_16T4367copy
フィールドマネージメントの代表である並木裕太が、“コンサル界の風雲児”と呼ばれるのには理由がある。まず本業では、既存のコンサルとは違う、常に経営者のすぐそばにいて支えられるパートナー的存在として、戦略を描くだけでなく実行まで担保する“STEP ZERO(ステップゼロ)”を標榜することで、日本航空やソニー、楽天ほか、数々の大手企業のコンサル業務を行い高い評価を得てきた。加えて、コーポレートベンチャーキャピタルや日本における先駆けとなるサーチファンドの立ち上げ、社内外へのシード投資、さらには湘南ベルマーレへの自己資本投資&経営参画など、コンサルの枠にはまらない新規事業を次々と展開してきたからだ。並木いわく、すべて「世の中をこうしたいから自分がやりたい」という純粋な思いから自然とわき上がってきたものがビジネスへと結実してきたのだという。そしていま、究極の「やりたい」ことへの思いが、新たなビジネスへと飛躍しつつあるようだ。並木が、まさに現在進行形の“いま”を語る。

自分の着たい服をつくって事業再生!

ことの発端は半年ほど前です。ぼくはロサンゼルス近郊で少年時代を過ごしたことから、西海岸のサーフカルチャーに強い影響を受けてきたのですが、そのアイコン的存在だったのがサーフブランド、ステューシーの創始者、ショーン・ステューシーでした。

そんな背景もあって、彼が現在手がけているブランド、S/Doubleのコンセプトとスタイルがとても気に入っていて、祐天寺にあるショップによく通っていました。あるとき、ショーンと同ブランドの日本総代理店であるインターミックスの木村亘社長と会って話すことになりました。そこで衝撃的な事実を聞かされたのです。

木村社長から、「実はS/Doubleのビジネスは岐路に立っていて、これからショーンとの契約を延長するのかどうかの厳しい判断が必要です。並木さん、コンサルタントという枠を超えて、S/Doubleの理解者として、投資家として、そして一経営者として、力を貸してもらえませんか?」と。

大好きなブランドの未来がはっきり見えないことは辛いことだし、自分には投資家として日本航空は救えないけど、S/Doubleであればいままでの経験を生かすことで貢献できるかもしれない。そう思い、契約問題も含めてサポートすることになりました。

しかし、交渉は順調ではありませんでした。結果、万策尽きてショーンと日本サイドは決裂、この春夏シーズンを最後にS/Doubleの日本での展開が一旦終了することになってしまったのです。ブランドを救えなかったことに、ぼくは大きく落胆しましたが、一方で新たな事業再生の可能性を模索し始めていました。

実はこのビジネスは、日本の企画チームと生産体制があったからこそ成立していました。つまり、ショーンはいなくなってしまうけれども、ものづくりの基盤はちゃんと残っていたんです。S/Doubleがなくなることは、自分が着たい服がなくなることを意味します。だったら、ここで自分の着たい服をつくってみればいいじゃないか。フィールドマネージメントというブランドで、S/Doubleに代わる新しいビジネスを始めようと。

コンサルティング会社の名前をそのままブランド名にしたアメカジブランドを、ファッションの素人が手がけること。荒唐無稽な話だと思われるかもしれませんが、ぼくは本気でした。

企画チームと話し合いを重ねながら、ショーンのスピリッツ&スタイルは継承しつつも、各アイテムに自分好みのシルエットやディテールを落とし込んでいきました。そしてシャツ、Tシャツ、デニム、チノパン、スーツという自分が着たい服を厳選してつくったのです。さて、ものは出来上がった、ではどうやって売るのか? そこが問題です。

フィールドマネージメント 代表取締役 並木裕太 1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。ペンシルヴェニア大学ウォートン校でMBAを取得。2000年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社後、最年少で役員に就任。09年にフィールドマネージメントを設立。日本航空をはじめ、ソニー、楽天といった日本を代表する企業のステップゼロ(経営戦略コンサルティング)を務める。15年母校ウォートン校が発行する雑誌『WHARTON MAGAZINE』の企画「40 under 40(ウォートン校卒業生の40歳以下の40人)」に、日本人で唯一選出された。16年Jリーグ理事に就任。著書に『ミッションからはじめよう!』『ぼくらの新・国富論 – スタートアップ・アカデミー』『コンサル一〇〇年史』〈すべてディスカヴァー・トゥエンティワン〉などがある。今秋から自社ブランドの洋服を展開することになる、東京・祐天寺にあるS/Doubleのショップにて。着用しているシャツは、フィールドマネージメントのファーストコレクションの一枚。

フィールドマネージメント 代表取締役 並木裕太
1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。ペンシルヴェニア大学ウォートン校でMBAを取得。2000年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社後、最年少で役員に就任。09年にフィールドマネージメントを設立。日本航空をはじめ、ソニー、楽天といった日本を代表する企業のステップゼロ(経営戦略コンサルティング)を務める。15年母校ウォートン校が発行する雑誌『WHARTON MAGAZINE』の企画「40 under 40(ウォートン校卒業生の40歳以下の40人)」に、日本人で唯一選出された。16年Jリーグ理事に就任。著書に『ミッションからはじめよう!』『ぼくらの新・国富論 – スタートアップ・アカデミー』『コンサル一〇〇年史』〈すべてディスカヴァー・トゥエンティワン〉などがある。今秋から自社ブランドの洋服を展開することになる、東京・祐天寺にあるS/Doubleのショップにて。着用しているシャツは、フィールドマネージメントのファーストコレクションの一枚。

“バリバリのビジネスパーソンが真剣に服をつくる”という物語性

この問題を解決してくれたのは、コンサルで得た人脈でした。弊社がステップゼロとして、業界初のタクシー配車アプリの開発などをサポートさせていただいた日本交通の川鍋一朗会長が、知人であるセレクトショップ、ロンハーマンの三根弘毅代表を紹介してくれたんです。

同ショップにはS/Doubleとの取引もあったので、三根さんはぼくの話をちゃんと聞いてくれました。そして結果的に、フィールドマネージメントのファーストコレクションを全アイテム買い付けてくれたのです。

これにはぼくも驚きましたが、担当バイヤーには「モードブランドにも、古着にもない、“バリバリのビジネスマンが真剣に服をつくる”という前代未聞の物語がある。だから面白い」と言われました。今秋、ロンハーマンの店内にフィールドマネージメントのアイテムが並ぶことを考えると、本当にワクワクします。

しかし、話はこれだけでは終わりません。せっかく立ち上げたブランドなので、どんどん事業として成長させたいと思うのは、ビジネスマンであれば当然のことです。そこでぼくは次なる展開を考え始めました。そして、最も自分らしいファッション表現として、ベースボールアパレルへの発展を思いついたのです。

西海岸での少年時代、ぼくはプロ野球選手になることを夢見ていました。その夢が断たれたあとも、マッキンゼー時代にはコンサルタントとして東北楽天イーグルスでのチケット販促を皮切りに、日本プロ野球界を改革するためのさまざまな事業に携わってきました。

その後もオーナー会議への参加や、パシフィックリーグのリーグビジネスやチームビジネスのサポートに加え、『日本プロ野球改造論』という書籍も上梓しました。日本一になったこともある社会人野球クラブチーム、東京バンバータの球団社長兼GMでもあります。野球への思いは、いまでも力強くもっています。

東京ダックス。ぼくが考えた、来季以降展開予定のベースボールアパレルシリーズの名前です。もちろん架空のチームですが、なぜダックか? それは私の地元が巣鴨だからなんです(笑)。

本拠地はダックス・ネスト(鴨の巣)。20世紀初頭、ダックスは当時のメジャーリーグチャンピオン、ボストン・レッドソックスと真の意味でのワールドシリーズを戦い、12-0で一蹴。以後、メジャーリーグは北米に引きこもり、海外チームとは一切本気の勝負をしなくなった……という架空のストーリーを設定しました。

なので、スタイルは古き良きノスタルジックなベースボールアパレルです。レトロなロゴや素材使いのベースボールシャツやスタジャン、スウェットなどを展開する予定です。ぼくの野球とアメカジへの愛情が、詰まりに詰まったコレクションになりそうです。

この構想は、ロンハーマンの三根さんも面白がってくれていて、ぼくが住んでいた西海岸の地名をつけたレドンドビーチ・ペリカンズ(仮)という別注シリーズで、同店での展開も構想中です。

“フィールドマネージメント”ブランドのシャツ。織りネームには、コーポレートカラーのグリーンベースにコーポレートロゴがあしらわれている。

“フィールドマネージメント”ブランドのシャツ。織りネームには、コーポレートカラーのグリーンベースにコーポレートロゴがあしらわれている。

プロ野球チームのMD戦略パートナーに

話はさらに膨らみます。今度は、ぼくがコンサル業務を経て結果的にフィールドマネージメントの自己資本を投資して取締役も務めたJリーグ、湘南ベルマーレ(※現在はJリーグの理事に就任したため、取締役は退任している)の前社長、大倉智さんからスポーツブランド、アンダーアーマーの日本総代理店、ドームの安田秀一社長を紹介されたのです。

同社はメジャーリーグ各球団のベースボールアパレル&グッズをつくる権利をもっており、この流れに乗っていけば、将来一緒に何かできそうな予感がしています。しかも安田社長からは、多くのプロスポーツチームの経営者を紹介していただき、プロ野球チームの事業担当の方々に東京ダックスの話を聞いてもらう機会にも恵まれました。

また、東京バンバータのメンバーが日本の代理店をしている、47brandというボストンの老舗スポーツアパレルブランドとも協業の可能性を模索し始めています。さらに、このようなパートナー企業との協力の可能性を評価していただき、ファーストコレクションの発表前にもかかわらず、日本を代表する某プロ野球チームのMD戦略のパートナーにも選んでいただきました。

ショーンと木村社長と初めて会って話した半年前から、いろんなことが連鎖して、あっという間にこれだけの多彩なプロジェクトが動き始めました。好きなファッションブランドを救いたいという思い、自分の着たい服をつくりたいという思い、そして野球への強い愛情。

すべて「自分のやりたい」ことを突き詰めていくことで、小さなきっかけが、大きなビジネスを生んでいきます。

ここまでの話では、フィールドマネージメントが何の会社かわからなくなりそうですが(笑)、もちろん基本はコンサルティング会社です。ぼくはこの半年、S/Doubleの理解者として、投資家として、そして一経営者として、新規ビジネスのスタート(フィールドマネージメントという新アパレルブランド)、新しいアライアンス企業の開拓(アンダーアーマーや47 brand、プロ野球チーム)、そして販路の開拓(ロンハーマンやスポーツグッズストア等)を行い、道楽というか好きなことに邁進することで、結果的に事業再生というビジネスそのものをドライブしてきました。

同じように、フィールドマネージメントでは、自分のスキルを最大限発揮することで好きな分野のコンサルができて、場合によってはその会社を運営して大きくすることができるかもしれないし、そこから新たな事業が展開していくかもしれない。この会社には、そんな可能性が無限に広がっています。

社員みんなが情熱をもって一流のステップゼロとなり、自分の好きなことを追いかけ続けていくことで新たなビジネスを生んでいける会社、それがフィールドマネージメントなのです。

東京ダックスで展開する予定のアパレルのイメージ。クラシックなスタイルが新鮮だ。

東京ダックスで展開する予定のアパレルのイメージ。クラシックなスタイルが新鮮だ。

text by Dai Takeuchi @ profile photographs by Taku Kasuya
(文:竹内 大(profile) 撮影:柏谷 匠)