ロボットをチームの一員に迎える

マイアミを拠点とするクリエイティング・レボリューションズは、ホスピタリティ業界向けの防水性卓上ポケットベルを製造している。
だが、最高イノベーション責任者のアイナー・ローゼンバーグによれば、組み立て工程の人的エラーに起因する2桁の故障率に悩まされていたという。
そこでローゼンバーグが導入したのが、ユニバーサルロボットの協働ロボット(コボット)「UR3」モデルだ。このロボットは、人間に取って代わるのではなく、人間とともに働くように設計されている。
ローゼンバーグはこのUR3を、きわめて高度な精密さが求められる3つの重要な作業に採用した。たとえば、デバイスのアルミ製ハウジング内の特定ポイントにシーラントを塗布する作業などだ。
その結果、故障率は1%未満にまで低下した。このコボットは「当社を破綻から救ってくれた」とローゼンバーグは言う。
コボットは、オートメーション業界で急速に成長している分野。この分野を支配しているのが、デンマークのオーデンセを拠点とするユニバーサルロボットと、ボストンのリシンク・ロボティクスの2社だ。
リシンク・ロボティクスの共同創業者でマサチューセッツ工科大学(MIT)名誉教授のロドニー・ブルックスは、ロボット掃除機「ルンバ」を製造するアイロボットの共同創業者でもある。

単純作業で威力を発揮、価格も安い

コボットは通常、複雑なプログラミングを必要とせず、価格も安い(必要な費用をすべて合わせても5万ドル未満だ)。レンタルもできる。
マイナス面は、1.5キロ前後より重いものは持ち上げられず、1メートル程度までしか手が届かないという点だ。動きは遅い──そうでないと、一緒に働く人間がついていけないからだ。
コボットはまだ導入されはじめたばかりなので、実際の寿命は誰にもわからない。とはいえ、いち早く導入した企業はコボットを熱く支持し、コボットをチームに入れることについて、それぞれの考えを披露している。
バージニア州リッチモンドのエイコーン・セールスは、カスタムゴム印を製造している。社員は12名、売上は200万ドルに満たない。製品の多くをオンラインで販売しており、利鞘は少ない。
「効率を上げる方法をつねに探している」とアダム・レイダボー最高経営責任者(CEO)は言う。エイコーンは3万ドルのコボットを採用し、木のブロックを小さく切り、取り付け用の穴を穿孔する作業に投入した。
その結果、サプライヤーに依頼していたときよりも安く、正確かつ迅速に社内で作業をこなせるようになった。
コボットは、グリッパーや吸盤を使って、物体をこちらからあちらに移動させる作業や、スポット溶接、スプレー塗装、曲げ加工など単調な作業でも威力を発揮する。
その一方で、洞察力や創造性が求められる各種の作業は、あまり得意としない。

「失職はない」と社員を説得する

経済政策調査センターによれば、アメリカではすでに36万~67万人分の職がロボットの導入により消失しているという。
とはいえ、同センターが実施した最近の調査では「新たなテクノロジーがほとんどの職を消し去り、人間の大部分が不要になる」ことを裏付ける徴候は見つからなかった。
だが、コボットが工場の作業現場に姿を現したときに、同じことを従業員に言うわけにはいかない。
クリエイティング・レボリューションズのローゼンバーグによれば、コボットを導入しても人間が職を失うわけではないと社員に納得してもらうまでには、4回にわたる長時間のミーティングを要したという。ローゼンバーグが社員に強調したのは、コボットが専門とするのは汚れ仕事や退屈な仕事、危険な仕事だという点だ。
エイコーンのレイダボーCEOも、同様の会話をチームと交わした。「いまでは、誰もやりたがらない仕事を自動化できる」と同CEOは言う。「そのおかげで、人間の手間が省かれ、もっと重要な仕事をする時間ができ」、個人にとっても会社にとっても成長の機会が生まれる。
レイダボーCEOによれば、エイコーンは創業以来、53年間で1人の社員も解雇しておらず、今後もそうする予定はないという。

導入前には徹底したリスク分析を

ユニバーサルロボットのアメリカ地域担当ゼネラルマネージャー(GM)を務めるダグラス・ピーターソンによれば、同社のマシンによって人間が死亡したり、手足を切断したり、その他の怪我を負ったりしたケースは、把握しているかぎりでは1例もないという。
とはいえピーターソンは、工場に新しい機器を導入するときと同様に、徹底したリスク分析を実施してからコボットを導入することを推奨している。
ミネソタ州ラムゼーを拠点とする受託製造業者、ダイナミック・グループのジョー・マギリブレーCEOは、コボットの安全性に疑いを抱いていた。
そこで、新しいコボットのプログラムを設定し、自分に殴りかかるような動作をさせてみた。「私の体の脂肪がついた部分にぶつかると、コボットは動きを止めた」。怪我はまったくなかった。
とはいえ、コボットに殴り倒されないからといって、昔ながらの工具を自由に扱わせていいというわけではない。
「なんの防護策もとらずに、ロボットに炎やチェーンソーを持たせるのは、どんな場合でも安全ではない」とマギリブレーCEOは述べている。

コボットが営業やマーケティングに

クリエイティング・レボリューションズのローゼンバーグがコボットに求めていたのは、確実で信頼性の高い工場現場での製造作業だ。そして、それは実現した。
だが、ローゼンバーグがマニュエルと名付けたこのコボットには、ホワイトカラー的な隠されたスキルがあることがわかった。営業とマーケティングだ。
工場を視察に訪れた顧客が決まってマニュエルに引き寄せられ、くぎ付けになること気づいたローゼンバーグは、このロボットのビデオを制作したのだ。
客先を訪問する同社の営業担当者は、まず自社製品のハイテク・ポケベルのデモンストレーションを行う。客の携帯電話と同期し、接客係の注意をすぐに引けるという製品だ。次に、ロボットのビデオを見せる。
マニュエルは「取引の成立に大きく貢献」していると、ローゼンバーグは言う。「実際に動いているロボットを見ると、顧客はひとり残らず夢中になる。目に光が灯る」
マニュエルが魅力的なのはたしかだが、その一方でクリエイティング・レボリューションズの製品に尻込みするかもしれない顧客を安心させる効果もあると、ローゼンバーグは考えている。
「このロボットを見ると、顧客は、この製品が最高品質の技術で製造されているという印象を受ける」

自社に適したコボットを見つける

最高級のコボットは優れた特性を備えているが、何も考えずに使えるというわけではない。協働する「ロボット従業員」を購入する前に、以下の点を考慮してほしい。
1. 未来をレンタルする
ナッシュビルのハイアボティックスなどの一部の会社は、コボットをレンタル提供している。つまり、設備投資でなく運用コストで利用できるわけだ。
「ハイアボティックスが現場に来て据え付け、当社の要件に応じてすべてをプログラミングする。料金は、人間の社員と同じように、ロボットの労働時間に応じて支払う」とクリエイティング・レボリューションズのローゼンバーグは説明している。
2. 夢中になりすぎではダメ
ロボットは人間よりも正確だが、速さという点では人間には及ばない。ただし、人間がロボットから目を離せない場合は例外だ。
「一部のプロジェクトでは、ちょっとしたたるみが出ている。コボットを眺めているのが楽しすぎるせいだ」と語るのは、ダイナミック・グループのマギリブレーCEOだ。「自然界には、あれほど目に見えて一貫したものは存在しない」
3. 保険の計算をする
コボットに関する保険統計データは、マシンそのものについても人間との接触の安全性についても、あまり多くは存在しない。そのため、保険をかけるのが難しい場合もある。
ローゼンバーグは年額800ドルの保険契約を見つけたが、ステート・ファームをはじめとする多くの保険会社は、まだコボットに関する保険契約には対応していない。
4. 未知のことを考慮に入れる
コボットは、費用のかからない労働者だ。エントリーレベルの1アーム型モデルなら、3万ドル未満で手に入る。追加のアームや特殊な工具、カスタムプログラミングなどの機能を備えたモデルは、もう少し高くなる。
だが、コボットは新しい技術であるため、耐用年数がどれくらいなのか、たしかなところは誰にもわからない。つまり「コスト削減の効果は、表面的に見えているほど劇的なものにはならない可能性がある」と、オートメーション推進協会のジェフ・バーンスタイン会長は指摘している。
原文はこちら(英語)。
(執筆:David Whitford、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:Tick-Tock/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.