SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回はLINEをはじめとする近年のIPO市場の動向をみる。

LINEは時価総額8,000億円超

先週末にLINEが上場し、15日には9,000億円、今週に入っても8,000億円を超える時価総額となっている。
上場の前後も大変な話題となったが、2011年以降の新規上場(IPO)企業の中では、日本郵政グループ、リクルート、サントリー食品に次ぐ規模で、日本航空を上回る。
前期の当期純利益がマイナスであることなどからしても、LINEが異例のIPO案件であったこと、投資家からの高い期待があることがうかがえる。
 

IPO企業数は堅調に増加

ここで、これまでのIPOの動向をみる。
IPO企業数は2007年以降大幅に減少したが、2011年から再び増加に転じた。2015年は100社近い規模となり、IPO市場は盛り上がりが続いている。
なお、IPO企業数の増加や大型上場の存在で、IPO企業の時価総額(合計)自体は増加しているものの、東京証券取引所における調達額は必ずしも増加とはなっていない。
運用難ともいえる傾向にある中、有望なIPO案件には資金が集中しやすい状況とも考えられる。
 

ビジネスは移ろう

IPO企業の動向を考えるにあたり、過去を振り返ってみたい。
10年前のIPO企業をみると、現在とはかなり異なった業種構成となっている。製造業、ネット証券などの金融分野、ガラケー向けのシステム開発などが多く、インターネットサービスや広告分野はまだ少ない状況であった。
さらに、当時の注目企業のその後の10年間をみてみよう。
2007年以降景気後退に見舞われたこともあり、株価は大きく下落しているが、その中でも各社の動向からビジネスの移り変わりをみることができる。
DeNAはゲーム事業のヒットなどで大きく伸張し、長く低迷が続いたミクシィもゲームアプリで回復した。さらにDeNAはコンプガチャ問題などでゲーム事業以外への多角化も進める。
他方オールアバウトやアドバンスト・メディアは市場が上向いてきた2013年以降も回復していない。半導体ウエハのSUMCOからは半導体業界の厳しさがみえる。

2015年IPOのその後

次に、2015年のIPO企業のその後をみてみよう。
2015年に上場した企業について、便宜上、上場後6ヶ月後の時価総額増加率と純利益増加率(前期比)を示す。
全体では時価総額が減少した企業が過半数に上る。一方で、ブランジスタやインベスターズクラウドのように大幅に伸長したものもある。

明暗が分かれるネットサービス

これを業種別に分解する。
インターネットサービスから主な企業の株価指数(上場日=100)をみると、企業によって明暗が分かれる結果となった。
スマホ関連サービスのAppBankやゲーム制作のシリコンスタジオ、ニュースアプリのGunosyなどは下落基調が続く一方、投資用不動産情報サイトのファーストロジックは上下しながらも横ばい、葬祭関連情報サイトの鎌倉新書、スマホ向けECのHameeは上昇傾向となっている。
ただし、直近の業績ではGunosyなど堅調な場合もある。まだニュース一つで大きく揺れ動く不透明な分野とも言えそうだ。
なお、ブランジスタはゲームアプリのリリースにより急騰、現在は落ち着いてきているとはいえ上場時よりもかなりの高水準にある。
 

広告・メディアでは下落が目立つ

広告・メディア関連では、多少の上下はあるものの、全体として上場時から下落基調がみえる。
一般に広告・メディア分野は収益性に対して上場時株価が高くなる場合が多いことも一因と考えられる。
 
一方で2014年に上場した広告企業をみると、ロックオンはブロックチェーン技術を応用したEC用受注エンジンの開発などでプラスに転じている。
インターネットサービスの分野や広告分野は、移り変わりの早い、いわば水物のビジネスである。新サービス開発のニュース一つで株価は大きく動く。
 

LINEのマネタイズに注目

過去のIPO企業を始め、直近のIPO企業の動向でさえ、ビジネスにおける「流行」の移り変わりや期待値の変化を示している。
LINEは日本でメッセンジャーとして圧倒的シェアを持ち、グローバルでのMAUは2億1,500万人にのぼる。
しかし、既に各所で報道されている通り、LINEの2015年度業績は営業赤字であり、売上の4割はゲーム事業によるもので、LINEの抱えるユーザーネットワークを十分に活かせているとはいいがたい。
あらゆる事業の可能性がある反面、どれも日本では初の事例となるため事業を成功させるには試行錯誤が必要となるだろう。経営資源が分散する恐れもある。
売上もユーザーもあるのに未だに赤字、といえばTwitterを思い出させる。
報道によれば、上場によって調達した資金は、インドネシア等のユーザーの獲得、スマートポータル戦略のパートナー開拓、AIやデータ解析等の技術開発に利用するという。
単なるメッセンジャーではなく、ゲーム、音楽、マンガ、ニュースといったコンテンツプラットフォームと、ライフプラットフォームの双方を担う「スマートポータル」として、あらゆるビジネスの入り口としての位置づけを目指すとしており、LINEはビジネスを変化させていこうとしている。
掲げるのは簡単でも実行は非常に難しい事項であり、今後のLINEの事業方針が注目される。