SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は家計における教育費の実情と教育市場の動向をみる。

教育費用は全支出の4%

二人以上の世帯の一世帯当たり支出金額の構成比をみると、子供のいない世帯も含むため教育費用は全支出の4%と少なく感じる。
しかし、子供が2人いる家庭では、家計の所得に占める教育費の割合は高い。

第2子大学入学で教育負担は44%

第2子が幼稚園に入ったところで教育負担は所得の20%、第1子が大学に入ったところで29%、第2子が大学に入ったところで44%となる。
ただし、幼稚園は私立、小中高は公立、大学は私立大学に通わせた場合の平均である(平均を積み重ねたため、入学金や受験料などの特別支出も平均に加わっていることに注意)。
40歳後半から50歳前半にかけて支出が増えるため、貯蓄をしていないと厳しい状況が窺える。また、今回の算出よりお金がかかる小中高の私立や、私立大学の理系、医学部等に進学をした場合、2倍、3倍の教育費がかかり、家計への負担は大きくなる。
可処分所得と実支出をみると、長子が大学生になった時点で、その時点の収入より支出が大きくなってしまい、それまでに十分に貯蓄できる余裕がある家庭でなければ進学を選択肢に入れることも難しくなることがわかる。
そこで、高齢者世代の保有する資産の若い世代への移転を促進する制度が期間限定で行われている。2015年の相続税改正で、相続税対策の必要となる人数は増えたが、これを相続税対策として用いることができる。

教育資金の一括贈与

祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度は、2013年4月1日から2019年3月31日までの特例である。
これは、30歳未満の人(=受贈者)が、教育資金に充てるために、祖父母など直系尊属から、1,500万円(学校等以外に支払う金銭については500万円が限度)までは、金融機関等を経由して申告書を提出することにより、贈与税が非課税となる制度である。
その後、受贈者が30歳に達する、口座の残高がゼロになる等、教育資金口座に係る契約が終了した場合に、非課税拠出額から教育資金支出額(実際に教育資金の支払いを証する書類(領収書等)により確認できた金額の合計額)を控除した残額があるとき、その残額は契約終了時に贈与があったこととされる。
なお、受贈者が死亡した場合も契約は終了するが、相続税の課税価格に算入されるものはない。
参考までに、教育資金の一括贈与の制度を使用せずに、同じ金額を贈与するとしたらどのくらいの税金がかかるのだろうか。
通常は祖父母から孫へ年110万円以上を贈与すると贈与税が掛かり、1,500万円を贈与するとしたら450.5万円の贈与税がかかってしまう。

教育資金とは?

なお、ここでいう教育資金とは、学校等に対して直接支払われる金銭と、学校等以外に対して直接支払われる金銭で教育を受けるために支払われるものとして社会通念上相当と認められるものが該当する。
次に、当該制度の利用状況をみてみる。

教育資金の一括贈与は増加傾向

教育資金の一括贈与の状況をみると、2016年9月時点で教育資金贈与信託の契約数(累計)は170,041件、信託財産設定額(累計)は11,635億円となり、1件当たりの平均金額は684万円となっている。ただし、直近は新規契約数、信託財産設定額ともに減少傾向である。
参考までに、信託協会によると、2015年9月時点で、既に1,205億円が教育関連費用として払い戻しされている。
教育資金の一括贈与のほか、教育に関連のある特例として、2015年4月1日に開始した結婚・子育て資金の一括贈与がある。
贈与を受けた親世帯の家計に余裕ができることにより、教育以外の消費も今後効果を発揮していくと考えられている。教育資金贈与信託に関して、利用には時間差があるためすぐには成果が表れにくいかもしれないが、将来的には大学入学等の支出額が大きい時期に利用できたら、子供の選択肢は増えるかもしれない。
では、この教育資金はどこに流れるのだろうか?

授業料6割、補習、月謝各2割

家計調査の教育支出の構成比をみると、授業料等が約6割、補習教育と月謝類が各約2割程度である。
教育資金では、学習に必要な教育費以外に、サッカーやスイミング、ピアノなど習い事のための月謝がある。家計調査には子供以外の月謝類も含まれているが、おおよそ補習教育(=学習塾)と月謝類の支出は同程度であると考えられる。
なお、月謝の2大支出はスポーツと音楽である。
教育の内訳のなかでも、補習教育である学習塾についてみていく。

学習塾は子供減を単価上昇で補う

学習塾は子供の減少により厳しい状況となっている。また、学習塾はゆとり教育施策による学力低下の危機感や新しい学習指導要領などに備えるなど、政府の動きに影響を受けやすい。
そのなかで、公立の中学校や高等学校の学習塾費は、1994-2014年度の20年間で増加傾向となっており、生徒数の減少を一人当たりの学習塾費の増加で補っている。そのほか、私立の小学校の支出額が多いように、低年齢から塾に通ってもらう等、学習塾も差別化を図らないと生き残っていけないと考えられる。

学習塾の再編

従来、補習塾と受験塾、小中高などの区分で企業が明確に分かれていたが、大手による事業領域の拡大や顧客層の拡大を図る再編が活発になっている。
公文のように海外進出に成功している企業もあるが、基本的には国内でパイを奪い合っており、同業種の再編が行われている。
一方で、教育アプリのように、学習塾と比べ低価格帯で学習できるものが出てきている。

教育アプリは発展途上

文部科学省が2011年に発表した「教育の情報化ビジョン」では、2020年までにすべての学校で1人1台のタブレットを導入したIT授業を実現するといった目標を掲げ、2015年には実際に実現に向け検討を始めたとの報道があった。
また、アメリカでは、すでに電子教科書や教育アプリといったデジタル教材などの「教育向けソフトウェア」の市場規模が2014年に83.8億ドルに達しているといわれている。
日本でもタブレットが普及することにより、教育アプリは徐々に盛り上がりをみせており、参入するプレイヤーも多くなっている。しかし、マネタイズに成功しているサービスは限られており、今後どのプレイヤーが頭角をみせていくのか、まだわからない状況である。
現在は、幼児向けに知育アプリ、小学生向けに学力向上の学習コンテンツ、中高生向けに受験対策コンテンツが主に提供されている。
大手プレイヤーとしては、幼児向けでベネッセコーポレーション(ベネッセホールディングス子会社)の「しまじろうクラブ」、受験対策でリクルートマーケティングパートナーズ(リクルートホールディングス子会社)の「スタディサプリ」等が有名である。そのほか、中小企業や個人が様々な教育アプリを提供している。
小学生向けでは、通信教育をタブレットで行うベネッセコーポレーションの「進研ゼミプラス」や、学研エデュケーショナル(学研ホールディングス子会社)の「学研タブレットゼミ」、Z会(増進会出版社子会社)の「Z会」等が挙げられる。
通常の学習アプリ以外にも、プログラミング等の理数系教育サービスが小中学生を対象に広がっている。たとえば、専用のアプリでプログラミングを学び、そのプログラムをもとにロボットを実際に動かす体験ができるLEGOの「レゴ(R)WeDo2.0」がある。
ただし、これらの教育アプリは、サービス利用者(子供)と決済者(両親)が異なる教育業界特有の構造による難しさがある。親に向けて、効果と学習意義を訴求できるかがポイントであり、子供と親の両方を満足させるサービスが求められる。

まとめ

学校の授業料も学習塾への支出も増加しており、親の負担はますます増えていく一方である。近年では学習塾より低単価の教育アプリが徐々に広がっており、併用している人も多いと思うが、単価が上昇する学習塾と低単価の教育アプリといった二極化が進んでいると考えられる。
昔は学習塾に行く資金がないと独学で勉強することが多かったが、近年は教育アプリなどの普及により、勉強方法の選択肢が増えている。また、教育資金の一括贈与の利用等により、将来教育資金で悩む子供が減るかもしれない。
しかし、教育資金の一括贈与は祖父母等が贈与可能な資金を保有している必要がある。実際は児童のいる世帯約1,182万世帯のなかで、今回紹介した制度の累計は17万件と大部分の人が対象外となる状況である。
そのような状況のなか、『大学無償化へ「教育国債」…自民が検討方針 』など、2010年の高校無償化に続き、大学無償化を検討する方針が発表された。実際、大学等の高等教育に対する公費支出の割合は、2013年時点で35%であり、OECDで39カ国中38カ国目とかなり低い状況である。大学無償化が実現すれば、子供の選択肢も増えるため、今後の動向に注目である。とはいえ、財源は国際のため、無償化には安易に賛成できない部分もある。
やはり勉強の質の低下が問題に挙がっているため、勉強の質が向上した子供に無償化の扉が開かれるような仕組みづくりが必要となるだろう。