(Bloomberg) -- 「Wii」などの据え置き型ゲームと「ニンテンドー3DS」に代表される携帯型ゲームの2本柱で収益を稼いできた任天堂の戦略が、新型ゲーム機「スイッチ」(発売は3月)により一変する可能性がある。

任天堂は据え置き型が主流だった家庭用ゲーム市場に、1989年に「ゲームボーイ」を投入して2本柱の収益構造を確立。それから30年近く新たな製品を開発しながらこれを維持してきた。戦略が過渡期を迎える中、同社の株価はスイッチの発売以来60%超上昇し、時価総額は5兆円を超えた。

2001年からの公表データを見ると、全体として据え置き型は携帯型より販売価格が11%高く1世帯当たりのゲーム保有本数も3DSを上回るが、3DSも販売台数を伸ばし顧客全体の倍増に貢献した。だが、スイッチは両機能を併せ持ち、任天堂が「2台持ち戦略」から新たなステージに踏み出したことを示唆する。

君島達己社長は6月の株主総会で、スイッチとWiiや3DSとの住み分けについて「据え置き機と携帯機の両方にできるだけさまざまな遊び方を提供したい」との答弁にとどまった。ただ、任天堂は17年3月期(前期)から据え置き・携帯型別の売上高の発表をやめている。

「30年で最大の進化」

スイッチは、家庭の大画面テレビなどにつないで複数人で遊べるほか、6.2インチ液晶画面のゲーム機本体を野外に持ち出して楽しめるのが最大の特長。コントローラーは脱着可能で、手動の押しボタンだけでなく複数の内蔵センサーにより、人の手や身体と連動したプレーも可能だ。

マッコーリーグループのアナリスト、デビッド・ギブソン氏(東京在勤)は、任天堂の「スイッチ一本足打法」はどんな場所でもゲームをしたい愛好家のニーズに応えたものだと指摘。「今後数年で3DSがなくった後は、スイッチが唯一のプラットホームになっていくだろう。これは任天堂にとって、過去30年間の歴史の中で最大の進化だ」と話す。

任天堂の広報担当者は、同社が据え置き・携帯型の2本柱からスイッチに軸足を移していくのではないかとの見方に対し、否定はせずに、君島社長が株主総会で話した通りだと話した。決算発表で据え置き・携帯型の各データ開示をやめたことについては、スイッチ投入を契機に変えたと述べた。

販売好調、スマホゲームも鍵に

これまで1世帯で2台購入していたゲーム機がスイッチ1台になる懸念をよそに、スイッチの売れ行きは好調だ。販売台数は発売後1カ月で会社予想の200万台を上回る270万台を記録。今期は1000万台と見込む。ブルームバーグ集計のアナリスト予想では1300万台に達する。

アナリストらはスイッチ用ゲームソフトの拡充は、少なくとも過去10年間で最も期待できそうだとみている。任天堂が今後、スーパーマリオオデッセイや、ポケモンのロールプレイングゲーム(RPG)、メトロイドプライム4などの発売を予定する中、アナリストらは来期のソフト販売本数見込みを2カ月前の7400万本から1億1200万本に引き上げた。

マッコーリーのギブソン氏は、足元でハード・ソフトも好調なスイッチの見通しについて、「もしスイッチが消費者を共鳴させることができれば、売り上げや利益向上につながるだろう」と分析。その上で「つまりスイッチは任天堂にとって、ひと味違ったビジネスになり得る」と指摘した。

香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントのセス・フィッシャー氏は「スイッチがハイブリッドなゲーム機になるのは全く問題ない」とする一方で、任天堂のスマホゲーム強化の必要性も指摘。「スイッチと味の違うソフトを出せる」ため、収益の柱になれば「ある意味2つのプラットホーム」を手にできるという。同社は昨年スマホゲーム市場に算入、年に2-3タイトルをリリースしていく方針だ。

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