“美談”の背景にハードワーク、「14時間制」高校を考える

2017/5/17
NewsPicksは、J-WAVE「STEP ONE」(毎週月~木 9:00~13:00)と連携した企画「PICK ONE」(毎週月~木 11:10~11:20)をスタートしました。
17日は、オイシックス執行役員の奥谷孝司さんが出演。「塾に行く暇はない 浦高生徒は『14時間制』」(NIKKEI STYLE)を題材に、長時間教育と働き方の関係について解説しました。

教育界における“美談”

サッシャ 今日は、「塾に行く暇はない 浦高生徒は『14時間制』」というトピックにフォーカスです。
寺岡 解説してくださるのはNewsPicksの公式コメンテーター「プロピッカー」の奥谷孝司さんです。
奥谷さんは、無印良品で企画やデザインの分野などで活躍され、「足なり直角靴下」などの商品を開発されました。
オイシックスに入社以降は、主にマーケティング分野のスペシャリストとして活躍されています。よろしくお願いします。
奥谷 よろしくお願いします。
サッシャ 今回ピックしていただいたのは、どういう話題なんでしょうか?
奥谷 非常に偏差値の高い公立の学校で、熱量のある先生と生徒が、いかに素晴らしい教育環境をつくっているかという、教育界における“美談”といった内容です。
サッシャ 内容としてはポジティブなんですね。トップの大学にたくさんの生徒を送り出していると。そのために、学校はどんなことをしているんですか?
奥谷 記事タイトルにもあるように、先生と生徒が14時間という密な時間を過ごして、勉強から体力作りまで、一日の大半を学校で過ごします。結果として、大学の進学率が非常に高いんです。
私は二人の娘を持つ親ですが、「こんな学校に行かせたいな」と、日本の方は思うだろうなという記事です。
サッシャ 僕も子どもがいる身としては「楽だなあ」と思うところもあるんですが(笑)。
寺岡 それでは、塾とかにも行かずに、授業が終わった後も学校で過ごすのですか?
奥谷 記事ではそう書かれていますね。先生たちのハードワークがあり、それについていく熱量が高い生徒がいることで、結果が出ている。日本らしい教育として面白いかなと思います。

先生の長時間労働が課題

サッシャ ただ、これには問題点があるということで、ピックされているんですか?
奥谷 そうですね。長い時間を使えば良い結果が出る環境が、この高校にはある。ただ社会においては残業が問題となり、働き方に効率が求められています。
ある先生がフェイスブックでこの記事をピックアップしていて「教育者としての覚悟」のようなことを書かれていました。つまり、こういう教育をするからには長時間労働になるわけです。
ただ、僕らは不思議なことに「○○という会社はこんなに労働をさせている」となると「悪いことだ!」と言うのに、「○○という学校の先生が長時間教育をしている」となると、誰も「悪いことだ!」と言わない。
サッシャ 長時間労働をしている事実は、変わらないわけですよね。
奥谷 そうです。また、親としても、なぜか教育界や先生に対しては「勉強した方がいい」と言われたら「そうですね」となっているけれど、はっきり言って14時間も勉強するのもブラックですよね。僕なら、しないです。
サッシャ もう少し効率的に勉強できないのかと。
奥谷 そういう言い方もありますよね。サッシャさんが出身のドイツに、こんな学校ありますか、ということだと思います。
サッシャ ないだろうなあ。ギムナジウムに通っている子は相当勉強していますけれど、家庭教師などに教えてもらっています。
あと、小学校では共働きの親が多いので、放課後クラブがありますけれど、それは学校とは別の組織が運営しています。
奥谷 よい成果を出すことは教育においても企業においても同じですし、そこでは必ずハードワークがいる。
ただ、ハードワークであっても、短い時間で成果を出せる方法もあると思います。
サッシャ 先生も、相当プライベートを犠牲にしているっていうことですもんね。
奥谷 そうだと思います。

画一的ではない教育の必要性

サッシャ 奥谷さんとしては、どうしていくべきだと思いますか?
奥谷 日本では、画一的な教育界への信奉があり、また先生を聖人君子のように扱っているけれども、実際の先生はハードワークで悩みもあるんですよね。
サッシャ 本当はもっとプライベートに時間を使いたいけれど、「生徒のことを愛しているから教えている」という悩みがある先生も、必ずいますよね。
奥谷 それに対して、親は「楽でいいな」と教育を任せてしまっている。
また、そこで生まれる画一的な教育は、日本人の平均的な力を強めていますけれども、突破力を削ってしまっているところもあります。
そのため、画一的な教育だけでいいのか、親自らも考えることが求められると思います。
私自身は、アメリカの大学に行ったり、ドイツで仕事をしたりしていますが、優秀な人が、必ずしも今回の記事にあるような教育を受けているわけではありません。
また、少し尖った人と仕事をする方がいい成果が生まれることもあります。仕事は、ときには数分でいいものができたり、ときには数年かかったりするものもあります。
そのバランスも分かったうえで、教育をしていくことが必要なのではないかと思います。
サッシャ そうすると、受験システムそのものを、変えなければいけないかも。
奥谷 そうですね。詰込み型ではなくアクティブ・ラーニングを、とか。
でも、それをどう評価するのかも課題です。いまは偏差値や大学名だけを見て良い悪いと言いますけれど、そうじゃない社会をつくっていかないといけません。
そのため、今回の記事にあるような教育以外にも、もっと違う形で人間力をつけられるように、教育界も社会も親も協力していかないと、未来のいい大人は生まれないのかなと思います。
サッシャ 一度立ち止まって、「このままでいいのかな」と考えることも、いいヒントになるということですね。ありがとうございました。
奥谷 ありがとうございました。
※本記事は、放送の内容を再構成しています。
今回のニュースをはじめとした奥谷さんのコメントは、ぜひ以下からチェックしてみてください。
18日は作家の伊東潤さんが出演予定です。こちらもお楽しみください。

【番組概要】放送局: J-WAVE 81.3FM
番組タイトル: PICK ONE
ナビゲーター: サッシャ、寺岡歩美(sugar me)
放送日時: 毎週月~木曜日11:00~11:20(ワイドプログラム『STEP ONE』内)
番組WEBサイトはこちらをご覧ください