地域の中に入り込み、継続してお金を生む事業の仕組みを創出し、地方を、ひいては日本を良くしようと果敢に挑戦するアスラボ。同社はシャッター商店街をよみがえらせる横丁事業で、地域活性化の成果をあげている。地方創生の原点と言える、地方経済の循環に取り組む同社代表の片岡義隆氏と、大分県に移住して大分横丁をオープンさせるべく奮闘する2名の社員にお話を伺った。
シャッター商店街の再生
アスラボの地方創生、中心市街地活性化の取り組みは、僕らが主人公ではありません。地元の人が主体で取り組むことで成功を目指す。成功した人の姿を見て後に続く人があらわれ、さらに成功する人が増えていく。
この循環を地方の人と一緒になって本気で作りたいと考えています。
僕らが目を付けたのは、シャッター商店街です。廃れてしまった商店街の物件を買い取り、それを横丁という形で再生できないかと考えました。場所は山梨県甲府市。ここに、かつて栄えていたけど廃墟と化した、築50年の幽霊ビルがありました。
全国にあるシャッター商店街の象徴とも言えるこの場所をどう再生させるか。再生できなかったら、「地方を良くする」という掲げた理想は、ただの夢物語で終わってしまう。地方を良くし、日本を良くするために、僕らは覚悟を決めて横丁プロジェクトをはじめました。
代表取締役 片岡義隆
大学卒業後、不動産鑑定事務所、不動産投資会社、投資ファンド会社を経て2010年にアスラボを創業。社会的意義と収益面の両方を実現させることで、世界をより良い方向に変えていくことを目指している。
とはいえ、最初はとにかく大変でした。成功事例がないゼロベースのプロジェクトなので、当然銀行は融資してくれないし、仲間が集まりません。いくら説明して周っても、「横丁ってなに?」「融資は無理」と断られ続けました。
物事が動き始めたのは、話をした人の数が1000人を超えたころでした。「本気でこの街を良くしたい」という僕らの想いが地元の人と分かり合えたことで、一緒にやろうと言ってくれる人が一人、また一人と出始めたのです。
そこで、手を挙げてくれた人たちとチームを組み、何をやりたいか、どんな場所にするかを考えてもらいました。僕らがやることは、施設の運営サポートと東京とつなぐこと、そしてビジネスの仕組み作りです。
人が集まれば実現まで時間はかかりません。最初に物件を見に行ってからちょうど1年後の2015年5月に「甲府ぐるめ横丁」はオープンしました。
「地元の人が主役」に意味がある
今、甲府ぐるめ横丁では、飲食店での成功者が続々と出ています。その様子を見たり聞いたりした若者たちが、「自分もやってみよう」と新たに挑戦するようになってきました。飲食店だけでなく、ジュエリーショップやスクール、シェアオフィスも生まれています。
そうやって、地元の若者や起業家が頑張っているから、重鎮たちも黙ってはいません。役所や議員も同じで、みんなが応援しはじめる。結果、オープン以来、横丁の売上は継続的に良く、幅広い年代の人が集まり、愛される場所になりました。
そして、横丁の活気は近隣の商店街にも飛び火し、新規飲食店が出店するなど街全体が活気づいてきました。これぞ我々が目指した世界。
もし、これを東京の僕らが主体で成功させていたとしたら、甲府の人たちは自分事化できずに、きっと一過性の流行ものになっていたでしょう。
横丁は、アスラボがやったのではなく、地元の若者や起業家が主体的に取り組んだことで成功した事例。これがまぎれもない事実なので、みんなが自信を持ち、次のアクションにつながっているのだと思います。
オープン以来盛況の「甲府ぐるめ横丁」
九州から全国、そして世界へ
横丁ビジネスはこれから本格的に拡大していきます。次の土地は、九州の大分県。現在大分に社員2名が移住して、地域に入り込んで横丁の企画を進めています。オープンは6月を予定しており、年度内には九州全県で横丁を展開したいと考えています。
九州全県に横丁ができたら、次は各横丁のいいものを集めた「九州横丁」を博多と東京に作ります。そして、九州横丁でのコト消費をモノ消費につなげられるよう、そこで飲んだ焼酎や食べたマンゴー、地鶏などをその場でネット購入できるようにする。
東京には早ければ2018年に、2019年には全国の県庁所在地に各地の横丁をつくり、ASEANを中心とした海外にも進出して、日本の食文化や観光資源を伝えたいと考えています。
地方の素晴らしいものが地方だけに留まっている現状を打破し、素晴らしいものが東京や世界に出て行き、代わりにお金と人が地方に入ってくるような循環する社会。それを目指してアスラボは猛進します。
地方と東京がつながるべき理由
地方の活性化は、地方の人と東京の人がチームを組んでやることで実現すると考えています。なぜなら、地方の人は東京で野菜を売りたいと思っても、東京のどこで売ればいいのか、誰に頼ればいいのかなど含めて、難易度がとても高いから。
たとえば先日、大分の農家さんから「パクチーの売り先に困っている」と相談を受けたときのこと。役員の一人が、話を聞くなりすぐに渋谷や恵比寿、代々木の飲食店に飛び込み営業をして、売り先を開拓したのです。
長い目で見れば戦略的に販路を開拓するのがいいかもしれません。もちろん、それは農家さんも分かっていること。だけど本音は、目先の1万円を今すぐに作ってきてほしいのです。こうした気持ちを分かって、同じ目線で一緒に汗水流せる会社が東京に生まれるといいなと思っています。
地方創生の原点は、地方の人が自発的に自走できる仕組みや関係性をつくること。だからこそ、東京の人や企業とチームを組んで利益を伸ばし、東京や世界に進出できるつながりが必要だと思っています。
地方の素晴らしいモノや人が集まれば、甲府のようにどこでも成功できるはずです。だから僕らは挑戦の場としての横丁を全国に展開し、そこでたくさんの地元の人にチャレンジしてもらいたいと思っています。
地方創生は、本気の熱量と結果が重要
アスラボは、時代の流れや流行などを受けて、“ファッション感覚”で地方創生をやりたい人は求めていません。本気で日本を良くしたい、そのためならなんでもやるというパッションを持っている人を求めています。
加えて、地方の気持ちや状況を理解して、情熱を持って120%コミットし、結果を出せる人。きれいな理屈やロジックを並べるのではなく、地方や日本のことを本気で考えて取り組み、圧倒的な結果を出せる人にぜひ来てもらいたいと思っています。
大分で奮闘、移住社員
左:田中健大、右:木村雅人(オンラインで参加)
――現在、大分で横丁をオープンするために、大分に移住して企画を詰めている田中健大さんと木村雅人さん。お二人がアスラボに入社した理由を教えてください。
田中 僕の前職は農家です。長崎県の壱岐という島にIターンして農業を営んでいました。アスラボとの出会いは、そろそろ島を出ようかなと考えていたときに、アスラボが運営している元麻布農園の記事を読んだことでした。
代表の片岡に会ってみたいと思って連絡すると、島まで会いに来てくれました。共感したのは、地方の問題の原因になっている構造を変えて、社会変革を起こそうとしていること。
しかもきれいごとではなく、ちゃんとビジネスとしてお金を生む仕組みを作ろうとしているところにひかれました。それに、アスラボの地方創生は、社員が現地に移住するところから始めます。その覚悟がいいと思い、入社を決めて家族ごと大分に引っ越しました。
壱岐で農家をしていたとき、地方創生をしようと多くの企業が訪れましたが、残念なことにその多くは中途半端でした。
結局、ドラマはリアルの中にしかないんです。都会の人がアピールしたい地方や農家のイメージはどこか美談で、毎日必死に歯を食いしばって仕事をしている僕らの日常とはかけ離れていました。
地方に必要なのは経済循環をつくることです。人口が減り、教育や医療が充実していない貧困な状況から脱却し、活力を取り戻すにはお金が必要。東京の会社と組んで仕事ができるようになれば、地方に経済循環が生まれるはず。
そうした課題を感じていたので、アスラボに希望を持ちました。
木村 私は入社前、全国規模のブライダル企業の経営企画として、東京で働いていました。フロントに立って人に喜ばれる仕事をしたいと思い始めたころ、縁あって片岡のトップセミナーに参加したのです。
積極的に転職を考えていたわけではなかったのですが、「本気で地方を良くしたい」という片岡の熱い想いが強烈に伝わってきて、その場で「人生を賭けてチャレンジしたい」と思いましたね。
社会的意義のあることをやるだけでなく、それをビジネスとしてお金を生み出していることに感銘を受けました。
東京で育った私は、今まで地方に住んだことは一度もありませんでした。だからこそできることもあると考えています。
一過性の地方創生で終わらせないよう、自ら移住して地域に入り込み、地元の方を中心に横丁を創り上げる。そして、横丁を起点として地域全体が活性化する仕組みを考えていきたいです。
課題は会話からしか見えてこない
――大分では、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
田中 僕らの仕事は、地域に溶け込んで、いろんな方に会いに行くことです。とにかくたくさんの人と会って想いを伝え、大分の人の話を聞き、それを横丁にどう生かしていくかを考えています。
木村 道行く人でもどんどん声をかけますよね。
田中 直売所に行って、野菜を卸している農家さんの名前を調べて会いに行ったり、公民館で座っているお年寄りに声をかけたり。なんでもやるのがアスラボスタイルです(笑)。
僕らが掘り起こさないといけないのは、調べても出てこないような、表に出ていない課題。それは、毎日たくさんの人と出会い、関係を築き、話をすることでしか見えてきません。
だから僕らは本気で大分の人と向き合って、朝の3時でも4時でも話をするし、畑にも出るし、草むしりもする。
木村 私は農業経験がなかったので、畑で手伝いをさせてもらいながら、生産者さんの想いを聞かせてもらいました。初日に革靴で行ってしまい、大変なことになりましたけど(笑)。
でも、現場に出向いて温度感を肌で感じること、地元の方に我々の本気度を示すことが何よりも大切です。
田中 そうやって地域に入り込んで情熱を注いでいるからこそ、最近では地元の方がアスラボの事業を周りの人に伝え、人を紹介してくれたり、大学生が企画書を持ち込んでくれたりするようになりました。これは自信につながっています
大分県の生産者さんと(右:木村)
地方と都会の常識は違う
――大分で活動をするなかで学んだことや気付いたことはありますか?
田中 地方と東京、それぞれの常識はお互いに通用しないことを再認識しています。地方は交通手段が自動車ですし、東京のように事業者が密集していないので、1日4件生産者を回ろうと思えば、朝4時から動かないと間に合いません。
ネット環境が不安定な場所もあるので「あとはメール」で、という会話が成立しないし、一筋縄ではいかない人間関係もあります。
木村 コミュニティの狭さは東京と大きく違うところですね。人とどこでもつながるし、うわさもすぐに広まる。最近では、商店街を歩くと何人もの知り合いと出会い、挨拶を交わすようになりました。これは私たちが移住して活動しているからこそできた信頼関係です。
覚悟を決めて、期待に応える
――大分で取り組むなかで、地方創生に必要なことは何だと感じていますか?
木村 東京から移住して1カ月ほどですが、ゆるぎない熱い想いを持っていることが、どれだけ重要かがわかりました。地域の人からすると、私たちはよそ者です。熱量を持って本気で話さないと受け入れてくれません。
だから、地方や日本を良くしたいと本気で考え、周囲の人々を巻き込んでいく熱量のある人にはぜひ仲間になって欲しいですね。
田中 熱量に加えて、地方創生は覚悟が必要です。約束をしたら守るのが鉄則。会社や周りがどうであろうが、自分が言ったことはやらないといけない。
「商店街で面白いことをやりたいんです」というのは簡単だけど、言った以上、期待する人はたくさんいます。僕はこれまで、こんなにもたくさんの期待と想いを受け取ることはありませんでした。
だからこそ、みんなに愛されたいし裏切れない。今僕らには使命感しかありません。よそ者にしかできないことはあるので、期待に応えて大分で横丁を大成功させたいと思っています。
(取材・文:田村朋美、写真:須田卓馬)