累計調達額は62億円。日本のスタートアップの中でも最注目と言える、Fintech界の雄、それがfreeeだ。そんな同社だが、代表の佐々木大輔氏を筆頭に、世界最高の企業とも言えるGoogle出身者が経営層を固めている。今回はその中でもセールス部門を司る2人のキーマンに話をうかがった。世界中の企業からお手本として参考にされるGoogleという組織で研鑽を積んできた2人は、その経験をいかにfreeeに還元しているのだろうか。

Googleをやめてfreeeに入った理由

― ところで、お二人はなぜ、“あのGoogle”を辞めてfreeeに?
野澤 社会人としてのスタートはリクルートで、そこからGoogleに転職したのですが、実は一度、Google辞めているんです。だから僕はGoogleを2度、辞めたことになる。
一回目の退職の後、別の会社で責任のあるポジションを任せていただいたのですが、少し迷いがあり。そんな時、オプトのCEOである鉢嶺さんから、「35歳までに自分のドメインを決めなさい」という言葉を貰ったんです。そこで自分のドメインって何だろう?と考えた時、リクルートとGoogleでの経験から、「中小企業向けのビジネスを僕の人生のドメインにしたい」、ということを考えて。
だからもう一度、Googleに出戻ることを決意したんです。ただ、Googleに戻ってから暫くして、中小企業ではなく大手クライアントメインの仕事に変わってしまったんです。年数を経て、いろんな職務を全うしてきた中で、「自分がGoogleの中でやれることって、もしかしたらなくなってきたかもしれない」という心境になり。そんな矢先に代表の佐々木から連絡がありました。今でも覚えてますね、2014年の2月21日、そのメールに「飲みましょう」と書いてあって。
「いつ?」って書いたら、「すぐに」と言う佐々木。
「あぁ、来たな」と思い、翌日の朝、妻に「俺、会社辞めようと思う」って一言伝えて海外出張に行ったことを覚えています。帰国後に佐々木と会い、その時、その瞬間にfreeeで働くことに決めたんです。
野澤 俊通 執行役員 セールスオペレーション統括本部長 兼 採用担当役員
リクルート、ダブルクリックを経て、Google Japanに17番目の社員として入社。新規顧客開発本部統括部長として中小・中堅企業向けの営業組織を立ち上げ、同部門のカントリーヘッドを勤める。2014年6月よりfreeeに参画。
村尾 僕には2つ理由があります。野澤をはじめ、日本法人を立ち上げてきた方々が次々と卒業された後のGoogleって寂しくて(笑)。グローバルの同僚にも羨ましがられる組織の責任者をやらせてもらうことになったので、やりがいは非常に感じる部分もありました。でも、自分から遠いところで成果の音が鳴っている、そんな感覚を持つようになりました。自分の行動したことが本当に結果になっているのかなど、そのあたりの手触りがない、そんな毎日でした。だから、今では考えられないくらいの売上を扱っていたのに、ダイナミックな仕事をしている感覚がなかった。それが1つ目の理由。
2つ目の理由は、いち営業として入社した私を、すぐに抜擢してくれた野澤に心から恩義を感じていました。「あなたが困ったら、その次の日に辞表を出して行きますよ」って見えないカードみたいなものを渡していたんです。で、野澤に久しぶりに五反田で飲もうよって言われ、「祐弥、今なんだよ」と真剣にfreeeに誘ってもらった。
それで、約束通り、次の日にGoogleの当時の上司に辞意を伝えました。当時のGoogleの上司も心から尊敬していた方でした。しかしこの野澤との約束は、【人生に一枚のカード】なので、何物にも代えがたいものでした。
村尾 祐弥 執行役員 営業統括 兼 パートナー事業本部長
毎日コムネット、マイナビを経て、Googleでは佐々木・東後・野澤と共に、中小企業向けの新規顧客開発マネジャーとして4年半従事、その後広告代理店営業統括部長を歴任。代理店営業・モバイル・ダイレクトセールスとチームを次々と立ち上げ、そのオペレーションはグローバルへ展開・標準化される。2015年にfreeeに参画。

経営会議の議事録すら、「あえて、共有」。価値基準で動ける組織は強い。

― ちょっと話を変えますが、御社は議事録を全社共有していますよね、経営会議の内容まで全て。日本企業では極めて珍しいと思うのですが、これは何故?
野澤 あれはfreeeという組織を形成する価値基準の中の一つ、「あえて、共有する」というものにリンクするもので。会社で今、何が起こっているのか?経営層は何を考えているのか。自分が知らないところで意思決定がくだされたり、その背景がわからないって気持ち悪いじゃないですか。
だから、僕たちはミーティングノート、議事録を積極的に出していくことによって、全員が全体を把握できるようにしています。
村尾 要は、多くのフィードバックを貰えることを前提にそもそも書いているわけです。想像できないと思いますが、会議に出席していないメンバーからも、ドキュメントにすごい数のコメントがつくんですよ。
だから、何を共有するか、しないかとかじゃない。会社の意思決定やその背景を全部共有するのが前提で、いかに反応してもらえるか、より自分のアウトプットを質の高いものにしてくれるようなコメントをもらえるか?という視点で考える。こういう組織、他にあまりないのではないかと思いますね。
― その価値基準、どなたが決めたのですか?
freeeの価値基準
・本質的(マジ)で価値ある ・理想ドリブン ・アウトプット→思考 ・Hack Everything ・あえて、共有する
野澤 もともとは佐々木が考えたものですが、今では社員による価値基準委員会というものを立ち上げていて、定期的にチューニングしています。なので、この価値基準は社員みんなでつくりあげているものなんです。
村尾 カルチャーが様々なものを解決していきますから、コストもかからないですよね。何か問題が起きそうになったり、意思決定の瞬間に迷ったりすれば価値基準に立ち返るから、迷うことがない。
これを信じ抜ける人間が増えていくと、いろんなものがどんどん解決されていくじゃないですか。そうするとそれをベースとして会社組織の歴史が紡がれ、さらに長い時間をかけて醸成されていく。この価値基準をベースとしたカルチャー自体が本質的な価値です。
これこそがfreeeの競争力の源泉だと思います。今、優秀な人材が集まってきてくれている。その人間たちが価値基準を信じて一丸となって動く、これすごいことだなと思います。だから、freeeって自然とチームの一体感、そして団結力が強くなっていくんですね。
Googleがそうだったように、みんな最初は違っても、時間とともにGoogleの人っぽくなるんですよね。freeeもそんな会社になりつつありますね。

圧倒的な結束力で、必ず、Googleの組織を凌駕する。

― Googleのカルチャーで、今、freeeという組織でも大切にしていることはありますか?
野澤 グーグリー(Googleらしさ)の一つとして、常にスケールを求められることが挙げられます。「10x」という言葉がずっと言われていて、常に10倍を考えよう、レバレッジを効かせてスケールさせることを考えていこうと言われています。
ここに関しては、freeeもすごく似ていて。世の中にインパクトを与えようとか、理想から逆算して物事を考えようとか。
あとは、問題の本質は何かを見なさいっていうこともGoogle時代のカルチャーを踏襲しています。例えば、freeeの会計ソフトで「この入力の仕方がわからない」ということがあったとします。
普通ならマニュアルないし説明文を変えればいいんですけど、「なんでわからないと感じさせてしまったのか?」を、ユーザーの後ろ側まで想像して、考えることがfreeeでは求められます。
だから「ユーザーがこう言った。だから言ったことをプロダクトに反映する」という安直な行動をとると、すごく怒られますし、僕も怒ります(笑)。
ユーザーの本質的な課題をちゃんと理解して、その課題に対して、どんな価値を提供できるのかを、ちゃんと見つめること。価値基準にもありますが、本質的(マジ)で価値がある、ことを貫くのがfreeeなのです。
― それでは最後に。応募される方に対して、そしてfreeeと関わる皆さんへ。これからの2人のビジョンをお聞かせください。
村尾 「提供する価値を高める」というのは徹底していきたいです。単純に価値を提供するだけじゃ駄目で、提供する価値自体をさらにもう1つ上まで高めることによって営業の介在価値や意味があるのであると、常に言い続けています。
既存ゲームのルールや概念を打ち破り、最先端のツール・メソッドを用いて今までの考え方ではスケールできなかったものをスケールできるようになれば、多くのユーザーにマジ価値が届けられる。こういった感覚を大事に、徹底的に理想ドリブンで考え抜ける集団になれば、きっと他の企業がなしえない本物の競争力がつくと思うんです。
だから、そういう当たり前のこと、コントロールできることを徹底的に高めていくこと、それに尽きます。僕らにはクライアントに提供する価値を高めるチーム、そしてそれを愚直にやりきる意思がある。そこに僕が率いるセールス全組織は深い自信を持っています。もちろん、まだまだ課題はありますので、ユーザーの皆様や会計事務所の皆様に叱咤激励していただいて成長していきます。
野澤 僕は抜擢人事みたいなことを、どんどんやっていきたいなと思っています。若い力が組織を引っ張るようなチームをつくっていきたいなと思っていて、早く老体は去るべきかなと。
リクルートで言う、ステイヤング。ああいう考え方を持っていかないといけないし、早く僕がいなくなる世界をつくろうというのが僕のミッションなので、それをやっていくためには若手に面白いと思える、責任感を負わせていくということをやっていきたいと僕は常に思っています。
それが人を育てることになると思うんです。でも、自分が保身やポジションを守ろうとすると、できなくなる。だから、僕はいつでもポジションなんて明け渡します。だから、そこに来るまでにいろんな経験を早く積めと。
「fast,fast,fast! fail fast」って、エリック・シュミット(Google元CEO)の言葉を覚えていて。それを体験できるように、実現できるように組織も変えていきます。これは僕だけの気持ちじゃなくて、経営陣等々、佐々木も同じように思ってくれていると思います。
― 自分がいなくても回る組織、もしくは自分がいなくなってもいい組織と野澤さんはおっしゃいましたが、野澤さんがいなくなったら寂しくないですか、村尾さん?
村尾 寂しいです。たぶん。
野澤 きっと、freeeのどこかにはいるので安心してください(笑)。