起業家に学ぶ、アスリートを幸せにする「プロ」キャリア構築法

2017/1/17
欧州サッカー最前線で活躍する2人のリレーコラムを隔週火曜日に掲載。アジア出身者として初のCL&W杯制覇を成し遂げた永里優季と、TEAMマーケティングの岡部恭英がピッチ、ビジネスの現場で感じたことを交互につづる。今回は永里が担当。
この年末年始はシーズン中断期間のオフで日本に帰国し、トレーニングのかたわら、さまざまな人とお会いする機会がありました。
特に、同い年や同年代の起業家・経営者の皆さんとのディスカッションは大変刺激的で、ただそれぞれのフィールドが違うだけで仕事における本質的な部分はほぼ変わらず、大切なのは実にシンプルなものだと再確認することができました。
昨年末は、シリコンバレーで最も名の知られる日本人起業家として有名な福山太郎氏とお会いする機会がありました。そこで福山氏は、成功するためのキーファクターとして3つのことを挙げました。

著名起業家が説く、成功の3要素

まず1つ目に人よりも先に「始める」こと。
口にはするけど行動を起こすまでには至らない……新しいことを始めるときに必要なのは、この一歩を踏み出す勇気。
どの世界においても、何事も始めなければうまくいくかどうかなんてわかりませんし、始めてみてわかってくることのほうが圧倒的に多いと感じます。やってみてダメだったら軌道修正していけますし、何もアクションを起こさないで成功を手にすることは難しいと言えます。
2つ目は人よりも「高い目標を持ち続ける」こと。
もっと高い目標があるのに設定値が低いと、そこまでしか辿り着けないか、もしくは中途半端に終わってしまうことが多くなり、物事の本質を見極めることも難しくなります。結果的に何も達成できずに終わる、ということもあるでしょう。
現時点ではどんなに実現する可能性が低くても、目標だけは下げずに高く持ち続けることは、スポーツ界において、世界を舞台に結果を出すポイントとまったく同じだと感じます。
そして、最後の3つ目は人よりも簡単に「あきらめない」こと。
あきらめないことっていうのが意外と難しくて、途中で躓いたり、失敗をしてしまったりするとそこで挫折感を味わって、目標を下げがちになるのですが、そこで目標をぶらさずに軌道修正していけるかどうかで、高い目標を達成できるかどうかにつながります。
世の中の成功者と言われる人を見ていても、最後まであきらめなかった人が結果を出していますし、いろんな苦境にも屈しない忍耐力がより求められるでしょう。

トップ選手×一流ビジネスマン

これらのことは、大なり小なり違いはあれども、一流のビジネスパーソンにもトップアスリートにも共通している部分だと感じます。
そこで私が考えたのは、トップアスリートと一流ビジネスパーソンが今後さらにコラボレーションしていくことで、世の中にもっと質の高いバリューを提供できるのではないかということです。
お互いがwin×winの関係になることをやるというよりは、すべての人にとってハッピーになることをこれからは目指していくべきであり、「win×win=total win」というような仕組みをもっとつくっていける気がします。
プロになるということは「起業」することであり「社長」になることだと思っていて、いわばアスリートは自分が商品であり、経営者であるということを自覚する必要があると思います。
競技だけに専念するのであればアマチュアでいるほうが良いと思いますし、トップアスリートはその競技だけをしていれば良いという時代ではなく、ファーストキャリア、セカンドキャリアという言葉の概念をなくし、死ぬまでの人生をキャリアとして捉えたうえでのプランニングが求められてくるのではないでしょうか。
グラウンドで対話する永里優季とマット・ロス監督
プロとは、おカネを稼ぎ、スポンサーにメリットをどうやったらつくれるかを頭に入れながら、「自分のキャリア」と「社会での価値」と向き合うこと。
現役中に「社会での価値」をどれだけ確立し、引退後にも継続的にかたちを変えながら、価値提供できる自分という商品をつくれるかどうかだと思います。

小さな積み重ねを複数持つ

株式会社HARESのCEOである西村創一朗さんとお話をさせていただく機会もあり、そこで西村氏がおっしゃっていたのが、「アスリートこそセカンドキャリアではなく、パラレルキャリアを」という新しい概念でした。
ある程度世界的に知名度が高く、サッカーのようにメジャーな競技のトップアスリートでなければ、本田圭佑選手のような「三足のわらじを履く」ようなパラレルキャリアを送れないと思っていらっしゃる方も多いかもしれませんが、西村氏は決してそうではないと言います。
事業に対して大小を問わなければ、小さなことからでも始められることはたくさんあるわけです。むしろ、小さなことの積み重ねがなければ大きなことを成し遂げることはできないので、自分にできること、やりたいことをいかに現役中に複数持てるかが鍵になってくるのではないでしょうか。

越境からイノベーションが誕生

そもそも、アスリートがビジネスを学ぶ機会が少ないという現実がありますし、それがあまり許されない風潮もあり、自分の競技以外のことに興味を持ちにくい環境にある競技もたくさんあると思います。
そういった雰囲気を打破する流れが少しずつ出てきているとも感じていますし、アスリートのかたちはもっといろんなバリエーションがあっていいのかもしれません。
好きなこと(=自分の競技)を何十年も続けていく、つまり「継続する力」を持つアスリートは、スポーツ界から離れたときにさらなる飛躍を遂げる可能性を秘めているような気がしてなりません。そういった能力を企業や経営者の方が引き出し、互いに良さを吸収し合い、ビジネス界とアスリートが互いの分野を越境していくことでさらなるイノベーションが起き、社会にさらなるプラスをもたらすことができると感じます。
アスリートに不足しているのは、単純な知識です。私も、自分のやりたいことや発想はあっても、実現するにはどうしたら良いかわからなかったり、実行に移せなかったりすることが大半でした。
発想力があっても実行できない。実行の仕方がわからない。こういったパターンは実現化がどんどん遅くなる一方です。
大切なのは、発想と実行のタイムラグをできるだけなくし、知らないことは知っている人に聞き、周りの協力を仰ぐことでしょう。
対話の繰り返しで「自分のやりたいこと」「実行可能なこと」が見えてくるので、アスリートのキャリアをサポートする仕組みをしっかりと構築し、人生を一つのキャリアとして考えることが当たり前になれば、社会に新しい価値を提供できるようになるのではないでしょうか。
(写真:アフロ)
*次回は1月31日(火)に岡部恭英氏のコラムを掲載予定です。