SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は好調な繊維機械業界とファストファッションを始めとするアパレル産業の可能性について考える。

好調な繊維機械受注

繊維機械の受注高が好調だ。
2014年以降の受注高は増加を続けており、2016年は前年比31%増と大幅に増加した。国内需要は全体の5~6%程度だが、海外需要の活況を受けて国内メーカーも受注を伸ばしている。
日本は世界で見ても繊維機械の輸出額は、中国に次ぐ2位に位置する(2015年)。
主な輸出先は、中国、インド、ベトナム、バングラデシュなどである。

島精機製作所の好決算

繊維機械メーカーの中でも好決算が目立つのが、代表企業の1つである島精機製作所だ。2016年度決算は、同社の業績予想には達しなかったものの、売上高前期比26%増、営業利益同95%増と大幅な伸びとなった。
5月19日時点での日本企業の製造業の中央値は、売上高増加率1.4%減、営業利益5.5%増であることを考えると、かなりの好業績であるといえる。2017年度の同社予想値も、売上高16.9%増、営業利益33.2増%と、製造業の中央値よりかなり高い。

コンピュータ制御で省人化と高付加価値化

そもそも繊維機械とは何か。なじみのない人も多いかもしれないので、概略を説明したい。
繊維機械は天然または人工繊維から糸を作り、最終的にアパレル製品になるまでに使用される機械で、糸を作る紡績機械、生地を作る織機や編機、染色に使う染色機械などがある。また繊維機械には含まれないが、生地に印刷するプリンターや縫製用のミシンなどもアパレル産業に欠かせない機械である。
繊維メーカーはそれぞれ専門分野があり、島精機製作所はこのうち横編の編機メーカーだ。コンピューター制御で編み上げ、複雑なデザインも可能にする。中でもホールガーメント*横編機は全自動でニット製品を編み上げる、同社の技術力を表す代表的な製品である。
原材料コストや労働コストの削減、リードタイムの短縮ができるほか、安定した品質、無縫製が可能にする自由なデザインなどもメリットになる。
しかし、同じ繊維機械業界内でも分野や地域によって異なる傾向が存在する。
ここでは編機の島精機製作所に加え、織機の津田駒工業や縫製の工業用ミシンメーカーJUKIからその傾向をみてみたい。

中国・ASEANで伸びる島精機

島精機製作所の顧客はその大部分がアジアだ。国別の内訳は不明だが、同社によればASEANを主力としつつ中国の売上も伸びている。

織機やミシンでは中国縮小、その他のアジアが伸びる

一方、織機の津田駒工業や縫製のJUKIは中国が縮小。その代替市場として、津田駒工業はインド、JUKIはバングラデシュなどASEAN地域が増加している。

産業の発展段階に対応

ここで各社の主力分野を思い出していただきたい。
紡績機や織機/編機は機械化による規模の経済が効く分野、ミシンは手作業の縫製という手間のかかる分野に当たる。
原料産地などとの関連性もあるが、主に紡績機や織機/編機は機械化が進む段階、ミシンは低い労働コストを使った労働集約型産業が拡大する段階で導入が増える。津田駒工業はインド、JUKIはASEAN地域での増加が著しいのも、こうした構造が背景にあるとみられる。

島精機は付加価値創出に評価

では島精機製作所はどうかというと、通常津田駒工業と同様の機械化の段階になるが、同社の場合コンピュータ制御によるデザイン性など最終製品の価値を上げる部分に強みを持つ。
既に機械化の進んだ中国においても、労働コストの圧縮に加え、商品の差別化や付加価値の向上のため販売が増えていると考えられる。

中国からインド、ベトナム、バングラデシュに広がるアパレル産業

これを各国の輸出額から確認すると下図のようになる。中国が糸、衣料品ともに位を維持しているが、インド、さらにベトナム、バングラデシュが後を追う構図となっている。
特に衣料品ではベトナムとバングラデシュの増加が著しい。
こうした繊維機械の導入や輸出の状況はアパレル産業の変化を顕著に示している。
最初に示した図にあるように、繊維機械の主な輸入国は中国、インド、トルコ、バングラデシュなどがあるが、これらはグローバルアパレル大手の生産拠点に当たる。

アパレル大手の生産拠点がASEANへ

アパレル大手の生産拠点がどこに位置するかは、アパレル産業やその周辺産業に大きな影響を与える。
H&MやNikeのサプライヤー分布の変化を見ると、その主力は中国からASEANへ移行しており、当然ながら、繊維機械もASEAN地域で多く導入される流れになる。

高機能化するOEMメーカーへの導入拡大

これまでの話はファストファッションなどの需要者側の問題だが、サプライヤーであるOEMメーカーの事情からみても、日本メーカーにはまだ大きな商機があるかもしれない。
OEMメーカーに求められる要素として、価格以外に納品スピードと品質がある。ファストファッションはその名の通り商品サイクルが非常に短く、店頭での販売トレンドに合わせた短納期での製造が求められる。高性能な繊維機械導入による納期の短縮はOEMメーカーにとって重要な問題だ。
また、OEMメーカーの大手の中には、ファストファッションの低価格品だけではなく、ハイエンドブランド向けに主軸をシフトしている企業もある。Shenzhou Internationalはファーストリテイリングの提携工場として知られるが、現在スポーツウェアが売上の大部分を占める。
こうした高付加価値製品の製造には高機能な機械が欠かせない。島精機製作所のようなコンピュータ制御型機械の需要はまだ大きく伸びる余地があるだろう。

アパレルのオンデマンド化で先進国でも需要が出る可能性も

さらに、最近のアパレル業界ではオンデマンド製造の動きが出ている。
ファストファッションのような低コスト地域での大量生産とは逆に、消費地で生産する高付加価値型モデルだ。
アパレルメーカーや小売事業者にとっては、リードタイムの短縮と差別化を図ることができ、繊維機械業界にとっては先進国でも需要拡大が見込める。
Amazonは今年4月にアパレルのオンデマンド製造システムの特許を取得したと報道された。
また、ファーストリテイリングは2016年10月に島精機製作所との合弁によりイノベーションファクトリーを発足した。背景には、島精機のホールガーメント横編機は1着から製造でき、ファーストリテイリングのオーダーメイド戦略を進めるツールとして合致度が高いことがあるだろう。
アパレルは生活用品ではないため、業界は消費者の購買意欲を喚起する手法を求めている。ホールガーメントなどを用いたオーダーメイド製品はまだ通常の製造手法より安いとはいえないようだが、新たな製品の可能性を広げるという点で、コスト面以外の期待が高まっている。