生涯に著書500冊以上を発表した作家、アイザック・アシモフ。執筆に行き詰まる「ライターズ・ブロック」に悩んだことは一度もなかったという。その秘密を探ってみると……。

驚異の多作ぶりを支えた戦略

アイザック・アシモフは、最も偉大なSF作家の一人として広く知られている。
彼の『ファウンデーション』シリーズはSF小説の古典的名作。あの有名な「ロボット工学3原則」を『われはロボット』(邦訳:早川書房)の作中で打ち立てたのも、「ロボティクス(ロボット工学)」という単語を造りだしたのも彼だ。
いくつもの傑作を送り出したアシモフは、SFジャンルの名だたる文学賞を総なめにした。おまけに、とんでもなく多作だった。短編デビュー作を発表した1939年から死去する1992年までに、執筆・編纂した作品は500冊以上。さらに、数百に上る短編小説を手掛けている。
ベストセラーにして、権威ある賞に輝いた数多くの小説を書いただけではない。天文学や化学、数学、科学史、シェイクスピア、聖書など、さまざまな分野にわたるノンフィクション作品も発表した。
膨大な数の著作を持つアシモフだが、自身の創作技法を説く著書は残していない。つまり「書くことについての本」を書いてくれなかったのだ。
それでも、その異常なまでの生産性の秘密をどうにかして解き明かしたい。幸運なことに、死後に出版された自伝『It’s Been a Good Life(いい人生)』には、執筆プロセスについて語った章がいくつかある。そこで明かされているのは、生涯を通じて出版に値する作品を書き続けたアシモフが、具体的に用いた戦略だ。
本人がそれを1冊の本にまとめていたら、そのテーマはこんなものになっただろう──アシモフ流に考え、アシモフ流に実践すれば、ライターズ・ブロックは打破できる。その秘訣を紹介しよう。

1. 複数のプロジェクトを同時に進める

うれしい発見だったが、アシモフだってときには執筆中の作品にうんざりすることがあった。しかし、それでも書くことはやめなかった。飽きたときは、同時進行している別のプロジェクトに意識を向けたのだ。
アシモフはこう記している。
「SF小説(私が手掛けるさまざまなもののなかで、最も大変なジャンルだ)を執筆していると、飽き飽きして、もう一語も書けなくなることがよくある。だが、そのせいでパニックになったりはしない。真っ白な紙を呆然と見つめたりもしない。(中略)問題の小説を離れて、手元にある10以上のほかのプロジェクトのどれかを進める。コメント記事やエッセー、短編小説を書いたり、構想中のノンフィクション作品の一つに取りかかったりする」

2. 時間を見つけて書く──どれほど短い時間でも

アシモフに言わせれば、執筆に集中できる時間がまとまって取れなければ書けないのでは、多作な作家にはなれない。
「どんなときでも書き始められることが大切だ。暇な時間が15分あるなら、それだけで1ページやそこらは書ける」

3. とにかく始める

書き始めるには、調子をつかんだり深く集中したりしなければならないが、それが難しいという場合もよくある。とはいえアシモフは、そんな悩みとは無縁だったようだ。
執筆にふさわしい状態に入るための準備として、実行していることはありますかと質問されたとき、アシモフはこう答えた。
「執筆が可能な状態になるには、私の場合、つねに電動タイプライターのスイッチを入れて、キーに指が届く位置に座ることが必要だ」

4. 書き続ける──書いていないときも

タイプライターを打っていないときでも、アシモフは自分が書きたいものについて考え続けていた。だからこそ、即座に書き始め、生産性を維持することができたのだ。
「タイプライターから離れているとき、食事をしたり寝たり体を洗ったりするときも、頭は働き続けている。会話や文章の一部が、ふと聞こえてくることもある。(中略)言葉は聞こえなくても、頭の中で無意識に仕事をしていることが私にはわかる。だから、私はいつでも書く準備ができている」

5. 書いたものを楽しむ

完璧を求めて文章を練り直すタイプの人々に対して、アシモフは手厳しい。
「一般的な作家は常に文章を修正し、削り、変更し、違うやり方で自分を表現しようとする。そして、私が知るかぎり、決して完全に満足することがない。これでは、当然ながら多作にはなれない」
ならば、どうすればいいのか。アシモフによれば、自信を持ち、作品の質に疑問を抱くのをやめるのが、多作な作家になる道だ。何より重要なのは、自分が書いたものを楽しむこと。
「私は自分の作品のどれでも、読み始めればたちまち夢中になり、何かに邪魔されるまで読みふけることができる。自分が書いたものに喜びを感じないなら、書くことになんて耐えられない」

6. 明快で口語的な文章を書く

あまりに文学的な文章は避けるべきだと、アシモフは助言する。散文詩並みの文体の追及に時間をかけ過ぎたら、作品を完成させる時間がなくなる。
「私は意図的に、とてもわかりやすい文体、口語的ともいえるスタイルで書いている。これならさっさと書けるし、問題が起こることもほとんどない」

7. 学び続ける

コロンビア大学で生化学博士号を取得したアシモフは、ボストン大学の教壇にも立った。広範な分野にまたがる深い知識を持っていたが、それでも学び続けるのをやめなかった。
「私は周囲のなかで最も学歴が高い人間の一人だが、学校で得た知識だけでは、さまざまな種類の作品を書くことはとうてい無理だった。ある種の自己教育プログラムを実践し続ける必要があった」

8. ほかの人の作品から学ぶ

言うまでもなく、作家も「他者」なしには学べない。成功した作家が、どのように書いているかを学ばなければならないと、アシモフは言う。
「作家にとって唯一の教育とは、ほかの人が書いたものを読むことだ。作品が好きかどうかは関係ない。その作家がどう書いているか、それはなぜ効果的なのかを知るために読むべきだ。もちろん、傑作とクソみたいな作品の差は紙一重、という場合もあるわけだが」
原文はこちら(英語)。
(執筆: Glenn Leibowitz/Contributor, Inc.com、翻訳:服部真琴、写真:vetkit/iStock)
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This article was produced in conjuction with IBM.