欧州最前線から考える、日本代表W杯優勝への道

2017/1/31
欧州サッカー最前線で活躍する2人のリレーコラムを隔週火曜日に掲載。アジア出身者として初のCL&W杯制覇を成し遂げた永里優季と、TEAMマーケティングの岡部恭英がピッチ、ビジネスの現場で感じたことを交互につづる。今回は岡部が担当。
遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます!
昨年は日本サッカー界にとって、Jリーグ大型放映権締結、日本代表のリオデジャネイロ五輪での惨敗など、いろいろと浮き沈みもありましたが、話題に事欠かない年でした。
しかし、何と言っても、鹿島アントラーズのFIFAクラブワールドカップ(CWC)決勝における、世界王者レアル・マドリードを相手に一歩も引かない大健闘は、サッカーファンに希望を与え、長い1年を締めくくるには素晴らしいイベントとなりました。
レアル・マドリード相手に奮闘した鹿島のDF西大伍(左)と著者。Jリーグアワードにて(著者提供)

アジアで勝てないJリーグ

ただ一つ認識しておくべき点は、今回の鹿島アントラーズの奮闘には、かなりの幸運があるということです。ご存じの通り、CWCに参加するには、各大陸の大会で優勝しなくてはなりません。
鹿島アントラーズは、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)で優勝していません。さらに突っ込んで言うと、Jリーグのチームは、もう10年近くACLで優勝できていません。厳しい見方をすると、Jリーグのチームは、本来はCWCに出られる位置にいないのです。
今回の鹿島アントラーズを含めJリーグのチームがCWCに出られるのは、「開催国枠」という特別処置のお陰です。
もちろん、CWCを自国で開催するには、「人脈」や「政治力」や「ビジネス力」が必要で、そういう意味では、「ピッチ上」だけではなく「ピッチ外」のサッカー関係者を総動員した日本サッカー界の「実力」でもあるのですが……。
CWC決勝でクリスティアーノ・ロナウドをマークする鹿島の選手たち(写真:徳丸篤史/アフロ)
この「自国開催」は、とても重要な要素ですので、追って触れます。年末年始の喧騒で、あの熱戦の興奮も冷めてしまったファンもいるかと思いますが、上記の「幸運」も踏まえつつ、改めて日本サッカーの究極目標「ワールドカップ(W杯)優勝」について再考(極めて独断的な!)したいと思います。

W杯優勝国の共通点と非共通点

W杯優勝への道のりを再考にするにあたって、私がよく使う「T字軸」による比較を活用したいと思います。
すなわち、「世界、他の国との比較」がTの横軸、「歴史、過去に起こったこととの比較」がTの縦軸です。
なるべくシンプルな比較の方がわかりやすいので、ここでは、横軸は「W杯優勝国」、縦軸は「彼らの歴史」とします。
「W杯優勝国」は、現在8カ国あります。「ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、ドイツ、イタリア、イングランド、フランス、スペイン」です。さっと見て、彼らの「共通点」には下記のものがあります。
① 歴史上や地理的な理由から、人種のMelting pot:かなり進んだ混血パワーが、「多様性」や「身体能力」をサッカーにもたらしている
② 移民が多い:上記同様に、「多様性」や「身体能力」をもたらしている
③ 南米3カ国と欧州5国はすべて地続き:昔から行き来が頻繁かつ地域間競争が激しく、サッカーの地域的レベル向上につながっている
④ 長い歴史を誇る熱狂的なサッカー文化が根づいている:フランスが熱狂的かどうかはさらなる考察が必要かもしれないが……
⑤ ラテン語圏とゲルマン語圏の国オンリー:クラブを移籍した際に言語のハンディが少なく、ゆえに心理的なストレスが軽減される
⑥ W杯の「自国開催」優勝:8カ国中6カ国は「自国開催」で優勝していて、フランスとイングランドは自国開催のときにしか優勝していない。アルゼンチンとウルグアイも、2回の優勝のうち1回は自国開催時。意外なことに、例外はブラジルで、自国開催時に優勝していない
サッカーにおける、彼らに「共通しない点」は、下記のものです。
a) 優れたユース育成システム:最近の実績を見ると、スペイン、フランス、ドイツの育成システムはうまく機能しているように見受けられます。逆に、イングランドとイタリアは、若手選手の最近の実績を見ると、決してうまく機能しているとは言えないと思います。タレントの宝庫である南米のブラジル、アルゼンチン、ウルグアイですが、上記に挙げた何点かの恩恵を受けている面が強く、育成システムの整備においては欧州に劣っていると思います。
b) 世界に誇る強い国内リーグ:5大リーグのお膝元であるドイツ、イタリア、イングランド、フランス、スペインはもちろん該当します。しかし、欧州クラブに若手タレントを青田買いされているブラジル、アルゼンチン、ウルグアイは、そうとは言えないかと思います。
上記の点から改めて日本サッカーを見ると、日本サッカーがJリーグ設立前後から継続的に努力してきたのは、上記「共通しない点」のa)と b)だとわかります。
しかし、優れた「育成システム」と「国内リーグ」が大事なのはもちろんですが、上記を見ればわかる通り、それだけで優勝できるほどW杯は簡単ではないようです。
上記「共通点」①~⑥に見られる「歴史的背景」「地理的条件」「国家政策」「文化」「言語」「W杯自国開催」などが複雑に絡まり合って、初めてW杯で優勝できるようなサッカー大国になっているわけです。

W杯優勝への近道は自国開催

それでは、「共通しない点」a)と b)の向上努力を継続しながら、ほかに何をすれば良いのか。
残念ながら、「共通点」①③⑤の「歴史的背景」「地理的条件」「言語」は、変えられません。
しかし、「共通点」②④⑥の「国家政策」「文化」「W杯自国開催」は、変えられるものです。
ここでの「国家政策」とは、ずばり移民法を指します。少子高齢化に伴う人口減で、今後の成長見通しの厳しい日本ゆえ、サッカーに限らず国の未来のためにも移民受け入れの是非は真剣に議論されるべき重要事項であり、今後の進展に期待!
「文化」は、サッカーを取り巻くすべての人次第ですので、自分のライフスタイルと切っても切り離せないくらい、もっともっとサッカーと日本サッカーを好きになりましょう!
まだ歴史の浅い日本サッカーですので、焦らずに時間をかけて醸成していけば、世界に誇れる日本独自のサッカー文化ができ上がると信じています。
最後に、「W杯自国開催」。勝負事は確率を高めるのが肝要ゆえ当然だと思うのですが、これは意外に軽視されているように感じられます。いろいろなメディアで言っていますが、上記⑥の事実を踏まえても、「日本がW杯で優勝するためには、自国開催が必須」だと思います。
移民法改正などの「国家政策」は国家の一大プロジェクトですし、サッカー「文化」の醸成は時間を要するものですので、まずは「日本代表W杯初優勝」を夢見る同志で、「人脈」「政治力」「ビジネス力」を磨いて「W杯自国開催」に尽力しましょう。
そのためには、ピッチ上で活躍している「海外組」だけではなく、ピッチ外のスポーツビジネス「海外組」がもっともっと世界中に広がって活躍する必要があります。最近出版した著書「国際スポーツ組織で働こう!」にて、詳細を述べているのでぜひご一読下さい。

もっと出でよ「海外組」!

偶然ながら、あのCWC決勝で感動を与えてくれた鹿島アントラーズの選手たちに、昨夏、セミナーをしたことがあります。改めて振り返ってみると、実際に試合で活躍した選手たちが多く出席してくれていて、豪華なセミナー出席者たちでした。
セミナーをした著者(下段中央)と鹿島の柴崎岳、西大伍、鈴木優麿、赤崎秀平たち(著者提供)
「夢実現・目標達成するためには?」といった感じの自己啓発的な内容でしたが、本質的な内容を一言で表すと、「どのように自らの改善と向上を成し遂げるか」というものでした。
いろいろなお話をしたのですが、自己成長につながるために一つ大事なこととして言ったのは、「移る」です。「場所を変える」とも言い換えられるかもしれません(場所と言っても日常生活のなかにはいろいろあるわけで、移籍しろと言ったわけではないので、悪しからず……)。
サッカーは、まさしくグローバル・スポーツです。決して、狭い島国・日本だけで完結するものではないので、皆さんどんどん海外に出ましょう! 海外経験豊富な「異能・異才」の和僑があふれたときに、必ずや日本サッカーにポジティブな影響を及ぼすと思います。
Boys, be ambitious!    
新年も宜しくお願い申し上げます!
(バナー写真:徳丸篤史/アフロ)
*次回は2月14日(火)に永里優季氏のコラムを掲載予定です。