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東京はどうすれば世界一になれるか?

【新】都知事選で問うべき「5つのイシュー」

2016/7/25

10年前の大阪と似ている

7月31日に投開票を迎える、東京都知事選挙。投票日まで残り1週間となった7月24日、各候補者は各地で演説に臨んだ。

現在、三つ巴の戦いを繰り広げるのは、前衆議院議員の小池百合子氏、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏、元岩手県知事の増田寛也氏の3候補。各種世論調査によると、今のところ、小池氏が一歩リードしている状況だ。

新宿駅西口でスピーチする小池百合子氏。名古屋市長の河村たかし氏、元国務大臣の笹川堯氏らが応援にかけつけた

新宿駅西口でスピーチする小池百合子氏。名古屋市長の河村たかし氏、元国務大臣の笹川堯氏らが応援にかけつけた

今後1週間、各候補は、「政治とカネの問題」「人間性」「リーダーシップ」に加えて、「政策」「都知事就任後のゲームプラン」を問われることになる。

では、都知事選にあたり、もっとも重視すべきイシューは何だろうか。

「最大の争点は、情報公開。なぜなら、それをしないと何も始まらないから」

そう語るのは、慶應義塾大学の上山信一教授。上山氏は、運輸省、マッキンゼーの共同経営者を経て、過去10年、ブレーンとして、大阪府・大阪市の改革に携わってきた“改革請負人”だ(詳細は、明日公開の【第2回:橋下・大阪改革のブレーンが語る「東京改革プラン」】を参照)。

上山氏は「今の東京の状況は、10年前の大阪と似ている」と指摘する。

大阪市が大改革を始めたのは、2005年。それまでの大阪市は情報公開に消極的だった。しかし、助役を務めていた弁護士の大平光代氏が率先して情報公開を進め、隠されていた情報を記者会見で次々と公表していった。

最初に公開したのは、職員の福利厚生などの情報だった。そうして、カラ残業、ヤミ年金、公金の流用などが明るみになり、市民の怒りが爆発。それが改革への原動力となった。

「情報公開は、市民の関心と政治的なエネルギーを、選挙のとき以外にも持続させる効果がとても大きい」と上山氏は語る。「情報を公開して、市民が怒るというサイクルが改革のために必要になる。そのサイクルを、東京はまだ経験していない」

東京都議会というブラックボックス

現在の東京都の情報公開の状況はひどい。

全国市民オンブズマン連絡会議による「2011年度全国情報公開度調査」によると、東京都のポイントは「59点(満点は80点)」。全国の都道府県のうち、東京都を下回るのは、55点の富山県と52点の石川県だけだ。

さらに、都議会の閉鎖性も大きな問題と言える。

ともに無所属の都議会議員である、塩村文夏氏、音喜多駿氏は「都議会はどこでどんな意思決定が行われているかわからない、ブラックボックスだ」と口をそろえる(詳細は【第6回:30代都議会議員が見た「都議会という“超村社会”」】を参照)。

早稲田大学マニフェスト研究所による「議会改革度調査2015」でも、東京都議会は改革度において、35位となっている(2014年度は43位)。今の東京は、情報公開について言えば、およそ先進都市とは言いがたい。
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2020年後の人口減少

「情報公開」に続く2つ目のイシューは、「災害対策」だ。

堀江貴文氏は「喫緊の課題は、下町の木造住宅。今、地震が来たら、火災でやられてしまう。都が補助金を出してでも、すぐに耐震対応すべき」と語る(詳細は【第3回:もしホリエモンが東京都知事になったら】を参照)。

2015年3月末時点の推計で、東京の住宅の耐震化率は83.8%。都は2020年度末までに、同比率を95%に上げる計画を立てているが、そのスピード感でよしとするかを議論すべきだろう。

3つ目の争点は、高齢化問題だ。とくに、高齢化に伴う、医療・福祉のコスト増をどうカバーするかが問われる。

今のところ、東京は、日本の中では珍しい“人口増加都市”だ。

しかし、人口増加はあと少しで終わる。

東京都の予測によると、東京都の人口は2020年の1334万人でピークアウト。その後は減少トレンドに入り、2035年には、1278万人まで減る見込みだ。とくに、東京23区の周辺部である、多摩地区などは急速に高齢化していく。
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今日、東京の財政状況は良好だが、2020年以降、急速な高齢化に伴い、急速に悪化するリスクを抱えている。

前出の上山氏は「今のうちから2050年に向けた財政シミュレーションを行い、将来のために基金を積み立てておかないと大変なことになる」と警鐘を鳴らす。

ニューヨーク、ロンドンとの差

4つ目のイシューは、働き方、暮らし方についてだ。待機児童、交通インフラなどの問題もここに含まれる。

働きやすく、暮らしやすい東京を創るためには、待機児童を解消し、女性が働きやすくしなければいけない。満員電車の解消など、交通インフラの整備も焦眉の急だ。

保育園の分野は、基本的に区が担当しているため、これまで都の関わりは弱かった。しかし、待機児童の問題を迅速に解消するためにも、都がもう一歩踏み込んでいく必要がある。

そして最後が、東京のビジョンと成長戦略である。

東京五輪というビッグイベントは、東京が未来のビジョンを示し、世界へアピールする絶好のチャンスだ。単につつがなく五輪を開催するだけではもったいない。先進都市としての東京の姿を世界に見せる晴れ舞台となる。

すでに東京は世界に冠たる都市だが、各種の世界ランキングを見ると、ニューヨークやロンドンを下回っている。
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単純にGDPや経済力を見れば、東京は世界トップの地位にある。

にもかかわらず、ニューヨーク、ロンドンの後塵を拝している理由は、グローバル化(外国人居住者数や留学生数)、海外からのアクセス(空港の利便性、ホテル総数)、アート(美術館・博物館数)などの点で劣っているからだ。

世界にも響くビジョンを創り、東京の魅力をさらに高め、東京を世界ナンバー1、オンリー1の都市に成長させることができるかーーそのセンスと戦略と実行力が、次期都知事に求められている。

本特集「東京を問う」では、都知事選、都政の論点を整理するとともに、有識者へのインタビューを通じて、東京の今と未来を考えていく。

小池氏、鳥越氏、増田氏の3候補へ取材を申し込んでおり、取材が実現した場合は、随時インタビューを掲載していく予定だ。

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(写真:iStock.com/chachamal)