理想のキャリアは「『向いてない』を知る」から始まる 

2017/3/22
時の変化に合わせて “売れるキャリア”も変化する。AIやIoTは求められる人材像を激変させるという。今後、求められる経験やスキルとは何か。スタートアップの領域に強いキャリアコンサルタントである高野秀敏氏と、ビジネスパーソンにとって今人気の“教養”である「プログラミング」を現役エンジニアによるマンツーマンレッスンで教えるコードキャンプの代表取締役、池田洋宣氏との対談で、理想のキャリアのつくり方を探った。
「人が足りない、でも慎重」な採用トレンド
――キャリアコンサルタントとして20年近くのキャリアを持つ高野さんに採用マーケットのトレンドについて、まずはお聞きしたいと思います。
高野:あらゆる業界・職種で、とにかく人材不足です。人が足りない。ただ、採用する企業側は妥協していなくて、競争が激しい中でも、吟味に吟味を重ねて優秀な人材をよりすぐっている傾向があります。求人は、5年周期で波があるのですが、今年は「売り手市場」のピークを感じます。
――業種・業界、企業によって求める人材像はさまざまだと思いますが、共通点はありますか。
高野:大きく2つだと思っています。1つ目は、ある特定分野で豊富な経験があり高いスキルを持つスペシャリスト。2つ目は、今は特筆すべきスキルがなくても、将来に活躍を期待できそうなポテンシャルを感じさせる若い人材です。
――「期待できるポテンシャル」は、具体的にどこで見定めればいいのでしょうか。
高野:やる気です(笑)。というのは、半分冗談で半分本音。今の仕事に全力で向き合いながら、「+α」の活動をしている人材でしょう。ある特定の領域の専門家になるだけではこの先ダメ。得意分野を維持しながら、他のスキルもある程度身に付いているようなマルチスキルが求められます。
任された仕事をまっとうするだけでも大変でしょうけど、それに加えて他の活動できる人材は伸びる可能性が高い。やる気があればそれができますから。
プログラミングを学ぶ7割は非エンジニア
――ビジネスにテクノロジーがますます入り込んできて、ビジネスパーソンが「+α」に学ぶものとしてプログラミングは人気と聞きます。
池田:そう言えると思います。受講者全体のうち、エンジニア志望者は全体の30%くらい。それ以外はソフトウェアをつくらない営業やマーケティングといったビジネス部門の人だったり、経営者だったりします。
それと、受講生の70%は、身銭を切ってプログラミングを学んでいます。所属している企業からお金を出してもらっているわけではない。そういう意味では、高野さんの言う「今後期待できる」人、やる気がある人たちばかりです(笑)。
「実は私もプログラミングを学んだ」
高野:私、あまり大きな声では言えないんですが、プログラミングを学んだことがあるんです。
きっかけは新しいWebサービスを立ち上げる予定があって、知人から「自分でつくってみたら?そのためにプログラミングを学んでみれば?」って言われたことでした。
池田:学んでみてどうでしたか。なぜ大きな声で言えないのですか?
高野:つらかった……。結局、私には向いていないことがわかりました。私には真っ黒い画面よりもFacebookのガチャガチャした色の画面のほうが合っていました(笑)。大きな声で言えないのは、1カ月でやめたから……。
でも、ここで私は異分野のチャレンジがとても重要なことに改めて気づきました。エンジニアとしてのスキルが身に付かなくても、別の重要なことも得られると私は思っています。
――それは何ですか。
高野:向いていないことに気づいたことです。チャレンジしてみると、自分がそれに向いているか好きかどうかがわかります。
キャリア形成で大切なことは、「キャリアの選択範囲を狭めること」です。みなさん、キャリアの選択肢を増やそうとしますよね。でも、それは違っていて、自分は何に向いていないのか、自分の不得手は何なのかを知ることで、おのずと自分の道が決まってくる。
未経験の分野へのチャレンジを繰り返していけば、いずれ自分の適性が見つかり、「好きで得意な分野」で勝負をしていくことができます。私は、これが理想的なキャリアをつくる方法だと考えています。
下世話な言い方をすれば、恋愛と同じ。前から気になっていた好きな子がいるとしますよね。なのに、何もアクションを起こさずにいたら、生涯付き合うことはありません。そんな人がいたら、私だったら「今すぐに告白しろ」とアドバイスしたい。もしフラレたらご縁がなかったと諦めて、次の女性にターゲットを変えればいい(笑)。自分に適したキャリアの見つけ方もこれと同じなんです。
エンジニアの気持ちがわかる
――適性が合わないという以外に気づきはありましたか。
高野:テクノロジーがある程度理解できるようになり、その結果、ビジネスに対する理解度も深めることができました。
それと、エンジニアを今まで以上にリスペクトするようになりました。それまでは働く環境を何かと気にして、高価なチェアなどを購入したがるエンジニアの気持ちは全くわかりませんでした(笑)。
でも、自分自身が何時間もコードを書き続ける身体的負担を経験したことで、そんなエンジニアの主張も「もっともだな」と思うようになりました。
池田:(笑)。高野さんのご意見に同感です。
プログラミングを学ぶのは、単にエンジニアを目指すことだけが目的ではないと思います。
テクノロジーは、今後ますます私たちのビジネスに浸透していくでしょう。どんな商品やサービスにも、それ自体にテクノロジーの要素があるか、生み出すプロセスにテクノロジーが使われているはず。
そのテクノロジーを操るエンジニアの苦労やプログラミングの困難さを理解していることは、エンジニアと一緒に仕事をする際に良好なコミュニケーションを築きやすくしますから、どんな職種でもアドバンテージになるでしょう。
高野:向き不向きを知るためには何気なく始めて中途半端に進めるより、身銭を切って挑むくらいでないとダメ。その意味で、プログラミングを学ぶには独学よりもコードキャンプのようなサービスを受けるのは適していると思います。
エンジニア志望ではないのに学んだ理由
――エンジニアとの関係性やネットワークが、これからのキャリアにおいて重要というわけですね。
池田:はい。実は私も、もともとエンジニアだったわけではありません。社会人最初のキャリアはWebディレクターでした。そんな私がプログラミングを学んだのは「エンジニアと密にコミュニケーションを取り、仕事の理解度を深めたい」という理由からでした。
高野:キャリアコンサルタントの仕事をしていると「優秀なエンジニアが採用できない」と嘆く社長の声をよく聞きます。でも、そんな社長に限ってテクノロジーのことをあまり理解していません。
さすがにIT・ネット系の企業にそのような社長はあまりいませんが、非IT・インターネット系企業の経営者にはよく見られます。
そのような経営者はエンジニアと会話をしても盛り上がらないですし、エンジニアはそんな会社に入りたいとは思いません。
そんな会社の事業モデルを見ても、テクノロジーがわかっていないから、どこかズレていると思うことが多いです。経営者もプログラミングスキルを学ぶことは重要です。
池田:当社のスクールを受講する経営層は増える傾向にあります。中でも今後シュリンクすると言われている業界で働く経営層の危機感は強く、プログラミングを学ぶことで新規事業の創出につなげたいと考えているようです。
会社に戻り、管理職や若手にプログラミングを学ばせる目的で受講される方も増えてきました。
プログラミングは一般教養
――プログラミングはエンジニアだけのものではない、というわけですね。
高野:一般教養としてみていいと思います。小学生もしくは就学前のお子さんにプログラミングを学ばせることは、能力開発教育という観点から重要だと思います。プログラミングを早くから学んだ子どもの中から、一流のエンジニアが生まれるかもしれません。
また、繰り返しになりますが「好き・嫌い」を若い時から知るという観点からも、プログラミングを早くから学ぶことは意義のある取り組みだと思います。
池田:プログラミングを学習すれば、コンピューターの仕組みも学べますし、コンピューターを使ったサービスや仕事の理解にもつながります。
所属している企業で使っているシステムの開発言語にもよりますが、初めての人はWebページを作成する際などに用いる「HTML/CSS」や「PHP」、データベースをつくる「SQL」を学習するだけでも概念は理解できるので、エンジニアとの会話にも生かせますし、企画の精度も高くなります。
今後はますます世の中のサービスや仕事は、人の手からAIなどコンピューターを使ったものに置き換わっていくことでしょう。
そんな世の中では、コンピューター系の知識がない人よりもある人の方がどんな分野でも求められると思います。
(聞き手・編集:木村剛士、文:杉山忠義、写真:風間仁一郎)
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