データ、データ、データ・・・
一時、どこもかしこも「ビッグデータ」という言葉が氾濫していたが、自然と波は去っていった。そんな中で、一貫して分析の重要性に着目し続けたブレインパッドは、着実に成長を続けて東証1部に上場を果たしている。
バズワードになりそうな「人工知能」という言葉だが、同社の代表取締役会長である草野隆史は、どうビジネスに活用していくのだろうか?

人工知能をバズワードにしてはいけない

— 機械学習とディープラーニングの活用サービスをスタートされていますが、人工知能をどのように活用していく方針ですか?
草野 まず、世の中で「人工知能」という言葉が便利に使われてしまっているので、少し整理してお話をする必要があると思います。現在、「人工知能」と表現されている技術には、可能性に満ちてはいるものの未成熟で領域を特化して磨き込まなければならないものから、充分に成熟していて汎用性の高いものまで、非常に幅があります。
「未成熟な最先端のアルゴリズムを研究して新たな人工知能技術を開発する話」と、「すでに利用可能なレベルの人工知能技術を使ってビジネスに活かす話」は、切り分けて考える必要があります。
株式会社ブレインパッド 代表取締役会長 草野隆史
2004年にデータ分析の重要性に着目して設立された日本初のデータマイニング専門企業。2013年には東証1部に上場。データ活用支援領域のリーディングカンパニーであると同時に、当該技術を使ったシェアNo.1のデジタルマーケティングプラットフォームを提供する事業会社でもある。
 当社は後者の立場で、様々な人工知能技術を社会実装する役割を担っています。今回のサービスもこれから人工知能の活用を検討したいという企業に向けて、導入検討のご支援をするもので、多くの引き合いをいただいています。
「ビッグデータ」という言葉ではどこか他人事だったものが、「人工知能」という言葉の登場で、多くの企業がビジネスにおける先端ITの重要性を自分事化し始めたことは大きな進展だと思います。

ディープラーニングのポテンシャルは本物

— こちらもバズワードになる可能性のある「ディープラーニング」ですが、どうお考えですか?
草野 私たちは、データを活用してビジネスを進めていくことが、変化の激しい環境に適応しながら、敏捷に経営していくために必須であると考えています。データ活用を経営に取り入れることができれば、それだけで企業は進化・改善していくはずです。この点では、企業を変えるのに必ずしもディープラーニングは必要ではないです。まだまだ、実現出来ることも限定的ですし。
ただ技術としてのポテンシャルは大きなものがあり、期待をしています。テーマを定めて、キチンとしかるべき大量のデータを利用して取り組めば飛躍的な革新が期待できるでしょう。
オープンソース化の影響もあり、今後、人工知能技術自体は加速度的にコモディティ化する「部品」のようなものであると考えられます。企業は、その部品をどのように自社のビジネスに活用するのかというイメージをもって、人工知能を育てるためのデータを戦略的に集めていかなければいけません。
私たちは、このような仕事をお手伝いできる限られたポジションにいると思っています。人工知能とデータを活用して、競合との差別化を生み出すプロセスをお客様と一緒に考えてビジネスをデザインすることが、当社の営業やコンサルタントの本質的な仕事となります。
そして、デザインするだけでは「絵に描いた餅」になりがちなところを、実際にデータを分析するデータサイエンティストと、生み出されたロジックをシステム化し既存の基幹システム等とつなぎこむエンジニアが引き受けることで、お客様の人工知能による付加価値創造を構想から実装までワンストップでサポートすることが可能となっています。

圧倒的な打席数を積み、人工知能を駆使できる企業へ

- そこが、貴社でしかできない仕事なのでしょうか?
草野 そうですね。当社が、「ビッグデータ」という言葉のない時代から様々な経験を積み重ねて今日の立場を築いてきたのと同様に、いま、時代の転換点として各インダストリーで新たなフロンティアが拓かれようとしているこの時に、人工知能利活用の場数を踏むことは、この分野で活躍していく上での絶対なアドバンテージになります。
圧倒的な数の打席に立って、様々な業界のビジネス課題に対していかに人工知能をフィットさせていくかに取り組むことができる。これが当社の仕事の最大の魅力といっていいと思います。今、この領域に関して、人材の数や質、経営体力の面で、ブレインパッド以上に打席数を回せる会社はないと思います。
私たちがこれから考えなければいけないことは、世界のどの部分をデータ化するのか、それを分析や人工知能にかけることで、何が可能となり、どのような課題を解決し、どれだけの価値を生めるのかということです。
たとえば、当社は「Rtoaster(アールトースター)」というデジタルマーケティングのプラットフォームを提供しています。これは「プライベートDMP」と呼ばれる、クライアント企業がその顧客の行動データをデータベースとして蓄積すると共に、そのデータを機械学習で解析した結果に基づく接客アクションを行うためのインフラサービスです。
このサービスは、自分たちの技術をデジタルマーケティング領域でのデータ利活用に適応したら、という発想で自社開発したところシェアNo.1になったというものです。
その他にも、人的な作業負荷のかかる運用型広告の入札を自動化するエンジンも開発していて、月何億円という規模のクライアントの広告運用を現実に自動で処理しています。これらデジタルマーケティングサービスを扱う事業だけでも、上場している競合企業があるくらいの事業規模が既にありますし、データでビジネスプロセスの多くが完結するこの領域は人工知能と相性がいいので、これからも様々なサービスを創っていけると考えています。
よく、人工知能によって人間の仕事がなくなるという議論がありますが、当社にとっては全然怖くありません。「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ(アラン・ケイ)」という言葉のとおりに、後手に回ることなく、むしろ人工知能を上手く活用したハッピーな未来を自ら創っていけばよいのです。
もちろん、前例がない新しいことを提案して創っていくので、簡単な仕事ではなく苦労もあります。しかし、それに見合うやり甲斐はありますし、むしろ、その難題を喜ぶようなチャレンジ精神旺盛な仲間を増やしていきたいと考えています。
創業して12年。これからまさに花開く人工知能という領域で、優れた頭脳をもつメンバーと一緒に、十分な実績と経験をもってこのチャンスに臨める今が一番希望に満ちていますし、自分を本当に幸運だと思っています。この機会をより多くの信頼できる仲間と共有し、いい未来いい社会を創っていきたいと思います。