じれったい野球界。人気低迷が先か、プロアマの一体化が先か

2017/1/27
プロアマがどうすれば「日本球界」として一体となり、野球人口減少などの諸問題に取り組めるかを考えていく趣旨の本連載。前回前々回では日本高等学校野球連盟の西岡宏堂副会長に話を聞き、改めてその難しさを感じた。では、プロ野球側はどう考えているのだろうか。NewsPicks編集部の中島大輔とスポーツジャーナリストの氏原英明が、日本野球機構(NPB)の野球振興室で室長を務める平田稔氏に話を聞いた。

プロアマ一体の会議発足

――プロとアマが日本球界として一つになっているようには見えません。NPBとして、未来に向けてプロアマの関係をどうすればいいと考えていますか。
平田 野球振興の部分で「プロもアマも関係ない」ということで、BFJ(全日本野球協会=アマチュア野球の統括組織)さんとNPBで準備委員会みたいなものを重ねて、日本野球協議会が2016年5月に立ち上がりました。2016年には2回、会議をしました。主に野球の普及、振興をプロアマ一体となってやっていこう、と。それ以外にもマーケティングとか、侍ジャパンの強化など5つの委員会があり、これで足りるかわかりませんが、とりあえずこれでスタートしています。
――日本野球協議会には普及振興、侍ジャパン強化、マーケティング、オペレーション、国際の5つの委員会がありますね。これらをプロとアマが一緒にやっていくわけですか。
一緒にやるというか、いま、「こういうことが必要だ」と話し合いをしているところです。普及振興をするにもおカネが必要だ、とかですね。アマチュアも含めていろんな話が進んでいます。
NPBで野球振興を行う平田稔氏(撮影:中島大輔)
――日本野球協議会がスタートしたのは、野球人口減少への危機感が大きいですか。
もちろんです。小学生や中学生(の競技者減少)といったところももちろんあります。野球界っていままではいろんな団体が独立していたので、競技人口を正確には把握していなかったんですよね。
でも、いまは普及振興委員会のほうで競技者人口を把握しないといけないということで、どうやったらそれをできるかというのを進めているところです。少なくとも東京オリンピック前までには、競技者人口がどれくらいで、終わった後にはどれくらいになったかというくらいわかるようにしなければいけないと、プロアマ共通の課題として取り組んでいます。

指揮系統のない野球界の問題

――現状、プロ野球選手は高校生に指導できません。それは日本野球の発展において阻害要因になっていますが、日本野球協議会はそういったところまで解消できるものになりえますか。
それはまた別の問題として、NPBのOBの方には学生野球資格回復制度というものがあります。いまはプロの研修を1日、学生の研修を2日受ければ、母校で指導できますし、監督になることもできます。それはそれで(日本野球協議会とは)別のところで進んでいたんですけれども、今後どうしていくかは話し合いになっていくと思います。
理想的には確かにそういう(=プロが高校生に指導できる)のがいいんですけど、これまでのプロとアマチュアの歴史や、日本学生野球協会には同協会の事情があるでしょうし、一気に(実現まで)行くのはなかなか難しいもので。現実に即して、だんだん指導できるようにはなっていますけれども、これからもできるだけ学生側との壁を低くするようにいまも話し合いを続けて、少しずつですけど前に進んでいると私は思っています。
――実際に少しずつ前に進んでいる一方、野球人口減少をなるべく早く食い止めるには、手っ取り早くプロがアマを教えられるようにすればいいと思います。その辺のスピード感についてはどう考えていますか。
一方で実態を把握しなくてはいけないので。たぶん印象でお話しになられているので、われわれは実態の把握に現在努めています。
ご指摘もわかります。プロアマ合同の日本野球協議会による「野球普及の活動の実態調査」の中間報告がありまして、どこが足りないのかを分析している段階です。
たとえば都道府県別の野球振興の活動回数なんですけれども、プロ野球と独立リーグ、女子プロ野球のあるところが、やはり多いんですね。それらのないところが、回数が少ないという実態が中間報告では上がっています。
JリーグさんとかBリーグさんは、ほとんど47の都道府県にまたがってチームがあると思います。野球はプロに限って言えば、チームがあるところは偏っているので、チームのないところを今後どうしていくか、それが見えてきたところが、こういった会議体の成果になっています。
スピード感が遅いと言われますと、確かにご指摘の通りかもしれないですけれども、われわれとしてはスピード感を持ってアマチュア団体とともにやっているつもりです。ただ、もっと上げろと言われたら、ご指摘の通りかもしれません。
――スピードが上がらない要因は、プロアマの関係による問題ですか。
(これまでは競技人口について)実態調査すること自体が難しかったんですよね。アマチュアの高校とか社会人がいま何をしているか、ようやく最近わかってきました。そういうところの指揮系統、統一団体がないというところが(スピードの上がらない要因に)あるのかもしれません。情報が一つに集約されていなかったのが過去の野球界だったと思いますけれども、いま集約しているところですので、欠点がもし見えて、そこをやろうとなったら、意外と早いのかもしれません。
全国の都道府県で組織立っているのは、高野連(日本高等学校野球連盟)さん。プロ野球だけではなく、そういった組織と一緒にできるのか。そういうところも今後検討課題になっていくのではないでしょうか。

互いの譲り合いが必要

――野球の普及振興という点では、プロ野球OBが高校生、大学生に指導できないことがじれったく感じられます。
学生野球指導資格を研修で回復されている方は、かなりの人数に上ると思います。そういう方々は母校で教えられますし、ちゃんとした手続きを踏めばいろんなところで教えられるようになっています。シンポジウム(プロ野球選手が高校球児を指導する「夢の向こうに」)ですけど、(全国を回って開催する)1周目は体育館などの舞台の上でやっていたんですよね。それがいまはグラウンドの上で現役選手が教えられるようになっています。
ただ、これはわれわれが望んでできることではないので。学生側と話し合いをしっかりしながら、じれったいと言っていたものを、われわれの立場としては多少感じている部分はありますけど、それは学生側には学生側の理由がありますので、そこを理解しないでわれわれが押しても……。NPBのOBに対して、「こういう研修を受けてください。それだったら教えられるんですよ」というところまで進んできたわけです。われわれとしては何もなくなるのが理想なんですけど、それにはもう少し時間がかかるかもしれません。
今回われわれが報告を受けたのは1名ですが、(指導の対価として)おカネをもらうとか、本来の趣旨と反している方が出てくることもあります。そういう方に対して、研修とかできちっと理解してもらわないといけない。(野球界への)「恩返し」というところで(学生野球資格回復制度が)始まったのは間違いありませんので。そういったところを、教える方々には伝えないといけない。それがないと、きっといろいろな話がもっと出てくる可能性があります。
――プロとアマがもっと一体となるために必要なのは、話し合う時間ですか。
いままで高校野球も100年やってきましたが、お互いに団体というのがあります。団体は団体なりのいろんな考え、規約ですとか、構成員の方も含めまして、そういうのがありますので。
たぶん、日本野球協議会に出ている人たちはだいたい同じような意識を共有できていても、実際には……。たとえば全軟連(全日本軟式野球連盟)さんですとか、いままでボランティアでやられてきた方がご高齢になられても頑張っておられます。その方々にも理解していただかないといけないですし、若い方々にも理解していただかないといけないです。そういった野球界の隅々まで理解が進まないと、なかなか前に進まないんですよね。
昔は良かったんですよ。(指導を)ボランティアでやっていただいて、各団体でやってきて、それで(野球界が)繁栄してきたので。そういったことを誇りに思っている方もいらっしゃるでしょうし、でも、いまは同じ方だとダメになっていくと危機感を持っている方もいらっしゃいます。そういう方が、だいたい同じような共通認識を持たなくては、なかなか進まない。そういうところも含めて、日本野球協議会で話していこうというところです。いまはお互いが理解するところを、醸成しているというんですかね。
(写真:岡沢克郎/アフロ)
実際、ご存じの通り競技者人口が、特に低年齢層で減っているという数字がありますので、そういう数字を受け止め、お互いに危機感を持って、なおかついままでやってきたいいところもあると思いますので、その辺を残しつつ。
(日本高野連副会長の)西岡先生がおっしゃった「商売だけ」というのでは、いまの世の中もそうですけど、企業も社会貢献というところがありますよね。一般社団法人のわれわれには公共性を課されますので、その辺を念頭に置き、商売一辺倒だけじゃなくて、というところに行くように、お互いに少しずつ譲り合って、前に進めていくというところじゃないでしょうか。ただ、「そんなことをしていては、(野球界が)潰れちゃう」という人もいるんですよね。
――世の中の組織は強烈なリーダーが旗振り役となって変わっていくケースがあります。たとえば、王貞治さんみたいな方がリーダーになって、一気に進めるという考え方はありますか。
もちろん、そういう考え方はあるでしょう。王さんが理事長を務めている世界少年野球推進財団の方にも、こちら(日本野球協議会)に有識者として入っていただいています。まさにここで話し合っています。一番危機感を持っているのは競技団体ですから。

野球界共通の危機意識

――日本野球協議会をもっと発展させて、プロとアマで一つの団体になるという話し合いはしていますか。
いまのところそういった話は出ていませんけれども、まったくないとも言い切れないと思いますよね。いまは任意団体ですけれども、法人格を持つ可能性はあるかもしれません。
――そうなったほうが、すべて手っ取り早く進みますよね。
それは、われわれが「したほうがいい」とか、「なったほうがいい」とか言う立場ではないんですよ。難しいですけれども、合議制で、皆さんがそうならないと。いま、これ(日本野球協議会)はあるといっても、予算がないんですよ。各団体がいまやってきたところを持ち寄って、いまやっているところを効率よく、人と予算を(野球振興に)回そうじゃないかというところがあります。
ただ、いずれ振興について、「プロアマ一緒にやっていこう」と必要になってくるところもあると思います。そのときに考えていくというところで、いま、とりあえずスタートしています。
ことを急いでやるとハレーションを起こしかねませんので。たとえば「プロの下に入るのか」とか。「アマチュアの言うことをなぜ聞かなきゃいけないんだ」とか、いろんな考え方がまだいる状況ですので。
みなさんがおっしゃるように遅く見えるのは承知のうえですけれども、何と言っても(野球界の)みなさんの共通理解がないと、前に進みません。たとえば、一つの団体がもし抜けてとなってしまったら、取り返すのにまた時間がかかってしまいます。委員長の熊崎(勝彦=NPBコミッショナー)も副委員長の市野(紀生=BFJ会長)さんも含めて、たぶん同じ思いだと思います。いまのところは、それぞれが自分たちのできる範囲でやっていく。いろんな思いがある方がいらっしゃるでしょうし、「絶対ダメだ」という方もいらっしゃるでしょうし。
――いい野球界をつくっていくには、いろんな人の知恵や助けが必要だと思いますが、この場を通じて伝えておきたいことはありますか。
野球を好きな人、野球を理解してくださる方を一人でも多く、というのはもちろん必要ですし、増やしていかなければいけないのは、日本野球協議会を立ち上げた理由です。これまで80年、100年続いてきた野球を絶やさないようにするには、どうすればいいかを考えていかなければいけません。
サッカーさんやバスケットさん、ラグビーさんに遅れているところは学びながら、野球界にもいいところはあるのでそこは維持しつつ、これから何十年、100年と続くように、われわれだけではなく、日本の野球界全体で取り組むようになっていかなければいけないです。
おっしゃること、「遅い」というのは重々わかります。ただ、大事なところは押さえておかないといけないと思いますので。ご指摘を踏まえながら進めていくのは、プロアマ共通した思いです。現実的に(競技者人口減少という)数字を突きつけられていますからね。
<編集後記>
 平田氏は「個人的な意見」と断ったうえだが、プロ野球で働く人間が「日本球界」の一体化を望んだ意義は大きい。プロとアマ、各組織の事情があるのは百も承知しているが、野球人口減少を一刻も早く食い止めるには、何よりスピードが求められる。今後の鍵は、プロとアマ、興行元の親会社などが不毛な利権争いを一刻も早くやめられるかだ。本連載は今回で一区切りとするが、外部から観察する記者として今後も何とか促していきたい。
(バナー写真:岡沢克郎/アフロ)