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消去法で女性初の大統領誕生なるか

サンダース支持者に聞きました。「投票するのはどっち?」

2016/6/12

燃え尽きないバーニー・サンダース

日本でも米大統領選についてTVや新聞で報道されていると思いますが、アメリカでは、バラエティーやトーク番組でも候補者に関するジョークが飛び出し、毎日話題が尽きません。

候補者のグッズ販売や、街中での企業広告やグラフィティにもなっているほど。まさに4年に1度のオリンピックのような盛り上がりです。

ブルックリン・ダンボにある本屋で見つけたトランプ氏の塗り絵とクリントン氏の紙着せ替え人形

ブルックリン・ダンボにある本屋で見つけたトランプ氏の塗り絵とクリントン氏の紙着せ替え人形

初めて米国で大統領選を迎える私は、この“お祭り騒ぎ”に驚き、さらに“あの候補者”が本選に残っている事実に驚愕(きょうがく)しています。

そう、“暴言王”かつ不動産王のドナルド・トランプ氏は、早々に共和党代表の指名を確実としています。

そして、ここNY州予備選でもトランプ氏は支持率60.4%で圧勝。NY州は共和党の代議員数が民主党の約3分の1と少ないので、それでも約7万人の支持を得て堂々のトップでした。

同じ本屋の入り口に平積みされていたトランプ現象を分析した本。その名も「嫌なヤツ(Assholes)‐ドナルド・トランプの理論」

同じ本屋の入り口に平積みされていたトランプ現象を分析した本。その名も「嫌なヤツ(Assholes)‐ドナルド・トランプの理論」

一方、民主党では、予備選最後の山場であるカリフォルニア州、ニュージャージー州のほか4州で予備選、党員集会が6月7日に終了。ヒラリー・クリントン前国務長官が代議員数4765人のうち指名に必要な過半数を獲得し、バーニー・サンダース上院議員を破って当選確実と報道されています。

クリントン氏は初の女性大統領誕生を目指し、トランプ氏との本選に向けて態勢を整えているはずですが、サンダース氏が撤退表明をしないという異例事態で、いまだ“バーニーの情熱を感じろ!(Feel The Bern!)”が冷めません。

こうした民主党内が一つにまとまらない中、対するトランプ氏がサンダース氏の支持者を取り込もうと躍起になっています。そして信じられないことに、サンダース支持者がトランプ氏を支持する調査結果も出てきています。

CNNがウェストバージニア州で実施した出口調査では、サンダース氏に投票した62%がトランプ氏を支持すると答え、ウォール・ストリート・ジャーナルとNBCニュースが5月に実施した世論調査によると、サンダース氏支持者の17%が本選でトランプ氏に投票すると回答したそうです。

クリントン対トランプの勝敗を左右する鍵は、サンダース氏が持っているといえるのではないでしょうか。

さて、そのサンダースといえば、NYブルックリン生まれのポーランド系ユダヤ人です。

そこで、彼の支持者の多いブルックリンの街で「本当にサンダース氏の支持者は、クリントン氏に投票せずトランプ氏に投票するのか?」について探ってみました。

ヒラリーは嫌われている?

4月に行われたNY州予備選では、クリントン氏139議席対サンダース氏108議席とクリントン氏の勝利でしたが、有権者登録の不備や選挙ルールの複雑さが、サンダース氏の躍進を妨げたとも言われています。

また、クリントン氏が不正に投票を操作したのでは?など臆測が生まれ、「ヒラリーはNY市(の票)を盗んだ!(HILLARY STOLE NYC)」という落書きがNY市内に広がりました。

ブルックリン・イーストリバー沿いの倉庫の壁に書かれたクリントン氏をバッシングする落書き

ブルックリン・イーストリバー沿いの倉庫の壁に書かれたクリントン氏をバッシングする落書き

両氏の支持率をNY市の地区ごとに見てみると(NYタイムズ紙調べ)、クリントン氏を最も支持しているのが、マンハッタンのアッパーイーストサイド(80%)に対して、サンダース氏はブルックリンのグリーンポイント(64%)と、両氏をイメージさせる“富裕層VS庶民派”の構図が伺えます。

若者に人気のサンダース氏は、ブルックリンブーム中心地・ウィリアムズバーグやグラフィティの街・ブッシュウィックなどでも、優勢またはクリントン氏と同等の支持率でした。

ブルックリンやマンハッタンのダウンタウンを歩いていると、こんなポスターを発見しました。

『ドナルド・トランプはルームズーム(RoomZoom)が大嫌いだろう。
ヒラリー・クリントンはルームズームを理解できないだろう。
バーニー・サンダースはルームズームを以前使ったことがあるだろう。』

ブルックリン・ウィリアムズバーグの街角にあるルームズームの広告

ブルックリン・ウィリアムズバーグの街角にあるルームズームの広告

ルームズーム(RoomZoom)について調べてみたところ、NYでルームシェアをする際に、自分に最適なルームメイトやアパートを紹介してくれる会社でした。どのような意図でこのユーモラスなポスターを出したのか、同社にメールで問い合わせたところ、創業者で社長のアイリーン・ベックさん(30歳)からお返事をいただきました。

「私の会社は、NYの若者のためにルームメイトを紹介する新しいプラットフォームを提供しています。大統領候補者であれば、この若者のリアルな生活に注目して欲しいと思い、各候補がこの仕組みをどう捉えるか想像し、このゲリラ・マーケティングキャンペーンを展開しました」

さらに、アイリーンさんが考えるNYの若者の各候補者に対するイメージについて聞いてみました。

「ルームズームの会員は、ヒップで若いニューヨーカーです。そしてポピュリストで常識人であるバーニーを支持しているので、『バーニーもルームズームを使用していたでしょう』とコメントし、彼らを惹きつけようとしました」

やはり、サンダース氏はNYの若者に人気があるようですね。

気になるトランプ氏とクリントン氏に対しては、皮肉な意味合いが込められています。

「トランプは、女性、移民、真実、誠実、法の支配、メディア、言論の自由などのすべてを嫌っています。だから『ルームズームが嫌い』というのも、ルームズームは良いものなのに彼は、それでさえ彼は嫌うと言うというジョークなんです(笑)

ヒラリーに関しては、2種類のポスターがあり、1つは『ヒラリー・クリントンはルームズームを理解していない』というもの。ルームズームの会員にはヒラリーを支持する人もいるけど、彼女は若者にとって大切なことを理解していないところがあると思うので、皮肉を込めて表現してみました。

もう1つは、『ヒラリー・クリントンがルームズームについて、彼女のスタッフにメールします』というポスターです。これは彼女を悩ませている電子メールのスキャンダルをほのめかしているの。あと彼女は最近、NYに引っ越してきた低賃金の若者を雇用したというから、もしかして本当にこのサイトを紹介してたらすてきだなと想像しました」

トランプ氏の差別的な暴言に対するアンチテーゼや、クリントン氏の公務に私用メールを使った電子メール問題などを風刺したこのマーケティングキャンペーンは、サンダース氏支持者の若者に共感をもって受け止められ、ポスターを写真に撮りSNS上で投稿し合うなど、話題になっているそうです。

マンハッタンとブルックリンをつなぐ地下鉄L列車の側に貼られたポスター

マンハッタンとブルックリンをつなぐ地下鉄L列車の側に貼られたポスター

「トランプよりヒラリーの方がマシ」

さて、NYの若者に人気のサンダース氏ですが、前述した通り民主党大統領候補への選出は、かなり厳しい状態です。では、サンダース氏支持者は、誰に投票するのでしょうか?

カリフォルニア州予備選の1週間前、ブルックリン・ウィリアムズバーグとグリーンポイントで20人の男女に「誰が大統領になると思いますか?」について聞いてみました。

結果は、クリントン氏が12名で首位、続いてサンダース氏4名、トランプ1名、その他3名となりました。

しかし、「誰が大統領になって欲しいか?」という質問では、先ほどの質問でクリントン氏と回答した8名が、実はサンダース氏支持者で、結果サンダース氏が12名、クリントン氏4名と逆転に。

ここには、「トランプには絶対に大統領になって欲しくないから、ヒラリーに勝ってほしい」という本音があるようです。

セリーナさん(20代・大学生)は最初に「サンダース氏に大統領になって欲しい」と答えてくれましたが、彼に当選の望みがなくなったらどうする?と聞くと「クリントン氏に投票する」と即答。

「だって誰もトランプにはなって欲しいなんて思わない。でも正直に言うとヒラリーは過去最悪の民主党代表だと思う。それでも、トランプに勝つためには仕方ないの。もしトランプが当選したら、アメリカはカオスになって、テロの脅威も高まりめちゃくちゃになってしまう」

「トランプが大統領になっても、移住もできないし…」と困った口調で話すセリーナさん

「トランプが大統領になっても、移住もできないし…」と困った口調で話すセリーナさん

ケイシーさん(40代・音楽関係者)も同じくサンダース氏を支持していましたが、もう代表になる望みはないので、クリントン氏に投票するしかないといいます。

「トランプはトラブル、問題だ。もしサンダース支持者が投票に行かなかったらトランプが勝ってしまう。トランプよりはヒラリーだよ」

では、トランプ氏が大統領になったら? と聞くと、笑いながら「カナダに移住するしかないよね」

ブルックリンらしいレトロなギターショップの前で話すケイシーさん。「バーニーがカリフォルニア州で勝っても、代表になるのは残念だけど難しいよ」

ブルックリンらしいレトロなギターショップの前で話すケイシーさん。「バーニーがカリフォルニア州で勝っても、代表になるのは残念だけど難しいよ」

クリントン氏を支持すると答えたキャサリンさん(30代)とジェイミーさん(30代)夫妻は、「彼女は政治的な経験も豊富だし、良い政策も打ち出しているから支持しています。また米国初の女性大統領というのが素晴らしいわ」とキャサリンさん。ジェイミーさんは少し消極的に「他に支持できる候補者がいないからね」といいます。

「もしトランプが大統領になったら?・・・・分からない、ただ怖い」と答えたキャサリンさんとジェイミーさん

「もしトランプが大統領になったら?・・・・分からない、ただ怖い」と答えたキャサリンさんとジェイミーさん

バーニー熱は続かないのか?

今回話を聞いた12人のサンダース氏支持者のうち8名が、対トランプ氏のために、クリントン氏に投票すると言いますが、残り4名はどうするのでしょうか?

その内1人、グリーンポイントに住むリサさん(40代)は、近隣に住むご家族らと共にサンダース氏を熱心に支持しています。

「トランプの言っていることは何一つ本当ではないし、彼が大統領になったら、昔のドイツのように人種差別的な冷徹国家になってしまうのではないかと感じて怖い。バーニーが無所属候補になったら、多くの支持者や無党派層が彼を支持すると思う。今だって、バーニーの多くのサポーターは民主党だけではないのよ。それにバーニー対トランプなら、ヒラリー対トランプよりも、トランプを負かす可能性が高い」と語ってくれました。

「ヒラリーは信用できない」といい、投票に関してはわからないといいます。

ちなみに、米政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の集計によると、リサさんのいう通り、「サンダース氏対トランプ氏」の支持率は、49.7対39.3でサンダース氏が10ポイントの差をつけて優勢。「ヒラリー氏対トランプ氏」の場合だと、44対42で小差です。

ブルックリンで行われたサンダース氏の集会に、ママ友らと参加したというリサさん

ブルックリンで行われたサンダース氏の集会に、ママ友らと参加したというリサさん

また、「サンダース氏を支持する人が、クリントン氏憎しでトランプ氏に寝返ることはない?」という私の質問に対しては、「バーニーサポーターはインテリが多いんだよ。そんなバカなことはしない」という意見が多数でした。少なくとも、今回インタビューに答えてくれたサンダース氏支持者票が、トランプ氏に流れることはないようです。

最後に、1人「あんまり言いたくないけど、トランプ氏だよ」と答えてくれたのが、50代くらいのボブさん。

「個人的にはね、トランプの主張もノンセンスなキャラクターも好きだよ。彼はビジネスマンで成功している人だから、アメリカという世界で一番大きな国のかじ取りをうまくやってくれるはずじゃないかな。ここ8年間、アメリカは何も変わっていない。大統領も経済も何もかも。何もかも変えてほしいよ」といいます。

少し体格のよい白人男性のボブさんは手短にそう答えると、ご家族のもとへ走り去ってしまい、残念ながら写真を撮ることができませんでした。

トランプ氏の発言は、極端でパフォーマンス的な部分も多いので、すべてを信じている支持者の方は少ないと思います。でも、トランプ氏の発言は、アメリカ人が心の隅に持っている感情を代弁しているとも言われています。

サンダース氏は6月14日のワシントンD.C、そして7月の民主党全国大会まで戦い続けると宣言していますが、一方で彼の選挙スタッフの多くが解雇されたという報道もあり、やはり「クリントン氏対トランプ氏」となるのでしょう。

両氏とも好感度が非常に低いようですが、「トランプよりはヒラリー」でヒラリーは米国初の女性大統領になるのでしょうか、今後も大統領選に注目していきたいと思います。