【川村元気】都市に生きる「30代以上男性」の病

2017/2/22
『君の名は。』のプロデューサーとして、映画史上に残る大ヒットを生み出した川村元気氏。その活躍のフィールドは広く、昨年11月には、2作目となる小説『四月になれば彼女は』を上梓した。なぜ今、恋愛小説を書いたのか。100人に取材して来て見えてきたものは何か。そして、なぜ現代の女性は男性に絶望するのか。現代の男と女を語り尽くす(全6回)

第1回:小説とは「自己破壊」である
第2回:現代の女性はなぜ男性に絶望するのか
第3回:都市に生きる「30代以上男性」の病
第4回:「忙しい」が偉すぎる
第5回:このままだと戦争が起きる
第6回:「オフライン回帰」のフェイズが来る

結婚は恋愛を殺すのか

――前回は最後に男女がなぜ別れるかの話で終わりましたが、小説『四月になれば彼女は』の中でも、結婚と離婚のはざまで苦しむ女性が出てきますね。恋愛が変質している中で、日本は、先進国の中で、婚外子を認めていない数少ない国であり、結婚という制度もまだ強固です。小説を書く中で、この現状は時代の流れに合っていないと感じましたか。
確かに日本では結婚制度が今も強固ですが、恋愛が失われているのはユニバーサルな問題だと思っています。愛情、恋愛感情が失われていくのをなぜ止められないのかというのは、ニューヨークでも、パリでも、ロンドンでも、北京でも、都市に生きる人間すべてが直面しているのではないか。
【川村元気】なぜ東京から恋愛が消えたのか?
なぜそうなっているのか考えると、まず、「みんな自分のことを愛しすぎている」。僕もそうですが、自分が大好き(笑)。結局、自分が好きな人にとっては、恋愛というのは一番非合理的なんですよね。
自分が好きな人にとって、恋愛や結婚とは、「お金もかかる、時間もかかる、縛られる、いろんな感情に振り回される、なんでこんなことをやっているの?」というものになる。
さらに言うと、結婚は、恋愛感情を契約で縛るというかなりタフなことなので、時代に合わなくなってきているとは思います。
フランスは早々に事実婚になっていますが、散々恋愛について研究し尽くした国民がたどり着いた答えの1つだとは思いますよね。日本がすぐに結婚制度から解放されるとは思いませんが。
川村元気(かわむら・げんき)
映画プロデューサー / 作家
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、映画プロデューサーとして『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『バケモノの子』『バクマン。』『君の名は。』『怒り』『何者』などの映画を製作。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表し、100万部突破の大ベストセラーとなり映画化。著書に『仕事。』『理系に学ぶ。』『超企画会議』
――結婚は恋愛を殺すのでしょうか。
そう思いたくはないですが、周りを見ていると、そう思えてしまう時もあります。
ただ、結婚は恋愛を殺すかもしれませんが、結婚するためには恋愛が必要ですよね。
僕は小説の中で、恋を「日蝕」に例えました。
太陽と月が重なる瞬間のように、恋愛をしている中でも「あの時、たぶん、あなたと私はこれだけ多様な愛情というものがある中で、同じ気持ちを共有していた」ということが絶対あるはずなのです。それは結婚式の瞬間かもしれないし、恋に落ちた瞬間かもしれない。逆に言うと、それがないと、一緒にいられない。
(写真:iStock/solarseven)
だから、太陽と月は避けがたく離れていくわけだけれども、その中で、「あの時、重なっていた」ということをよすがにしなければ、何をよすがに恋愛から離れてしまってからも一緒にいるんだろう、と。
僕たちは、「お互いに分かり合えない」ということも含めて、「分かり合えない人たちが重なった瞬間がある」という奇跡を体験したからこそ、自分と相手の関係を信じていけるのだと思います。

だらしない男たち

――今の男はだらしないと、今回の取材で感じましたか?
だらしないですね。自分も含め。
――どういうところがですか?ちょっと男を叱ってください(笑)。
女性は生き方が多様ですし、意志がある。「こうしたい」とか、「本当はこうなりたい」という意志を強く感じます。だからこそ、きれいごとではなく、僕はそれを書きたいと思いました。
四月になれば彼女は』を書きはじめた当初は、どこにこの物語の着地点があるのか迷っていました。でも、希望に向かっていくことになったのは、話を聞いた女性たちが諦めていないと思ったからです。「今はこんな状況だけど、なんとかしたい」という気持ちを持ち続けている。
それに対して、男は現状をそのまま受け入れ、変えなければと思っているはずなのに、何もしていない人が多かった気がします。「いかにやりすごすか」「事なかれでいるか」「重大さを放っておくか」というのを感じました。
体調が悪いとわかっているのに、「病院には行きません」みたいな人たちがとても多くて。自分も含めてですが、男はまあダメですね。そこに気がついて、直していかないと、女性との溝は埋まらないと思います。

30代からの大きな反響

――先ほど男は情けないという話がありましたが、男が情けないから恋愛が減っているのでしょうか。
男は、情けないというか、能動性が本当にない。セックスや性欲に対してはあると思いますが、恋愛感情に対しての能動性を全然感じません。
――オタク化も男のほうが強い。
小説『四月になれば彼女は』の主人公の藤代は、僕が男性に関して感じたフラストレーションを象徴する存在です。とにかく、愛情に対しての欲が薄い。こだわりがないというか、粘ったりとか、あがいたりとかしない。このままではいけないって分かっているはずなのに、状況を変えようとはしません。
そんな藤代に対して、女性の読者はいらだつ。そして、男性の読者、とくに30代以上の世代からの反響がいちばん熱いです。
――藤代に自分と似たところを感じるからですか。
みんなそういうリアクションでした。
愛に対する努力を何もしていないことを突きつけられた、自分が現実と向き合っていなかったことに気づかされた、妻に自分は大丈夫かと聞いた、などと言われることが多いです。そんなことは全くないと、この悩みから逃れられる30代以上で都市に生きている男性はほぼいないのではないでしょうか。
*明日に続きます。
(聞き手:佐々木紀彦)