労働力不足により、2017年には12億ドル相当のパーム油が無駄になる可能性がある。生産業者は労働力不足に対処するため、新開発の収穫機やドローンを試している。

収穫のほとんどを手作業に頼る

熱帯の果樹であるアブラヤシ(オイルパーム)から抽出されるパーム油は、同じ重量で見ると、キャノーラ(アブラナの一種)や大豆、ヒマワリの種から抽出したほかの油に比べて大きな強みを持っている。
パーム油は用途が広く、チョコレートから化粧品までのあらゆるものに使われるほか、生産性もほかの油よりはるかに高い。水分を多く含むパームの実では、1エーカー(約0.4ヘクタール)あたりの収量がキャノーラの5倍、大豆の8倍にのぼる。
マレーシアを拠点でパーム油事業を展開するフェルダ・グローバル・ベンチャーズ・ホールディングスといった業者の悩みは、収穫のほとんどを手作業に頼っており、大量の無駄が生じるおそれがあるという点だ。
世界2位の生産国であるマレーシアでは、2017年に約12億ドル相当の原料がアブラヤシの畑に残されてしまう可能性がある。そうしたことから、パーム油業界は、電気式収穫機や農薬散布ドローンといった、生産量向上のための新技術を開発している。
「この業界が切実に求めているのは、労働効率を高めることができる優れた装置だ」。フェルダ・グローバルのプランテーション部門で最高執行責任者(COO)を務めるパラニアッパン・スワミナサンは、6月1日のインタビューでそう語った。「現在の大きな関心事は、優れた収穫機を手に入れることだ」
大豆や菜種は腰くらいの高さの植物で、平らな畑で整然と栽培されるため、トラクターや大型収穫機の使用に適している。そうした作物とは異なり、アブラヤシは丘陵地のプランテーションで栽培され、収穫しにくいことも多い。
マレーシアとインドネシアは合わせて世界のパーム油の約86%を生産しているが。プランテーションをつくるために広大な熱帯雨林が焼き払われたことから、パーム油業界は長年にわたり、環境や労働といった分野の活動家や食品会社から批判を浴びてきた。

需要の急増、依然として危険な仕事

パーム油に対する需要は急増しており、世界の生産量は過去15年で2倍以上に増加している。しかし、アブラヤシの栽培には、依然として危険で効率の悪い手法が用いられている。
アブラヤシを収穫するには、25エーカー(約10ヘクタール)あたり1人以上の労働者が必要だ。多くの場合は、鋭い鎌のついた棒を使って高枝の果実を手作業で切り離し、手押し車で運搬している。
うろこ状の幹を持つアブラヤシは、高さが地上18メートルにもなる。とげのある葉の隙間に、房状になった大量の実がつく。房は1000~3000個の小果実からなり、熟すと赤みがかったオレンジ色になる。重さは通常、10~25キログラムほどだ。
収穫は汚れ仕事で、難しく危険な作業だ。負傷する危険もあるし、プランテーションに多く生息するサソリに刺されたり、ヘビに咬まれたりするおそれもある。
機械式の収穫機もあるが、高さ4.8メートル未満の若い木でしか使えないうえ、あらゆる地形で使えるわけでもない。

電気収穫機の装着で収穫量は2倍

「労働者が重さや振動といった諸々の問題を感じずに使える機械は、これまで誰も考案してこなかった」と、フェルダのスワミナサンは言う。
「背の高いアブラヤシに使える機械を考え出した者は、称賛の的になるだろう。我々は全力を挙げ、社内でそうした機械を模索している。社外の関係者とも協力している」
粗パーム油生産の最大手であるフェルダは、機械への投資を過去5年で3倍に増やしており、2017年には1000万リンギット(約2.5億円)を投じる計画だという。
この問題に取り組んでいるもうひとつの会社が、マレーシアを拠点とするキンゴヤ・テクノロジーズだ。同社はイズミル・ヤミンの開発した電池式の電気収穫機を試験している。ヤミンによると、この機械を使えば、生産性が2倍に向上するという。
労働者が刃物を使って手作業で収穫する場合、4時間あたりの収穫量は200房程度だ。キンゴヤの収穫機「ECUT」を背中に装着すれば、400~500房を収穫できるようになると同社は述べている。
キンゴヤの最高技術責任者を務めるヤミンは「手作業で房を収穫している労働者のストレスを軽減できるはずだ」と述べる。作業者にとって頼りになるだけでなく、ガソリンを動力とする収穫機より環境汚染も少ないという。

収穫機の重さ、価格の高さが課題

この収穫機の欠点は、なんといっても12.5キログラムにもなる重さだ。ガソリン式の収穫機と比べて20%も重い。また、背の高い木には使えない。価格も1台7000リンギット(約18万円)と高価で、ガソリン式モデルに比べると約40%のコスト増となる。
「背の高い木でも電気式収穫機を使えるようにしたいと思っている」。セランゴール州にあるキンゴヤの工場で、ヤミンはそう語った。「そのためには、まず背の低い木で、ECUTの信頼性を確保する必要がある」
キンゴヤのゴピ・ナイル取締役によれば、この収穫機についてはマレーシア連邦土地開発公社(FELDA)傘下のフェルダ・テクノプラントや、サイム・ダービーといった会社が試験を行うという。商業生産は、年末までに開始される。
収穫機が改良されれば、パーム油の生産量が増える。労働力が不足しているマレーシアでは、シーズンごとにアブラヤシの房の10%が放置されたまま腐ってしまうと推定されている。
2017年のマレーシアのパーム油生産量は2000万トンと見込まれている。したがって、現在の価格で考えると、腐敗によって失われる収益は、およそ12億ドルに相当する。
インドネシアでは労働力を確保しやすいことから、作物のロスは抑えられている。

害虫のついた木を識別するドローン

マレーシア、セランゴール州の別の地域では、20リットルの農薬を積んだドローンが、プランテーションから飛び立っている。標的は、ミノムシのついたアブラヤシがある小区画だ。
ミノムシは緑に茂った葉を傷める害虫で、光合成を妨げるほか、健康な果実をつくる能力にも悪影響を与える。
現在のところ、ミノムシの対処法としては、有人飛行機に積んだ農薬を広範囲にわたって無差別に散布する方法がとられている。この方法は1ヘクタールあたり約40リンギット(約1000円)のコストがかかり、散布面積が800ヘクタール以上である必要がある。
マレーシアを拠点とするブレインツリー・テクノロジーズは、害虫のついた木を識別できるカメラ搭載ドローンを開発した。このドローンを使えば、より的を絞った散布が可能になる。
ブレインツリーのアリフ・マフジル社長によると、ドローンを使えば、木の計数から収穫量の予測まであらゆるプロセスがスピードアップするという。ドローンの導入により、収穫量が約20%増加し、コストも最大50%減少する可能性があると、マフジル社長はインタビューで述べた。
「産業界は、スマート・ロボットを活用した工業化に向かっている」とマフジル社長は言う。「パーム油業界も、こうした技術に遅れずについていく必要がある」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Anuradha Raghu記者、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:migin/iStock)
©2017 Bloomberg News
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