リクルートは世界企業になれるのか

2016/10/31

5年で19倍のインパクト

リクルートの海外展開が加速度を増している。
2014年の株式上場前後から積極的なM&Aを行い、2016年3月期の海外売り上げ比率は35.9%。わずか5年で19倍になった。
その背景には、峰岸真澄社長の「世界一」宣言がある。
上場時、峰岸社長が掲げた経営ビジョンは「2020年に人材領域で、2030年には販促領域でもグローバルナンバーワン」になることだ。
その目標を達成するためには、M&Aにより海外基盤を確立することが欠かせない──。
峰岸社長は「今後3~5年の投資余力は7000億円ある」と公言した。
そして宣言通り、上場後1年で海外売り上げ比率を30%程度に高めることに成功した。
2016年5月13日に行われた2016年3月期決算発表でも、峰岸社長は引き続きグローバルナンバーワンビジョンを示した。

Indeedの大化け

その牽引役が、Indeedだ。
2016年3月期の売上高は843億円。成長率は実に前年比83.1%である。
Indeedはインターネットに載ったあらゆる求人情報をまとめて検索できる「グーグルの求人版」ともいえるサービスで、現在は世界60カ国で展開、月間のUV(ユニーク・ビジター)数は2億を突破する。
2012年、当時リクルートのウェブ担当をしていた出木場久征氏(現Indeed CEO)が惚れ込み、単身アメリカに乗り込み買収したサービスだ。
売り上げ1000億円にも届く勢いの企業が80%以上の成長──そんな企業はそうそうないが、「買収当時は反対する声が多かった」と出木場氏は明かす。
「取締役会で金額を言うと、それはないんじゃないの、という声が多数派でした」
それも、むべなるかな。当時のIndeedはすでに数千万人の利用者がいたが、営業力が弱く、マネタイズが弱かったのだ。
将来性に目をつけ買収を検討するライバルはいたが、売り上げも利益もほとんどないような会社に巨額を払える会社は見当たらなかった、と出木場氏は振り返る。
そんななか、ゴーサインを出したのが峰岸社長だ。
「出木場がいけるって言っているから、賭けよう」と取締役会を説得したと言う。
こうして、約1000億円(当時の為替換算)の買収が実現した。
買収後はリクルートのマーケティングノウハウを移植し、売り上げを買収後わずか1年で85%も増やした。
数年以内にIndeedの時価総額はリクルートの時価総額のおよそ半分。1兆円に届くのではないかと占うアナリストもいる。

EBITDAマージン率も改善

リクルートの海外M&Aの、もう1つの成功パターンは、海外の人材派遣会社を買収し、利益率を上げることだ。
その舵を取るのが海外人材派遣事業のトップで常務執行役員の本原仁志氏だ。
人材派遣会社はその産業の特性上、利益率が2〜4%程度と低いのが通常だが、利益率アップのために、リクルート独自の「ユニット経営」を買収先に導入した。
「ユニット経営」とは、事業単位を出来るだけ小さく細分化し、各ユニットが大きな裁量をもって事業を推進していく方法だ。
リーダーはいわば、「ミニCEO」。利益目標を達成できるなら、コストカットなどの手段は一任される。
こうした自立型組織の運営により、過去に買収したCSI、Staffmark、Advantage Resourcingといった海外人材派遣会社は合計して、EBITDAマージン率が3.7%から5.1%に改善した。
さらに、2016年6月には、欧州をカバーするオランダの人材派遣会社USG Peopleを約1885億円で買収し、アデコ、ランスタッド、マンパワーに次ぐ世界4位の人材派遣会社となった。
リクルートが2016年6月に買収したUSG People。本特集では、その内部の取材も敢行した。
USG Peopleの利益は2016年後半の決算から計上され始めるため、リクルートの海外売り上げ比率がより高まることは間違いない。

課題は販促メディア

このように人材メディア領域ではIndeedが圧倒的な存在感を示し、人材派遣領域は、すでに海外派遣の売上高(4758億円:2016年3月期)が国内派遣の売上高(4141億円)を超すほど海外展開が進んでいる。
だが、販促メディア領域の海外展開は、まだまだ未知数だ。
過去、「ホットペッパー」や「じゃらん」、「ゼクシィ」が中国に進出したものの、競合に勝てずに撤退した苦い過去もある。
自前路線からM&Aで海外展開する路線に変わってからも、2014年までは、アジアのレストラン予約サイトや欧州の旅行ツアー予約サイトなど少額出資するにとどまっていた。
ところが、2015年、販促メディア分野でもついに大型買収に乗り出した。
クラウド型の飲食店予約サービスを提供するドイツのベンチャー、Quandooを265.5億円で買収したのだ。
さらに、同年、欧州のオンライン美容予約サービス「treatwell」を運営するHotspring Ventures Limitedを約204億円で手に入れた。
いよいよ、「2030年世界ナンバーワン」への布石を本腰を入れて打ち始めたといっていい。
一方、「まなび分野」は同年、約47.7億円でQuipperを買収した。リクルートが注力するオンライン・ラーニング分野は国内では「スタディサプリ」で、海外では「Quipper」ブランドで展開すると表明した。
買収後は、Quipperが持つ教員向け学習管理システムをスタディサプリに移植し、一方でQuipperにはホットペッパー式の組織マネジメントを導入するなどして、相乗効果を見込む。
Quipperインドネシア拠点でのキックオフ・ミーティングの風景。
国内では強くても海外では無名──。リクルートには長らく、ローカル企業のイメージが付きまとってきた。
実際、リクルートの海外展開の歴史は浅い。そのため、Indeedの成功が見えだす前は、峰岸社長が言う「グローバルナンバーワン」という言葉が大言壮語にも聞こえた。
しかし、3割強に達した海外売り上げ比率を見ても、次々と打ち出す海外企業買収から見ても、リクルートの世界一戦略の本気度を感じる。
果たしてリクルートは、本当に世界で勝てるのか──。
NewsPicks編集部ではその可能性を探るためIndeedのCEO出木場久征氏、USG Peopleなど海外の人材派遣会社のM&Aを主導する常務執行役員の本原仁志氏へのインタビューを実施。
また、どのメディアも足を踏み入れたことのないシリコンバレーにあるリクルートのAIの研究機関「Recruit Istitute of Technology(RIT)」に赴き代表のアロン・ハレヴィ氏を直撃した。
「Recruit Istitute of Technology(RIT)」代表のアロン・ハレヴィ氏。ワシントン大学でデータベースリサーチグループを創設し、Google Researchでマネジメントを10年間経験した後、シニア・スタッフ・リサーチ・サイエンティストとして構造化データのデータマネジメント分野の研究責任者を務めた人物だ。
さらにはインドネシアにあるQuipperに飛び、現地取材を行った。
本特集では、リクルートの急速なグローバル展開の中身と今後の可能性についてリポートしていく。