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【SPEEDA総研】好調な低温物流、アジア市場への期待

2016/7/2
SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は小売業界などで欠かせない低温物流の市場をみる。

国内外で市場が拡大傾向

中食需要の拡大やコンビニエンスストア、チェーンストアのPB商品などの強化により、低温物流市場は拡大トレンドにある。特に、コンビニエンスストア大手が弁当や総菜などの生産・販売にチルド温度帯の活用を増加していることも市場を牽引している。

そこに加えて、アジア向け市場が動き出している。政府では、農水産物・食品の輸出促進を図るため、低温物流網整備と冷凍・冷蔵技術普及支援事業を推し進めており、内外ともに追い風が吹いている状況である。以下、詳しく動向をみてみたい。

荷主から需要家までをつなぐ

では、低温物流は通常の物流とどのように違うのか?

低温物流は、チルド食品、冷凍食品、生鮮品などの食品が主な運搬物となっており、保管・配送において倉庫施設、車両搭載コンテナなどの設備において特殊仕様が必要となる。

冷凍食品や中食の普及もあり、20℃以下の食品をはじめとする3温度帯(冷凍、冷蔵、定温)による物流を総称して「低温物流」と呼ぶようになった。

生鮮食品や冷凍食品などを、生産地から消費地まで一貫して低温の状態を保ったまま流通させる仕組みは「コールドチェーン(低温物流体系)」と呼ばれている。
 低温物流-01_保管温度

低温物流は第3の成長期へ

低温物流の普及は、1970年代と1990年代後半以降の2つ変動期を経て、第3期の成長期を迎えようとしている。

第1期:1970年代以降、コールドチェーンの台頭
 ・モータリゼーションによるトラック輸送比率の上昇
 ・温度管理が必要な食品の物流網の形成、設備の高度化が進む
 ・チルド食品や生鮮品が食品スーパー店頭に、大手食品メーカーの物流子会社設立活発化

第2期:1990年代以降、小口化と個人向け需要の拡大期
 ・宅配便業者による小口保冷輸送需要拡大
 ・小口保冷輸送の百貨店のギフトや通販などへ普及
 ・法人需要の小口荷物などへもサービス領域拡大

第3期:国内需要・アジア需要の拡大
 ・冷凍食品の底堅い需要と中食需要の拡大
 ・コンビニエンスストアやチェーンストアの定温度帯商品の拡充
 ・アジアを中心としたコールドチェーンの形成

冷蔵倉庫は大規模化

低温物流に関連が強い冷蔵倉庫は、主に水産品の水揚げが行われる漁港を中心に拡大、その後、流通の近代化で畜産品や農産品も保管対象に加わった。さらに、1960年代に冷凍食品が普及し冷蔵倉庫も拡大、その規模は2015年4月現在推計で約2,800棟、約3,400万立法メートルとなっている。

プレイヤーは、大手水産業者と地場の港湾物流業者などが混在しているが、リプレイスができない中小企業の撤退で事業者は減少傾向にある。冷蔵倉庫の大型化、一事業所当たりの冷蔵能力が急拡大しており、大手20社のシェアが約7割近くまで上昇している。
 低温物流-05_設備能力と事業者数

冷凍食品は、流通産業に関する規制緩和が進んだことから、1990年から2000年においては、年平均成長率約8%で拡大した。近年の成長率は鈍化したとはいうものの現在の食生活に欠かせない存在となっている。

さらに、中食産業にあたる惣菜市場の市場規模は、日本惣菜協会によれば、2014年に前年比2.4%増の9兆1,080億円となった。2005年の7兆5,804億円から年平均成長率2.2%と緩やかに成長している。コンビニエンスストアや食品スーパーなどが弁当・惣菜などを強化していることもあり、この市場は安定した推移を示している。

多様な業種・業態の企業が参入

食品業界を中心に普及してきた業態ということもあり、食品メーカー系、商社系事業者、卸売業者、地場系企業などが低温物流事業を展開していた。近年は、医薬品・ケミカル・IT部品・半導体など食品分野以外での需要や国際物流における需要が拡大し、フォワーダーや外航海運業者など多くの物流業者が業際を超え低温物流事業に参入している。

冷蔵倉庫設備能力でトップは、専業大手のニチレイロジグループ。冷凍倉庫の設備能力約150万トンで国内1位(世界5位)を誇る。横浜冷凍は国内第2位、全国に冷蔵倉庫を保有している。近年は積極的な設備投資により冷蔵設備能力を拡大させている。水産大手のマルハニチロ物流は、東京地区で業界トップの庫腹量、最新鋭のセンターを川崎に新設、冷食などの取扱量拡大を図る。
 低温物流-06_設備能力ランキング

一方、低温物流の売上高でも、ニチレイロジグループがトップに位置する。同社はニチレイ以外の売上比率が92%と圧倒的にグループ外荷主が多い。複数メーカーの低温食品を冷蔵・冷凍専用物流センターに集約し、それらを小売チェーンの各店舗や外食チェーン向けに共同配送を実施している。1988年の欧州進出を皮切りに、2004年に中国、2013年にはタイに進出し、海外事業の拡大を図っている。

2位のキユーソー流通システムは、4温度帯の物流ネットワークを全国に展開する専業大手。親会社キユーピーへの受注依存度は10%程度で、コンビニエンスストアやチェーンストアなどの流通業を得意先とし、新規受託や既存取引の拡大などにより、増収基調で推移している。今後は、共同物流事業における輸入食品の取扱拡大や日配品の取組み強化、中国での低温幹線網の拡大を図る。

また、2015年10月には、チルド食品物流のパイオニアの名糖運輸と冷凍食品物流のリーディングカンパニーのヒューテックノオリンが経営統合、C&Fロジホールディングスが誕生、冷蔵倉庫設備能力では3位に、売上高では4位に浮上している。

このほか、堅調な成長が見込まれる低温物流市場を背景に、量販・小売分野をはじめとする物流ノウハウをもつセンコーは、2014年に定温物流のランテックを子会社化、今後は中国国内で冷凍・冷蔵物流体制構築するなど大手を中心に事業再編がみられる。
 低温物流-07_売上高

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需要側のチルド弁当は増加が続く

需要側であるチルド弁当の動向をみると、わらべや日洋のチルド弁当売上高は2014年度以降の急激な成長がみられる。

同社は売上の7割以上をセブン-イレブン・ジャパンが占めており、コンビニエンスストアにおける惣菜や弁当市場の好調さがうかがえる。今後も、チルド弁当生産設備の増強や、20℃弁当工場のチルド対応化を計画している。
 低温物流-08_わらべや日洋

ニチレイロジ、ASEAN市場に期待

同社は、低温物流の市場規模について、新たな事業領域として農業分野や有力コンビニエンスストアに注目している。また、未開拓エリアとしてベトナムやインドネシアを中心にASEAN地域で市場の形成を想定している。
 低温物流-02_事業領域とエリア

アジアの冷凍食品は潜在需要大

世界の1人当たりの冷凍食品消費量の比較をみると、アジア圏の国々は、欧米諸国に比べて少量にとどまっている。日本は両者のちょうど中間に位置している。欧米とアジアとの落差には、調理法の違いに加えて、外食の頻度や慣習の違いも含めた食文化の違いが大きいと想定される。また、欧米諸国間においては、食品流通に係る事業環境も影響しているとみられる。今後は、アジア諸国の所得の向上に伴い消費の拡大が予想される。
 低温物流-04_消費量

アジア地域では、2015年にASEAN 経済共同体(AEC)の発足により巨大な経済圏が誕生し、ボリューム層である中間層の継続的な増加も見込まれる。このため、今後の農産物や加工食品市場についても引き続き拡大が予測されている。さらに、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の増加による流通市場のインフラ整備と低温物流網の拡大に伴い、チルド食品や冷凍食品の需要拡大も見込まれる。

政府の施策も追い風に高まる成長期待

このような背景の中、低温物流専業企業の海外進出が遅れており、海外物流、特に海外の「内需向け」の食品物流などへの参入が課題となっている。同分野では、伊藤忠ロジスティクス、日新、山九といったフォワーディング主体の企業が中国などで先行しており、アジアのみならず欧米の食品メーカー、チェーンストアから高い評価を受けている。日本の低温物流事業は、効率性とサービス品質においても先進的なポジションにあるだけに今後の動向が注目される。

伊藤忠ロジスティクスはコールドチェーンをアジアに展開しており、冷凍倉庫大手の横浜冷凍はタイで先端設備による拠点を構築、鴻池運輸はアジア(中国・インド、メコン・ベンガル地域)と北米の両地域で展開するなど、国内で実績ノウハウもつ企業の海外事例が増加している。

そのような環境のなか、中国では、第12次五ヵ年計画をうけて国家発展改革委員会が主導する「農産物コールドチェーン・ロジスティクス発展計画」に基づき、高速道路に加え、低温倉庫や低温流通センターの整備が進められている。

このほか、官民ファンドのクールジャパン機構においては、ベトナムにおけるコールドチェーン整備のための物流事業(日本ロジテム、川崎汽船参画)へ出資を決定した。日本の流通・コンビニ業界が展開するベト ナム・ホーチミン郊外で、延床約 9,300 ㎡の温帯(冷凍・冷蔵・定温)倉庫を建設し、日本の食材輸出を加速するサプライチェーンを整備、2016年8月には稼働の予定である。

また、インドもこれからの市場として注目されている。同国に低温物流市場は1,500億ルピー(日本円で約2,300億円)と推計されており、年平均成長率は20%と急成長している。潜在需要が大きいだけに今後の成長期待が高まっている。
 低温物流-03_進出状況

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