(Bloomberg) -- 三菱UFJフィナンシャル・グループなど民間銀行の日本国債保有残高が7年ぶりに100兆円の大台を下回った。物価上昇や景気拡大を狙う日本銀行のマイナス金利政策を受け、国債利回りが低下したためだ。しかし、減少分は必ずしも経済活性化に生かされていないようだ。

日銀統計によると、都市銀行や地方銀行を含めた民間銀行の4月末の国債保有残高は前月比5兆4820億円、率にして5.5%減の94兆6750億円となった。100兆円割れは2009年3月(100兆979億円)以来。月間の減少率は13年6月(5.5%減)以来で残高は08年12月以来の低水準となった。

国債市場では新発10年債にまでマイナス金利が及ぶなど金利低下が進む中、銀行は運用効率の低下を避けるため国債保有の圧縮に動いている。しかし、国債市場からあぶり出されたその資金は、主に政府が期待する融資ではなく金融政策を決める当の日銀預金に向かっているようだ。

金利ゼロでも日銀に預金

ドイツ証券の山田能伸シニアアナリストは、国債残高の減少は「満期償還分をマイナス金利の中でロールオーバーしていない」ことが要因ではないかと述べた。国債への再投資に回らなかった資金は「基本的に金利0%の日銀当座預金に置いているようだ」と分析。保有残高の減少傾向は今後も続くとみている。

大手行などが日銀に預けている当座預金残高は4月末で約276兆円。0.1%の金利が付く部分、ゼロ金利の部分、マイナス0.1%の金利が科される部分の3層構造になっている。このうち金利ゼロ部分はこの1カ月間で68%増えて45兆円に膨らんだ。ただ、個別行の資金量などによりそれぞれ上限が定められている。

日銀は当初、マネタリーベースの拡大に伴って3層の当座預金は増していく仕組みと説明。想定ではマイナス金利適用は10兆-30兆円の範囲になり、金利ゼロの部分は金融市場の状況に応じて3カ月ごとに見直すとしていた。

ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは、日銀が金融緩和のため高い値段で国債を買っている間は、銀行は無理にほかで運用しなくてもいい状況にあると指摘。当座預金の資金から市場で国債を買い、すぐに日銀に売却し利益を出してまた当座預金に積むという繰り返しが起きているとみている。

全国銀行協会の統計によると、全国銀行の4月末の貸出金は464兆9111億円とマイナス金利導入前の1月末から0.3%減少した。日銀によれば、こうした一方で、預金から貸出金を差し引いた金額でカネ余りを示す預貸ギャップは過去最高に拡大している。

今後も減少続く

民間銀行の国債残高は12年3月に171兆円と過去最高を記録した。銀行は国内景気の低迷に伴う融資業務の伸び悩みを補うため国債投資を拡大してきたが、日銀の黒田東彦総裁が13年4月に異次元の金融緩和に動き出して以降はほぼ一貫して減少してきた。

3月から4月にかけての国債残高の業態別減少率は都市銀行が前月比8.8%減、地方銀行が1.9%減、第二地銀2.9%減。SMBC日興証券の佐藤雅彦アナリストは、保有国債の平均残存期間が都市銀より長いため地銀での償還はこれから加速すると分析。その結果、銀行の国債保有の減少が進むと見通している。

ドイツ証の山田氏は、銀行の手元にある資金が増えても経営者の心理などからマイナス金利政策は、貸出金の大幅な増加にはつながり難いとみている。「企業はマイナス金利を入れるほど景気が悪いのかと思ってしまい、景気を良くするどころか、どんどん企業経営者の気持ちをシュリンクさせている」と述べた。

(第7段落に専門家の見方を追加しました.)

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