「ザランド」はヨーロッパのファッション系ECサイトの王者だった。そこに割って入ろうとしているのは、誰もが知る例のサイトだ。

有名モデルや社交界の名士と契約

トミーヒルフィガーやヴェルサーチ、アディダスなどの洗練されたファッション商品を扱うドイツ発祥のファッション系ECサイト「ザランド」は、さまざまな実店舗に打撃を与えるまでに成長し、その市場価値は90億ドルに達した。
しかしそのザランドが今、インターネット上で脅威に直面している。相手はアマゾンだ。
オンラインの巨人的存在であるアマゾンは、ヨーロッパでのマーケットシェアを広げようと、有名モデルや社交界で活躍するソーシャライトと契約を結んだり、ヒューゴ・ボスやグッチなどの高級ブランドに接近したりしている。
「知られていないかもしれないが、私たちはかなりビジネスを展開している」と述べるのは、アマゾン・ファッション・ヨーロッパのバイスプレジデント、スーザン・サイデマンだ。ファッションは「書籍販売とは全然違う」と話す。
ザランドはアマゾンの存在を十分に把握している。
市場調査会社ユーロモニター・インターナショナルによれば、西ヨーロッパのシューズならびにアパレルのオンライン市場規模は420億ドル。アマゾンは現在、その5.7%を手にしている。ザランドのシェアはそれを若干上回る6.1%だ。
両社とも、ファッション性に優れた写真やトップモデル、巧みなテレビCMなどを用いて、業界第1位のオットー・グループと肩を並べようとしている。
オットー・グループは従来型のカタログ通販会社で、そのシェアは2011年には10%だったが、2016年になって6.2%に落ちた。

ザランドは配送強化と品揃えで対抗

ザランドは、配送部門の強化と製品構成の魅力を高めて対抗している。
2017年前半にはパリ近郊に新たな倉庫を構える予定だ。これでフランスにおける配送日数は1日か2日短縮されるだろう。
その数カ月後にはポーランドに、広さが約13万平米(東京ドーム約2.7個分)の自社所有配送センターを開設する。ヨーロッパ全土への配送に関して、受注から決済、梱包や発送業務、在庫や物流、顧客管理といったフルフィルメントコストを削減することになっている。
さらにザランドによると、過去数カ月で販売点数が30%強増えて20万点になったという。クリスマス商戦ではイヤリングや時計、ハンドバックなどのファッション小物の取り扱いを拡大したほか、ギフトカードをより広く利用できるようにしたと同社のルビン・リッター最高経営責任者(CEO)は話す。
「これまではクリスマス商戦に力を入れてこなかった」とリッターCEOは述べる。しかし「今回はつねに最新流行の新たな品揃え」を確保することを目指した。
投資顧問会社サンフォード・C・バーンスタインが実施した12月の分析調査によれば、ザランドは今のところ、ファッションに関して有利な状況にある。
ザランドとアマゾンは、ドイツならびにイギリス向けサイトにおいてほぼ同数のブランドを取り扱っているものの、女性向けファッションブランド上位20社に限れば、ザランドが9社で、アマゾンは4社だ。

大手ブランドとの関係強化にも注力

また、ヨーロッパのアマゾンで販売する製品の多くが季節外れか値引きされた製品であることが、バーンスタインの調査からわかっている。
ジーンズメーカーのリーバイスの場合、イギリスとドイツのアマゾンで販売されている商品の約5分の3は製造が中止になったものだが、ザランドではその割合はわずか14%だ。
リッターCEOによれば、ザランドは大手ファッションブランドとの関係強化に力を入れているという。大手ブランドは通常、シーズンものや正規価格での販売を好む。そうすればもぐり業者を食い止められるからだ。
「大手ブランドは、当サイトがファッションを画一化したり独占しようとしたりしているわけではないと知っている」とリッターと話す。「われわれは、より洗練された顧客に的を絞っている」
ザランドにとっての大きな課題は、十分な資金を注ぎ込んでアマゾンを撃退しながら、利益率と売上成長率を着実に伸ばしていくという長期目標を達成することだ。利益率と売上成長率は毎年20%を超えており、2014年の新規株式公開以来、64%ものシェア拡大を成し遂げる追い風となってきた。
ザランドは2016年、オペレーティングマージンを4%から5.5%に引き上げると約束していた。アナリストは、2018年には同社のオペレーティングマージンが6.5%に達するとみている。
リッターCEOによれば、ザランドは競争が激化するなかでも収支には悪影響がないという。しかし、スイスの証券会社UBSのアナリスト、アダム・コクランは、アマゾンの猛攻を見ればザランドの予想値は楽観的だと述べる。UBSは2016年11月にザランドを「売り」に格下げしている。
UBSが2015年夏、ドイツの消費者1000人を対象に調査を行ったところ、「過去1年以内にアマゾンでファッション関連品を購入した」という回答は78%だったが、ザランドで購入したという回答は40%だった。
「ザランドの投資家が抱える最大の不安材料は、アマゾンがファッション関連品の取り扱いを強化し、その脅威が増すことだ」と、コクランは11月のレポートで述べている。

アマゾン「最先端のイメージ」追求

アマゾンのサイデマンは、多くの障害が立ちはだかっていることを認識している。そして、シーズンで最も人気が高い製品を確保できるよう努めていると話す。
11月には、5月にヒューゴ・ボスのCEOに就任したマーク・ランガーを訪ねた。ヒューゴ・ボスの名のもとで寄せ集め状態となっているブランド数を減らし、男性向けビジネススーツブランドであることを改めて前面に押し出すうえで、アマゾンができることは何かを話し合った。
さらにアマゾンは、ソーシャルマーケティングの一大キャンペーンをスタート。ハンガリー人モデルのバーバラ・パルヴィンを採用して、写真やYouTubeでプロモーションを展開している。
イタリアのファッションブロガー、キアラ・フェラーニも、自身のシューズブランドをはじめとした商品の宣伝をアマゾンで行なっている。さらにはアメリカのソーシャライト、オリヴィア・パレルモも、愛犬の白いマルチーズ「ミスター・バトラー」と一緒にソーシャルメディア向けの動画広告を作成した。
こうした取り組みはすべて、アマゾンは安いだけでなく最先端を行くサイトであるというイメージづくりのためだとサイデマンは言う。
サイデマン自身、10月にアメリカのシアトルからロンドンへと居を移した。
「私たちの使命は、ファッションを発見するために人々が訪れるサイトとなることだ」とサイデマンは述べる。「オンライン安売りサイトになるつもりはない」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Aaron Ricadela記者、翻訳:遠藤康子/ガリレオ、写真:AdrianHancu/iStock)
©2016 Bloomberg Businessweek
This article was produced in conjuction with IBM.