前回も掲載した通り、現在住宅リフォームは補助金などにより活況を迎えている。
補助金以外にも2015年4月に日本に上陸したHouzzなど、本格化している住宅リフォームのオンライン集客が影響していると考えられる。アマゾンジャパンが同年6月に「Amazon.co.jp」内に住宅リフォーム専門の「リフォームストア」を開設。また、グリーが「リノコ」や「LIMIA」を開設するなど、大手も参入している。
そこで今回は水廻りのなかでもトイレに焦点を当てる。

水洗式便器の販売数は安定推移

水洗式便器の出荷金額、販売数をみると、販売数が2006年にピークであった一方で、出荷金額は2008年にピークとなっている。出荷金額が2006年から一時的に拡大した要因として、便器の多機能化、節水化による販売単価の上昇が挙げられる。ただし、その後は概ね販売数量の推移と連動した動きとなっている。
トイレの製品寿命は約20年といわれている。今後大幅な増加は見込めないものの、買い替え需要もあるため、販売数は安定推移すると考えられる。
なお、水洗式便器の販売数量は、新設住宅着工戸数の3倍前後の規模で推移している。要因として、住宅用の水洗式大便器・小便器の比率は6割弱で、4割強は業務用が占めていることが挙げられる。

温水洗浄便座の普及率は8割超

温水洗浄便座は、日本レストルーム工業会によると、1967年に伊奈製陶(現:LIXIL)が国産初の温水洗浄便座付きトイレ「サニタリーナ61」の発売を開始して以降、徐々に普及している。一般世帯における温水洗浄便座の普及率は上昇を続け、2015年度には81.2%と、今では当たり前のものとなった。
また、温水洗浄便座は一般家庭に限らず、オフィスビルや商業施設、ホテルなど、パブリック用途にも採用されている。
なお、温水洗浄便座の総称としてウォシュレットやシャワートイレと呼ぶ人もいるが、ウォシュレットはTOTO、シャワートイレはLIXIL(INAX)の商標である。
他の家電同様、日本のトイレはますます多機能・高機能となっている。一連の流れを見ていくと、日本特有のおもてなしを感じられる。

進化を続けるトイレ

まずは、フタの前に立つと自動に開く。便座に腰をおろすと便座はあたたかく、用を足しているときは音姫で音を消す。用を足した後は温水洗浄便座でおしりを洗い、乾燥させる。きれいになったところで、立ち上がると自動で水が流れ、便器内の清掃までしてくれる。フタが自動で閉まるトイレも多い。
手洗いも、手をかざすと自動に石鹸や水が出てくる。手洗い後は、エアーブローで手が乾かせる。
最近ではトイレに取り付けるヘルスケア装置も発売されるなど、トイレ空間において用を足すときに必要な機能以外の開発も行われている。今後は毎日のように尿検査をできるようになり、自分の体調などが可視化できるようになるかもしれない。

パブリックのトイレ空間も綺麗に

日本では家庭だけでなく、パブリックのトイレ空間も進化している。近年は百貨店や商業施設などがトイレ空間を見直し、美しくかつコンセプトを持った空間にする傾向がある。
ポップな色使いや、カフェのような雰囲気、ラグジュアリーな雰囲気など、従来のトイレのイメージを覆すような空間を作り出している。
また、2015年5月には内閣府の有識者会議「暮らしの質」向上検討会が、「ジャパン・トイレ・チャレンジ」という政策で、『2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機として、「おもてなし」の観点から訪日外国人向けに日本の高機能トイレの使い方やピクトグラムの解説を行い、日本の高機能トイレの快適さ・清潔さを体感してもらうことで、魅力ある日本のトイレの発信とその普及・拡大に繋げていく。』とある。
次に、こうした市場におけるトイレメーカーの動きをみてみよう。

3社による寡占市場

まず、トイレには、吸水性が低い、汚れが付きにくい、表面硬度が高く傷がつきにくいなどの性能が求められ、それらを満たす素材として陶器と樹脂(有機ガラス系樹脂)がある。
陶器製のトイレメーカーといえば、TOTOやLIXIL(INAX)が思いつく人が多いだろう。一方、樹脂製のトイレメーカーは、現在CMもしているためパナソニックの「アラウーノ」を思い出す人も多いかもしれない。
市場はこの3社による寡占市場となっており、そのほか中堅メーカーのジャニス工業やアサヒ衛陶も存在するが、OEM生産の比率が高く直販はわずかである。
主要3社の特徴を表にまとめた。

使用水量は約1/3に減少

トイレは生活排水の約3割を占める。1人が1日に使用する水が250リットルとすると、トイレに使用する水は75リットル程度にのぼる。家族4人ともなればかなりの量となる。
こうした問題に対し、2006年頃からトイレの節水化が急速に進んでいる。
従来は一度の洗浄に約13Lの水を使っていたものがほとんどだったが、最近の主流である節水型トイレは、一度の洗浄の使用水量(大)5L以下が主流であり、一番少ない使用水量(小)は3Lである。
節水化の進行を後押ししたのは、タンクレストイレの開発である。
従来は貯水タンクが必要であったが、近年では、貯水タンクを必要としない節水効果の高いタンクレストイレが開発された。またそれによって、その他のタンク付トイレの節水化も進行した。
数値をみると、2006年より販売され普及が広がっている節水型トイレは、2012年10月には販売台数1,000万台を突破し普及率は13%まで到達した。その後の販売台数については開示がされていないが、ショールームなどで節水型トイレが多く陳列されていることから、2013年以降も伸長していると考えられる。
なお、タンクレストイレではパナソニックの「アラウーノ」が約40%でシェア1位となっている。値段が安いこと、新素材だから可能な「全自動おそうじ」機能が搭載されていることなどが要因であると考えられる。

このように日本では大幅に進化、普及している節水トイレであるが、海外でのニーズはあるのだろうか。

多数の国で洗浄水量に規制

実は、トイレの節水という意味では日本より世界の方が厳しい場合が多い。
世界各国では、水不足が深刻な地域が多くあり、水不足を防ぐためにトイレ(大便器)の洗浄水量規制が設けられている国や地域が存在する。
TOTO発表資料によると、トイレの洗浄水量「6リットル規制」は、カナダやメキシコ、ブラジル、イギリス、サウジアラビア、中国の都市部など、世界的に広がっている。また、オーストラリアでは、「5.5リットル規制」、アメリカのカリフォルニア州、ジョージア州、テキサス州といった一部地域では「4.8リットル規制」、シンガポールでは「4.5リットル規制」とさらに進んでおり、深刻な水不足による節水ニーズの高まりが見受けられる。
なお、上場しているトイレメーカーは、TOTO、LIXIL以外に、ドイツのGeberit AG、台湾のGlobe Union Industrial Corp.などがある。フィンランドのSanitecも2013年に上場したが、2014年にGeberit AGに買収されている。そのほか、非上場では米国のKOHLER、スペインのRoca、ドイツのDuravitなどが有名である。

海外には異なるトイレ文化

海外には、便座のないトイレがあったり、鍵が閉まらないトイレがあったり、用を足した後に水が流れなかったり、日本では考えられない状況を目にすることが多い。しかもそれは新興国だけでなく、欧米などの先進国でも起こりうる。
違いの多い世界のトイレ文化の中で、日本メーカーの海外展開はどうなっているのだろうか。

海外展開に積極的

海外展開は日本企業の共通課題であり、トイレメーカーも積極的に展開しているが、各社でその手法は異なる。
LIXILはM&A戦略をとっており、米国の大手トイレメーカーであるAmerican Standardのアジア部門を2009年に買収、さらに2013年に北米部門を買収している。また、2014年にはドイツの水廻りメーカーで、欧州では圧倒的な知名度を誇るGROHE Groupを買収した。
American Standardは北米の市場シェア約21%、GROHE Groupは欧州の市場シェア約15%と、ともに高い市場シェアを持つ企業である。これにより、アジア・北米・欧州の三大地域でのプラットフォームを確立した。
一方、TOTOの海外展開は自前主義であり、LIXILのような買収はない。欧米、アジア、中東などに展開している。
2011年度の海外売上高比率は14%にも達していなかったが、ブランド認知を進め2015年度は住設事業で22%、全体では24%まで上昇した。
TOTOの海外売上高は半分以上が中国となっており、米国や欧州、中国以外のアジアでの浸透率は高くない。なお、直近の決算では為替の影響により減収減益となっているが、現地通貨ベースでは増収増益であり、販売は堅調である。

まとめ

やはり今後の鍵は海外事業だろう。
LIXILは中期目標として、売上高3兆円のうち1兆円を海外で稼ぐと明記している。そのためにはさらなる海外M&Aが不可欠だとしており、今後もM&Aは行っていくと考えられる。
一方で、TOTOは節水と温水洗浄を武器に独自ブランドで進める方針である。4.8L便器をグローバルスタンダードと位置付け、4.8L以下の節水便器をグローバルに普及させ、2017年度までに節水便器(大洗浄 4.8L 以下)の出荷比率を海外で80%に高める目標を掲げている。また、アメリカ・ニューヨークのショールームを増床するなど、普及活動を地道に行っている。
温水洗浄便座については、高級ホテルを通じて浸透させていく戦略をとっている。良さを実感してもらい、認知度も高めていく考えであるが、欧州でのホテルの採用件数は累積41件といまだ少ない。
しかし、Cool Japan投票(2012年)では、ハイテクトイレが2位を獲得するなど外国人にも評価される可能性はある。習慣や電源設備などの物理的問題、現地企業との競争など課題は多いが、節水性能の高さや温水便座などの利便性は日本メーカーならではのお家芸であり、今後の展開に期待したい。