SPEEDA総研ではSPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は普段スーパーやコンビニエンスストアでよく見かける生鮮食品や総菜、お弁当などのプラスチック食品容器を取り上げる。

包装・容器の中でもプラスチック製品は増加傾向

日本包装技術協会によると、プラスチック製品の出荷額は紙・板紙製品に次いで多く、また増加傾向にある。なお、同データは包装・容器全体を取り扱っていることから、紙・板紙製品は購買時の包装紙や紙袋が中心と考えられる。

プラスチック食品容器に求められる機能

プラスチック食品容器には多くの利点があるが、その一つが安全性である。プラスチックは一般的に酸、アルカリ、油に強く、またガス透過性が小さい。
食品容器は第一に安全、衛生であることが求められる。プラスチックは衛生的であり、容器は高温に加熱して成形されることから、雑菌の混入がない。また、食品の鮮度を維持し、酸素などを遮断することで、痛みやすい食品の腐敗や品質の低下を抑えることができる。このため、青果物、肉や魚といった生鮮品や、卵などの容器包装として使われているほか、総菜や弁当など調理済み食品の容器包装としても広く使われている。
上記に加え、輸送のしやすさや商品の陳列にも一役買っている。
なお、耐熱温度も重要なポイントの一つである。
発泡ポリスチレン、ポリスチレンシートを材料にした食器は、高温のレンジで長時間温めると容器が耐えられない。一方で、140℃までのレンジアップに耐えられるポリプロピレン樹脂製、PET樹脂製の容器が、中食の需要増加を支えているとも言える。

業界団体の自主規制で担保されている安全性

さらに素材自体については、業界の自主規制などで安全性を担保する。
プラスチック食品容器の製造では、主に毒性が顕著な物質について含有量または溶出量の制限を定められているものの、現在使用が認められた物質のリストはなく、原則すべての物質が使用できるネガティブリスト制度となっている。
しかし業界では安全性を高めるため、三衛協(ポリオレフィン等衛生協議会、塩ビ食品衛生協議会、塩化ビニリデン衛生協議会)がプラスチックの種類別に自主基準を定める。
なお、厚生労働省は2016年8月に食品用器具及び容器包装の規制に関する検討会を立ち上げており、現行のネガティブリスト制度からポジティブリスト制度への変更を検討している。現在は最終取りまとめ中である。

PL(自主基準合格)マーク

ポリオレフィン等衛生協議会が食品の包装、容器に使用するポリオレフィン等の樹脂に自主基準を設けており、合格した製品には以下のマークがつけられている。

主な原材料はナフサ

ここでプラスチック製品の製造の流れを簡単に紹介する。
石油からプラスチック原材料となる合成樹脂が作られ、さらに成形加工されてプラスチック製品ができる。
原油を蒸留、精製するとナフサができ、ナフサを分解、精製するとエチレン、プロピレンなどのモノマーとなる。さらにモノマーを化学反応させると、プラスチック原材料となるポリエチレン、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレンなどのポリマーとなる。プラスチック食品容器メーカーはポリマーを成形加工して製品化する。

ナフサ価格は落ち着きを見せる

プラスチックの主な原料は石油から作られるナフサであり、その価格変動が業界に大きな影響を与える。
ナフサの価格推移を確認すると、2008年9月まで上昇し、2009年1月にかけて急落している。その後、再び上昇傾向にあったが、2014年以降は下落し、2016年は概ね横ばいとなっている。

代表的なメーカーはエフピコ、中央化学

代表的なプラスチック食品容器メーカーとしては、エフピコ(広島県)、中央化学(埼玉県)が挙げられる。また、非上場企業ではリスパック(岐阜県)などもスーパーや惣菜専門店で使用されている。
エフピコは、今では普通に使われるようになったカラートレーや電子レンジで加熱することができるトレーを国内で初めて開発した。同社によると、国内の簡易食品容器市場の約3割を占めており、食品トレーの3つに1つは同社製品の計算となる。
中央化学は、1982年に低発泡ポリスチレン素材であるシーファイン(CF)の製造、販売を開始しており、この生産設備を海外に輸出するなど、海外進出も図っている。
現在業界首位のエフピコは1998年度に中央化学の売上高を抜き、直近まで増加傾向にある。

原材料高騰で明暗がわかれた両企業

次に、上場企業であるエフピコ、中央化学の製品構成を確認する。
エフピコは弁当容器を中心にトレー容器や包装資材を展開している。一方、中央化学は創業時ジュースびんやポリエチレン樹脂製のしょう油、ソースびんを製造していたが、現在は汎用食品容器が中心となっている。
両企業の販売実績の推移をみると、エフピコは原材料の高騰を販売価格へ転嫁していることから、2008年までの原油ならびにナフサの高騰による大きな影響は受けておらず、基本的に一貫して増加傾向にある。なお、原材料の急落でも同様に販売価格へ反映させている。中央化学は2005年度を境に売上高が減少に転じ、2008年までの原油ならびにナフサの高騰では販売価格へ転嫁できなかったことから大きな影響を受けた。

両企業の差は売上原価

両企業の売上高の内訳を確認する。売上高を大きく売上原価、販売管理費、営業利益にわけると、すでに売上原価率で差があり、販売管理費率に大きな差はないことがわかる。
なお製造原価明細を確認すると、材料費で約1割、また労務費も中央化学が高い。

中食需要増加とリサイクルを追い風に

プラスチック食品容器は引き続き一定の需要が見込め、今後は中食市場も期待されることから、両企業とも新製品の開発に注力している。食品容器自体の機能強化や小売業での作業の効率化、食品の見栄えの改善に加え、食品容器のリサイクルも大きな効果がある。
2007年施行の容器包装リサイクル法では、食品メーカーや小売業者にもリサイクルが義務付けられ、再商品化委託料を支払っている。再生材料を利用した容器は原材料を抑えることができる上、食品容器の薄肉化、軽量化を実現することで、上述の委託料負担の軽減にもつながっている。
エフピコでは、世界で初めて、回収した使用済みトレーやPETボトルを原料に再度食品トレー容器を作る循環型リサイクルを開始し、エコマーク認定のエコトレーは同社の主力商品となっている。
こうした原料使用量を削減した新製品の投入とリサイクルシステムの構築による囲い込みが同社の成長を支える。
エフピコは、一見地味で価格競争に陥りがちなコモディティであっても、創意工夫によって事業を拡大してきた好事例といえるだろう。食品容器業界のさらなる進化を期待したい。