年に内閣官房内に「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」(通称:IT本部)を設置し、日本で最初のIT戦略として、「e-Japan 戦略」、「e-Japan 戦略 Ⅱ」といった計画を策定・実行してきました。そして、遠藤政府CIOの就任以降、2013年に「世界最先端IT国家創造宣言」を発表し、継続してIT戦略の実現に向けて取り組んでいるところです。
一貫してやってきたのは、省庁間のタテ割りを排除し、政府全体のITコストを下げつつ、基盤を守るシステムの整備です。ITが急速に普及してきたことで、各府省庁が個々の考え方や方法でITが個別に導入され、結果として非効率や二重コストになっているケースがありました。
各府省庁が所有するシステムが連携しながら新しい価値を生み出すためには、一定程度の共通インフラの整備が重要です。私たちはあまり目には見えないかもしれませんが、各省庁が連携しやすい基盤の整備に力を注いできたのです。
結果として、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)や自治体クラウドの推進などを進め、政府のシステムについては、1000億円超のシステム運用コストの削減の目途がたったほか、農地の情報を一つのフォーマットで一元的に閲覧できるシステムの導入を支援してきました。
そのほか、ITS(高度道路交通システム)や自動運転に係る政府全体のロードマップの策定、オープンデータの推進、最近ではシェアリングエコノミーの促進など、ある一定の成果が出せていると思っています。昨年末に制定された「官民データ活用推進基本法」というデータ活用のための基盤が整った上での今後の政策は、これまでとは違うステージに入ると思っています。
──各省庁の連携は、「総論賛成・各論反対」となりがちで思うように進んでいない印象があります。
神成:確かに最初は大変でした。しかし、私たちは内閣官房に属し、中立的な立場で各省庁と話ができる立場ですから、遠藤政府CIOを中心に、IT総合戦略室が徹底的に関係者へのヒアリングと議論を重ね、徐々に同じ方向に向かうようになってきました。
統一・連携したほうが、効率は上がるのは間違いありませんから、時間はかかりましたが、徐々に理解してもらってきたのだと思います。
神成淳司 内閣官房 副政府CIO(慶應義塾大学 准教授)
1996年慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。2004年岐阜大学工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)助手、岐阜県情報技術顧問等を経て、2007年慶應義塾大学環境情報学部着任(現在に至る)。2014年より内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室長代理/副政府CIOを併任。専門は、情報科学(産業応用、知識工学)、サービスサイエンス、情報政策、農業情報科学、社会システム工学等。
データ活用時代に突入
──今年5月30日、世界最先端IT国家創造宣言を改めて「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を発表しました。データの利活用に大きく舵を切る内容になっていますが、それが神成さんの言う新たなステージですか。
神成:その通りです。政府のIT基盤が整い、今後はデータの利活用を本格的に国が後押しする段階に入ります。データ利活用が当たり前の世界を作り、これにより日常生活をよりよくしていきたいと考えています。
その中で、「健康医療」「観光」「農林水産」「移動」など今後力を入れるべき8つの分野を定め、データ利活用により向こう4ー5年先の国民・事業者などにもたらされるメリットのイメージを描き、それに向けた施策と各々のスケジュールを定めました。
目指すべきは、「真に豊かさを実感できる社会」=「家族で住みたい、働きたい国」。今後はサービスの在り方が「いつでも・どこでも・だれでも」から、「いまだけ・ここだけ・あなただけ」に変わっていく。
人が求めるものはその日によって違いますから、決まったサービスではなく、その人にあったサービスを提供したい。そのために、ビッグデータをAIなどの新技術を絡め、セキュアな環境を保ちながらどう使うのかを引き続き考えていきます。
企業の成長領域が変わる
──今後、政府がデータ活用における基盤整備や、利活用のための法整備などを進めていく中で、企業はどのような点を考えなければなりませんか。
神成:政府として基盤的なものは整備しますが、「協調領域」と「競争領域」の分岐は各業界が見定めて、データの開示や活用方法を考えるべきだと思っています。
今後、データの利活用方法が、企業の成長力をもっと左右する時代がくるでしょう。正確で有用なデータをいかに入手できるかが勝負を分けることになります。
例えば地図のデータを見ても、精緻な情報は競争領域に該当すると思いますが、基本的な情報があれば、これまで地図とはあまり関係がない企業が新しい価値を生み出すかもしれません。
裾野は広いほうがデータの価値は高まります。これまで紙の地図を見て目的地に向かっていたのが、スマートフォンなどでデータを確認できることにより迷わずに行けるなどライフスタイルが変わりました。
当然仕事そのものも変わってきます。そのための大量のデータはどこも欲しい。ただ、自社のビジネスに必要なデータを1社単独で作成することはスピードやコストの面で非効率です。加えて、自社にはないが使いたいデータをどう得るかといった点も検討する必要があります。
私たちは、公的なデータで産業界に有用だと判断したデータは今後どんどんオープンにしていきます。それにより、企業にこれまでにない気づきやビジネスモデルのヒントにつながり、世の中の変化を促していくことが重要だと考えています。
こうした公的データを活用するだけでなく、自社の競争領域ではないと判断した部分については民間企業も積極的にデータを開示するべきです。
もちろん競争領域はクローズにすることは必要ですが、協調領域に該当すると判断したものはオープン化することで今までにない業種などとの協業やコラボレーションを生むきっかけにつながることを見据え、データの活用方法を検討する必要があると思います。
──確かにデータのオープン化は必要に感じますが、一方で貴重な資産の流出を恐れる企業もいるはずです。
神成:世界ではデータをオープンにして、協調領域では積極的に手を組む動きが加速しています。1社個別でデータを作るシステムをつくり、データを管理・分析して世界と渡り合うのは、非常に困難になってきています。
もちろん、従来の取り組みのままで進んでいける分野もあるとは思いますが、多くの分野において、ビジネスモデルの変革が迫られている時期に来ているのではないでしょうか。
みなさんが思う以上にデータのオープン化と活用に世界は動いており、今後はますます加速するでしょう。スピードやコスト、効率性を考えれば当然の流れです。その流れを掴んで、データや情報の開示・活用方法の考え方を大きく変えることが重要だと思います。
協調領域を協力して作ることで、新たな気づきを得て新たなビジネスチャンスが生まれる可能性は着実に高まります。私たちは向こう4ー5年、整備されたデータの利活用という点で、本腰を入れて産業界を後押ししていきます。
(取材・文/木村剛士、写真:森カズシゲ)