(Bloomberg) -- 東芝は液化天然ガス(LNG)関連事業でも最大約1兆円の損失発生リスクを抱えており、LNG調達で世界最大規模のJERAに販売支援を仰ぎ回避を目指している。

同社は2013年、米テキサス州のフリーポートLNG事業のプラントで天然ガスを液化し、年220万トンのLNGを19年から20年間引き取る「液化加工契約」をプラント運営会社との間で締結。LNGと自社の発電機器と組み合わせて販売することが主な狙いだった。

東芝広報の槻本裕和氏は、このLNGの販売を促進するためJERAと包括的な協力契約を締結し連携していることを明らかにした。JERAは東京電力ホールディングスの子会社と中部電力が設立した火力発電用燃料調達の合弁会社。

JERAもフリーポートLNG事業の別のプラントで同様の液化加工契約を保有しており、18年から出荷が始まる。JERA広報担当の澤木敦生氏は、双方にメリットがあればさらなる協力も考えられると述べた。

東芝の有価証券報告書によると、フリーポートLNG事業などを含む電力・社会インフラ部門の想定最大損失額は16年3月末時点で9714億円。13億円だった15年3月末から700倍超に膨らんだ。この損失額について、東芝の都合で20年間にわたり同事業からLNGを一切引き取れなかった場合に発生するものと説明している。槻本氏は13年に締結した液化加工契約が15年4月に発効し法的拘束力を持つようになったために報告書に想定最大損失額を盛り込んだとし、大半がフリーポート事業関連であると話した。

同社は15年春に発覚した不正経理問題の影響で財務状況が悪化し、家電事業や医療機器子会社の売却などで財務改善に取り組んできた。昨年末には米原子力事業で数千億円規模の損失発生の可能性があると発表。さらなる資産売却や事業の再構築を迫られる可能性がある中、追加損失の回避が焦点となっている。

遠い売買契約

引き取ったLNGを需要家に販売する長期売買契約を締結できない場合には、調達コストを下回る価格でスポット市場で販売するか、契約で定められた液化費用を支払う必要はあるものの液化設備を使わない可能性もあるという。

契約締結からすでに3年がたつが、いまのところ最終的なLNGの売買契約獲得には至っていない。同社は220万トンの年間引取量の半分以上について条件付きの売買契約を交わしているが、法的拘束力はないと説明している。

東日本大震災後の原発停止によるLNG需要の急増などにより、アジアと米国のガス価格は大きく開き、輸送費用を上乗せしても米国で生産された天然ガスを液化して日本などに輸出するメリットはあった。しかし現在は価格差が大きく縮小しており、世界需要の7割を占めるアジアの需要家に米国から積極的にLNGを輸入しようという動きは少ない。

増強するガス火力発電所向けにLNGの調達を検討しているJXエネルギーの杉森務社長は12日のブルームバーグのインタビューで「米国産LNGは競争力がなく、なかなか難しい」と話した。国内のガス会社や電力会社は、自社で発電設備を持たない東芝がLNGの契約を締結して以来、状況を注視している。

コンサルティング会社クラヴィス・エナジー・パートナーズの玉水順蔵代表は、現在の市場環境を考えるとLNGの長期契約確保は難しいとした上で、「米国のLNGには柔軟性という価値がある。それをどうマネタイズするかは契約者の腕次第」と述べた。米国産LNGの取引には第三者への転売を制限する条項が契約に盛り込まれておらず、他地域への転売や他国産のLNGとの交換といった方法も確保して、「自分の調達と販売の最適化をしないといけない」と指摘した。

液化費用の支払い義務

米コロンビア大学グローバル・エナジー・ポリシー・センターが昨年11月に公表したリポートによると、東芝のように液化加工契約を持つ企業は、実際に液化した数量に関わらず契約数量分の液化費用を液化設備を保有する会社に支払う必要がある。その費用は一般的にLNG100万Btu(英国熱量単位)当たり2.25-3.5ドルとしている。

この数値を基に東芝が支払う液化費用を試算すると最大で年間約4億ドル(約500億円)、20年間では約82億ドル(約9400億円)となり、同社が発表した想定最大損失額とほぼ符合する。東芝が契約している液化設備は19年8月に運転を開始する予定で、早ければ18年度から翌年度中に生じる損失相当額を引き当てる可能性がある。東芝広報の槻本氏によると、監査法人とともに会計上の取り扱い方法について検討を重ねているという。

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