【プロピッカー・工藤啓】私が「無業」状態の若者を支援する理由

2016/11/19

「無業」状態の若者を支援

11月からプロピッカーになった認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓と申します。
育て上げネットは、仕事に就いていない「無業」状態の15歳から39歳の若者が経済的に自立し、「働き続けること」を応援する活動をしています。これまでに約1万5000人の方を支援してきました。
そのほか、高校でのキャリア教育や進路・学習の指導、経済的に苦しい家庭の小中学生に学習と生活の支援をしています。また、ひきこもりなどの悩みを抱えている保護者の方を対象にした支援も行っています。
今回、これまでの私の活動やキャリアについてお伝えできればと思っています。
私の両親は私塾を営んでいたのですが、その一環で学校に通えない子どもたちなどを受け入れる共同生活型の自立支援も行っていました。今思えば、それは一種のNPOだったのかもしれません。
そのため、物心がついたころから、30人くらいの多様なひとたちと一緒に生活する毎日を送っていました。
当時は、今以上に政府に紐付かない事業への公的事業がなく、塾の経営も苦しく、私の実家も豊かとは言えませんでした。
そうしたこともあり、働いているスタッフの方は一生懸命な人が多かったのですが、結婚したり子どもができたりすると「食べられないので」と言って泣きながら辞めていく人もいて、「365日間、人を預かる仕事は本当に大変なのだな」と幼心に感じていました。

ヨーロッパの現場を見学

私自身、必ずしも最初から若者支援をしようと考えていたわけではありません。転機は、日本の大学を辞めてアメリカの大学に入り直したことです。アメリカの大学では会計学を専攻していたのですが、私の周囲ではみな就職の話はせず、起業や親の家業を継ぐ話ばかりをしていました。
そうした環境にいると、私も日本で普通に就職するという意識が薄れていき、起業も一つの選択肢として感じられるようになりました。
そんなとき、ヨーロッパ出身の友人に「ヨーロッパでは若者支援が進んでいる。日本はいま金融危機で中高年のリストラが進んでいるから、いずれ再雇用の話となるだろう。そうなると割を食うのは若者だ。日本でもそろそろ若者の雇用に関する問題が出てきてマーケットができる。だからお前も日本に戻って事業をやるべきだ」と言われました。
「確かにそうだな」と興味を持ったので、まずはドイツとイギリスの若者支援の現場を見学しに行ったんです。
現地では、移民や棄民といったヨーロッパ特有の厳しい環境下にいる若者が、支援団体によるサポートを受けていました。
支援団体の方は「24時間365日一緒に住んで支援をしている」と話していたのですが、ふと「これは自分の実家でやっていたことと同じだ」と気が付いたんです。
そのうえで、支援団体の活動で興味深かったのは、スタッフが「これはソーシャル・インベストメント(社会投資)だからやるんだ」と言っていたこと。
つまり「社会の問題解決に対して自分の時間や情熱を投資し、直接的なリターンは社会がよくなることだ」と位置づけるだけでなく「あなたの腕次第では金銭的なリターンもつく」と言っていたことです。
その言葉に感銘を受け、2001年に帰国して任意団体を立ち上げることにしました。
工藤啓(くどう・けい)
NPO法人育て上げネット代表
1977年東京都生まれ。1998年、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科中退後、渡米。2001年、米国ベルビューコミュニティーカレッジ卒業。2001年若年就労支援を専門とする任意団体「育て上げネット」設立(現在は認定NPO法人)、2004年にNPO法人化。金沢工業大学客員教授、東洋大学非常勤講師。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員 、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。

「無業」は社会的な損失

NPOを立ち上げるにあたり、まずは両親がやっていたような活動をしている団体を見て回り、「若者のどの問題からアプローチするべきか」を模索しました。
色々と調べていくうちに「若年無業者」という、高校や大学に通学していない、もしくは収入となる仕事をしていない15~39歳の人たちが約220万人も存在していることがわかりました。
働いていないことで、一人あたり生涯約1億5000万円ものコストギャップが生まれてしまうことも知りました。これは個人の問題ではなく、社会的な損失だと感じました。
そこで、彼らに早い段階で働くきっかけをつかんでもらい、社会を支える側になってもらう活動をしたいと思いました。
いざNPOとして活動するに当たり、最初のカギは本当に持続できるかどうかでした。支援者を支える、支援側の生活が成立しないと仕方ありません。NPOの職員として継続して働いてもらうためには、きちんと報酬を払える仕組みが必要です。
その点で、NPOは第二顧客モデルと言って「支援が必要な環境にある人」とともに「お金や人手の面で支援をサポートしてくれる人」を顧客として意識する必要があります。
そこでは、いかに自分たちの活動に共感し、応援してもらえるかが大事になってきます。そこにはビジネスセクターでは当たり前である戦略なども大変重要です。この第二顧客の巻き込みがNPOの面白さでもあり、難しさでもあります。
私たちの「若者の雇用支援」という活動は、すぐに賛同を得られたわけではありません。最初は「なんで働いていない若者を支援しないといけないんだ」といった空気も根強くありました。それはいまでも根強く残っています。
そこで、賛同者を増やすために、ビジョンやデータ、ロジックに基づくアプローチと解決方法を提示するようにしました。
若者を支援する際は、「こんなに大変な事例がある」と感情に訴えかけることが多かったのですが、それだけでは支援いただける方が限定されます。論理的、定量的なアプローチを増やした結果、個人だけでなく、企業からの支援も増えていきました。
また、支援においては何よりバランスをとり続けることが大切です。例えば、支援しやすい地域や対象者ばかり支援をしていると、本当に支援が必要なところに届かなくなってしまうからです。

我々の支援活動の内容

活動を進める中で、この「無業者」は誰でもなる可能性がありながら、一度無業となると抜け出しづらい社会であることももわかってきました。
それは低所得で、通信制や定時制といった低学歴の人たちです。そうした人々は、生活保護家庭、困窮家庭だったケースが目立ちます。
そんな「無業者」や「潜在層」に対して、我々は職業訓練と学校の間のような支援活動をしています。
「働く」という支援はもちろんですが、それ以上に「働き続けるために必要なこと」を身に着けられるプログラムを提供しています。それは単なるスキルだけではありません。
「PCスキル」といった労働市場ベースで考えてしまうと、就職はできたとしても「継続リスク」が残ります。
では、どうすれば幸せに働き続けられるか。
就職した企業の働かせ方が間違っていることを除くと、長く働き続けられなかった若者の傾向として、周囲や家族との関係が悪かったり、そもそもの自信がなかったりすることも多いのです。
その場合は、周囲と円滑にコミュニケーションができるようになるために、自信をつけてもらうプログラムを提供します。
例えば、町内会のお祭りに出店することは、非常に良い体験になります。
お祭りに出店するとなると、企画から仕入れ、加工、販売など全部やることになります。チームでプロジェクトに取り組むことで、参加者は組織における自分の役割が見えるようになります。
声を出してお客さんを呼びこむのが向いている人、お金の計算が得意な人と色々いますよね。その自分の「出来ること」を通して自信を付けてもらうのです。
他にも農業やITなど色々なことを若者には体験してもらうようにしています。実際に働いてみる、自分と合う企業の雰囲気をつかむためのインターンシップも実施しています。まずはやってみる。そして、やってみて嫌だったら次はやらなければいい。そうしたスタンスでプログラムを進めています。
その中で、「これならやってもいいかな」と感じる仕事を、体験を通して徐々に絞っていけばいいと考えています。

問題を社会化する

NPOと企業との関係においても、変化が生まれてきています。CSV経営という言葉も聞かれるようになってきましたが、日本の企業も海外の企業の影響を受け、投資のポートフォリオの中に「社会投資」を入れられる仕組み(ソーシャル・インパクト・ボンドなど)が注目を集めるようになってきています。
こうなると企業は寄付をBSとしてではなく、PLの中で位置づけができるようになってきます。
今後は、日本の経営者も投資の際に、ベンチャーだけでなく、NPOという選択肢が増えれば嬉しいと思っています。
我々のようなNPOの重要なミッションは「問題の社会化」だと思っています。問題はみなに認知されないと問題ですらなくなってしまいます。
その「問題の社会化」という点において、プロピッカーとしてNewsPicksでコメントをすることは、とても意義があることだと思っています。
コメントでは、勇気をもって解決方法を示す必要もあると思っています。場合によっては、政府に対して財源の削減など厳しい提案をせざるを得ない場合もあります。そうした発信は批判をされることもあります。
ただ、NewsPicksのピッカーさんは、具体的な解決方法を提示することに共感をしていただける方々であるとお聞きしており、とても期待を持っています。ですので、ぜひ一緒に社会問題の解決について考えていけたら嬉しいです。今後とも、どうぞよろしくお願いします。
(構成:上田裕)