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アメリカ、フランス、イギリスにも建設予定

アディダス「ロボット工場」で本国生産が復活

2016/06/02

ドイツのスポーツ用品メーカー、アディダスが20年以上ぶりにドイツにスポーツシューズの製造を取り戻すというニュースが話題を呼んでいる。国内で製造ができるようになるのはロボットのおかげだ。

同社は「スピードファクトリー」と名づけた4600平方メートルの工場を南ドイツに建設している。まずはテスト生産を行い、来年から大量生産に入る予定だという。

テスト生産では500足の靴を製造する。同社が毎年30億足以上の靴を生産しているのに比べると、ほんの一部にすぎない。フル稼働になるとどの程度の製造が見込まれるのかは不明だ。

ドイツの次はアメリカ、フランス、イギリスにも同様の工場を建設する計画だという。

スピードファクトリーではどのようなロボットが働くのか。

同社が発表した写真資料を見る限りでは、シューズを先につけたロボットアームが動いているという感じだ。おそらくこれはイメージカットにすぎないだろう。実際には、四角いロボットセルが並んだ地味なものになるのではないかと想像される。

だが、自動化技術の中身自体はかなり進んだものになる可能性も高い。

製造拠点と市場との距離を縮める

スピードファクトリー建設の裏には、いくつもの事情があったようだ。ひとつは、中国を含むアジアでの製造コストが高くなったこと。もうひとつは、製造拠点が遠いと市場でのトレンドにリアルタイムで応えられないことだ。

この事情はどこのメーカーにとっても頭痛の種らしい。

先だって、ある世界有数の製造請負会社のロボット担当者に話を聞いたところ、現在はロボット技術のおかげで対象とする市場内あるいは市場にかなり近いところに製造拠点を設置することが現実的になってきたという。

アメリカ市場向けの製品ならば、アメリカ国内あるいはメキシコにかなり大量生産の工場を作っても元が取れるということだ。ことにファッションなど流行の移り変わりの早い業界の関係者は、こうした製造拠点の移転にみな注目していると言っていた。

アディダスの競合であるナイキも少し前にロボット製造を発表しており、スポーツ用品から大きな製造トレンドの変化が現れそうだ。

そもそもスポーツシューズは、個々人に合わせたカスタム製造や3Dプリンティングによる製造が可能になっている面白い分野だ。ロボット利用だけでなく、興味深い製造方法が開発されることになるだろう。

先進国と中国のロボット競争時代へ

こうした流れが進むと中国に拠点を置く製造請負会社には大きな打撃になるのだが、そうした会社もただ傍観しているわけではない。

たとえば、iPhoneの製造を請け負っていることで有名なフォックスコンはすでに「自社製ロボットによって6万人の職を置き換えた」という報道が話題になっている。それもたった一工場での話だ。

同社の郭台銘(テリー・ゴウ)会長が、いずれ100万台のロボットを製造して100万人の作業員の代わりをさせると宣言していたこともあり、そのロードマップの上を着々と歩んでいるということになる。

そうなれば、コストのうえでは中国での製造はまだ安いという状態になる。ファッション性の高い商品でない限り、輸送時間の長ささえ我慢すれば、製造拠点として中国の存在は依然として続く。つまり、これからは先進国のロボットと中国のロボットとの競争が始まるのだ。

アメリカではマクドナルドの前CEOがつい最近、最低賃金が時給15ドルに上がれば店員をロボットで置き換える動きが加速化すると発言している。フォックスコンの会長もこの前CEOも、ロボットによって置換される人間についてまったく言及しないのが特徴だ。

アディダスの場合は、完全な自動化を行う計画はなく、また新しいスピードファクトリーによって160人の新しい職が生まれると言っている。

ただ、実際のところロボットによって人間が職を奪われるのは、人数の多寡はあるものの免れないところだ。少なくとも、それに言及するかどうか、そこに考えを及ぼしているかどうかに何らかの違いが生まれると期待したい。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。

(文:瀧口範子)