【求人記事】「和・話・輪」が日本型イノベーションを創出する

2016/12/28
日本企業の競争力や生産性の低下が叫ばれて久しい。特効薬となる解を持たないまま試行錯誤する企業に対して「和ノベーション」を提案するのが、ローランド・ベルガーだ。

短期的な利益を追求する米系のコンサルティングファームとは異なり、製造業に強みを持つ独系だからこそ、日本企業にじっくりと寄り添い、さまざまな企業改革を支援してきた。

20年にわたって東京オフィスと共に歩んできた長島聡社長に、「和ノベーション」によって日本企業の強みを活かすためにはどのようなコンサルタントが必要なのか聞く。
変化を追うのではなく「主導する」
――日本企業には、イノベーションならぬ「和ノベーション」が必要だと提唱されています。
 長島 じつはこれ、10月に社員旅行に行った際、全体会議で議論しているときに浮かび上がった言葉なのです。 
 日本の生産性は欧米の2/3と低く、企画力も弱い。イノベーションもなかなか起こらない。そうした状況を解決するためにコンサルティングファームとしてどのような支援が必要か、議論を続けてきましたが、社員のひとりが「イノベーションという手垢のついた言葉が、そもそもダメなんじゃないか」と発言したのです。
 「なるほど」と話し合っているうちに「『和ノベーション』という言葉ならどうか」という声が上がりました。「和」は対話の「話」、そして仲間の広がりの「輪」であり、もちろん和式の「和」でもあります。日本企業を支援し続けてきた私たちにとっても、非常にしっくりくるものです。
――欧米型のイノベーションではなく、日本型のイノベーションが必要だということでしょうか。
 長島 日本企業、なかでも製造業は技術のすり合わせの力や期日までの追い込みの力などには目を見張るものがあります。技能の幅は広く、非常に深い。粘りもある。
 ただ、全般に課題解決型で、事実を積み上げて結論付ける帰納法的な手法に偏りがちです。それだけではどうしても急速な変化に対応しきれませんし、高く飛躍するアイデアには結びつきにくいものです。
 しかし、日本の企業や個人が持っている潜在力を十分引き出して結集すれば、もっとすごいことができるはずです。
 「和ノベーション」によってそれを促進すれば、小さな改善にとどまらない革新的なアイデアがもっと高い頻度で創出できます。デンソーの「1/n」ライン(注)のようなイノベーションがもっとたくさん生まれてくるはずなのです。
(注)「1/n」とは、数パーセント程度の削減ではなく、2倍あるいは1/2といった整数レベルの改善や効率化を実現させるデンソーの取り組み。生産設備の小型化と加工ラインの改善も含め、組立に応じて生産量(経済単位)を揃えることにより、設置面積、設備費、加工費を大幅に削減する
 そのときに大事なのは、まず「どのような未来を生み出したいのか」を具体的に構想すること。みずからの構想した未来に向かって和ノベーションを起こしていくことです。そのためには「変化に対応する」のではなく「変化を主導する」という強い意志が必要です。
長島 聡(ながしま・さとし)
ローランド・ベルガー 東京オフィス 代表取締役社長
早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、各務記念材料技術研究所助手を経て、1996年、ローランド・ベルガーに参画。工学博士。日本法人の代表取締役社長。自動車、機械、石油、化学、エネルギーなどの業界を中心として、グランドストラテジー、事業ロードマップ、チェンジマネジメント、現場のデジタル武装など数多くのプロジェクトを手がける。特に、近年はお客様起点の価値創出に着目し、日本企業の競争力・存在感を高めるための活動に従事。自動車産業、インダストリー4.0/IoTをテーマとした講演・寄稿多数。近著に『日本型インダストリー4.0』(日本経済新聞出版社)。
「暗黙知」をコンサルティングで可視化
――和ノベーションを起こすためには、具体的にどのような方法が必要でしょうか。
 長島 そもそも生産性が上がらない理由のひとつは、毎回ゼロベースから考えていて無駄が多いことが挙げられます。縦割りの慣習や組織のタコツボ化のために、隣の部署ではすでに試みたことであっても、別の部署ではその事例があったことも知らずに、同じことを企てて同じ失敗をしたりする。
 すでに世の中にある「ありもの」を知らずに、その「ありもの」をはじめから作るのに時間を使っている。世の中の急速な変化についていこうと、急ぐあまり、足元ばかりみて、周りがみえなくなっている。
 そうではなく、誰かがすでに試行して持っているものを掘り起こし、それをうまく活用していくことができれば、それだけ先に進んだ地点からスタートすることができるのです。
 企業や個人が持っているさまざまなノウハウ、技術や知恵、ツール、考え方の枠組み。和ノベーションでは、そうした「暗黙知」を、日々の対話におけるピンポイントな質問を通じて引き出して「見える化」する。それを「組織の癖」にしていく。
 とくに製造業の場合、日本企業の多くはイノベーションに必要な要素をすでに持ち合わせています。それらをさまざまに組み合わせる、再編集することで、革新的な取り組みが可能になると考えています。
ローランド・ベルガーが提唱する「和ノベーション」。東京オフィスにおいても、個人が持つ「暗黙知」を具体的な質問を通じて引き出して「見える化」するプロセスが日常的に実践されている。
――「暗黙知」を「形式化」して、それを応用していくということですね。
 長島 テーマを絞って、それに関する知見や能力を深く掘り下げる質問をすれば、たくさんの「使える知恵」を引き出すことができます。上手に質問することができれば、それに答えるかたちで企業や個人のなかに眠っている、さまざまな「知の体系」が引き出せるのです。
 それは和ノベーションのなかでも「話」、つまり「対話」の力です。われわれはそういう対話を通じて、部門を超え、企業を超え、業界を超えて、知識を体系化していこうとしています。対話を通じて人の「輪」、仲間の「輪」を外に広く展開していく、それがさらなるイノベーションにつながるのです。
 本質的なイノベーションの要素は、業界の垣根を越えて応用できるものです。過去のイノベーションの事例から、イノベーションに必要な要素を抽出して、それも可視化する。新たなアイディアも集める。そして、それらの組み合わせでイノベーションを起こす試行錯誤をしていく。 
 いわばイノベーションを起こすために役立つ「能力・武器」を提供する準備も進めています。たくさんの「能力・武器」が目の前にあると、それを再編集して、イノベーションを起こしたいという気持ちが、みんなに湧き上がってくると思っています。
 オープンイノベーションのリンカーズとの提携はまさにそのツールの開発・展開を意図しています。大企業と中小企業をつなげるこれまでのリンカーズの取り組みを、大企業内の壺割り、企業同士の連携、つまり、対話・交流に活用しようと考えているのです。
未来構想図を描き、異なる知を結集させる
――そのために、東京オフィスに「R&Dセンター」や「未来構想センター」を設置するよう発案されたそうですね。
 長島 R&Dセンターは、現在は社内向けの取り組みで、ローランド・ベルガーの東京オフィスでも「和ノベーション」を進めるためのものです。目的は、コンサルタントの生産性を1年間で3割アップさせることです。
 昇進もこれまではひとつのポジションを2年経験するのが平均でしたが、生産性が3割アップするのですから1年半くらいに縮まる計算になります。
 そのためには、ベテランのコンサルタントが持っているさまざまな引き出しを可視化して、若手も含めて社員全員が使えるツールとして共有できるようにすること。プロジェクト毎に生み出した新たな価値について、その都度具体的な質問を投げかけ、それを生み出すまでの軌跡やコツを細かく引き出していくのです。
 東京オフィスの能力を可視化するためにはITも駆使します。「アイデアが出やすい雰囲気」や「社員の気分が盛り上がる場」をどう創出していくのか、社内の対話を作り出すための施策を試行しています。
 社員のオフィス内での動線を意識したコミュニケーションも心がけています。いまはアナログな掲示板を使った和ノベーションボードを通路においてありますが、近々デジタルサイネージへとアップグレードする予定です。
 また、未来構想センターは「こういう未来を生み出したい」という見取り図を描く訓練をする場です。「あったらいいね」を考えて、外部の様々な方と対話をしながら検証する。変化にどのように対応していくのかを考えるのではなく、変化を主導していくために必要な「未来を描く能力」を鍛えていきます。
 今後、デジタル技術を活用して、企業は顧客や社会との関係を大きく変えていく必要があります。これからは、モノづくりの枠を超え、製品やサービスの販売のみならず、利用シーンを通じて、顧客や社会との接点を能動的に拡大し、より多くの満足や喜びを届けることが求められます。
 お客様や社会との対話を通じて、本質的なニーズを「先読み」し、届けたい製品・サービスを構想する。そして、しっかりとその良さを伝えて、お客様や社会を「引き寄せ」ていく。
 さらに、組み合わせで多様な価値を生み出せるたくさんの能力や武器を「構え」として整え、お客様や社会にぴったりのタイミングでぴったりの価値を届けていくのです。
 そのためには「異なる知を持った仲間」を集めるということを常に考えています。
──「異なる知」といいますと具体的には?
 長島 たとえば、観察力の優れた人が挙げられます。ヒトの動作から感情や痛み、困りごとを読み解ける人がいると、新たな価値のアイデアが湧きます。会議の場などで瞬時に誰がキーマンかを見抜く人がいると、飛躍的に話を早く進められます。
 そういう能力を買ってホテルのコンシェルジュに目をつけたこともありました。瞬時に製造ラインのボトルネックをみつけられる製造業の技術者などもそれに当たります。
 あるいは、場の温度を上げられる人。コンサルタントはクライアントにさまざまな提案や議論をしますが、クライアントがそれを「やってみよう」と自ら思わなくては、いっこうに物事が進みません。
 そこで、クライアントの熱量、場の熱量を高められる人というのも、コンサルティングファームには欠かせない人材なのです。
 また、その場で「落ちこぼれ」が誰も出ないように、有形無形のサポートをそっとできる人も威力を発揮します。
 もちろん、プロフェッショナルとして、問題解決や自分の専門領域に卓越した技術を持ち、自信があることも大事です。
 ただし、それと同時に、異なるクライアント各人に眠る構想や夢を丁寧に聞き出し、チームでもそれぞれの長所を生かし合って、それらを現実のものへと変えていくコラボレーションが必要になります。クライアントや同僚、仲間の個性や能力を引き出せず、「オレがすごい」だけの人は要りません。
 和ノベーションを起こすためには、さまざまな能力をいかに結集できるかが鍵になります。自分たち自身も同質化したり、タコツボ化したりしないように「刺激の日」を設けました。
 コンサルティングの仕事は、長期にわたってクライアント先に常駐する、あるいは自分の机でペーパーを書くことだけに集中するあまり、内向きになってしまうことがあります。ですから週に半日くらいは担当を離れて、和ノベーションを一緒に起こせるまったく新しい人やものに出会いにいくように奨励しています。
クライアント企業の「和イノベーション」を推進するには、まず東京オフィスが変革を遂げなくてはならない。「異なる知」が力を発揮できる場づくりのために、長島社長自らがさまざまなアイデアを投げかけ、実行されていく。
異なる知を発揮できる場をどうつくるか
──お話を伺っていると、コンシェルジュや刺激の日など、長島さんご自身が異能という感じがしてきます。
 長島 ローランド・ベルガー日本法人の創立初期から20年以上在籍していますが、ずっとすこし変だと思われてきた気もします。もともと自然科学を研究していて、コンサルタントとしては変わり種かもしれません。
 ロジスティックスを担当していたときは、数学的な考え方を応用して、いろいろ仕組みをつくるのがおもしろくて仕方がなかったですね。
 私は、射程の遠いゴールを設置して、それを突き詰めていくスタイル。ですから周りに自分の話があまり通じないこともありましたね。うまくいくとプロジェクトの途中で、多くの場合はプロジェクトが終わって初めて、「長島さんがあのときに言っていたことはこれだったんですね」と言われることも少なくなかった。
──社員の方に伺うと、近年優しくなられたとか。
 長島 ゴールをはっきり示すことを心がけ、少し理解してもらえるようになりましたね。伝わらないときは、懸命に一歩手前のゴールから示すようにしています。未来を描くことも同じですが、トップはゴールを示すだけでなく、それを理解してもらわなければダメですから。
 最近は、日本法人として独自に考え、いろいろな試みを生み出しています。
 ローランド・ベルガーの海外拠点と短期間社員をスイッチする「エクスチェンジ」プログラム、そしてドイツ本社や東南アジア地域にジャパンデスクを置き、現地進出する日本企業にきめ細かな対応をできる制度もつくりました。
 スタンフォード大学のデザインスクール、通称「d.school」の取り組みにも着目して、オフィスとコンサルタントのデジタル化という活動を若手のコンサルタントが中心となって進めています。
 マインドマップ、ベテランの思考の動画、プロジェクト履歴が追えるチャットツール、リアルタイム共有ツールなど、生産性を高める仕掛けをどんどん試しています。
──異なる知を集めて、その知が交じり合って力を発揮できるための場を社内でも社外でも提供して、和ノベーションを促進するのですね。
 長島 個別の能力を磨く者、それを交流させる者、能力を再編集する者、新しい価値を届ける者と個性や適性はさまざまです。
 それぞれが、生み出したい価値、つくりたい未来を共有して輪になってつながり、みんなが活躍できる世界にしたい、それは和ノベーションで必ず可能になるはずです。
(編集:濱智子、文:奥田由意、写真:北山宏一)