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「世界の製造工場」の人手不足で高まる需要

中国美的が独クカ買収で狙う「工場のロボット化」

2016/05/26

ロボット業界にまたショッキングな話題がひとつ持ち上がった。中国の家電メーカーが産業ロボット開発会社の雄、ドイツのクカに50億ドルの買収を仕掛けているというのだ。

クカは、ロボット業界では知らない人がいないほどの有名なメーカーだ。大きなオレンジ色のアームが特徴の産業ロボットを数々開発し、産業ロボットでは日本の安川、ファナック、スイスのABBと並んで「世界4強ロボット会社」として知られている。

そのクカが中国の会社になるのか。

クカを買収しようとしているのは、中国の白物家電メーカーの美的集団(ミデア・グループ)で、今年東芝が家電部門の売却を決めた先でもある。

同社は日本で高級炊飯器を発表するなど、華々しく拡大中のメーカーだ。炊飯器や食洗機、冷蔵庫、洗濯機、空調、掃除機などを幅広く開発、製造している。製品群を見てもスマートなデザインで、欧米メーカーに引けを取らない。

美的集団によるクカ買収の目的は、製造の自動化と事業の多様化だ。

製造業に従事する作業員の減少が見込まれる中国で勝ち続けるためには、人間に代わるロボットが必要となる。また、中国市場へロボットを供給することは、今後伸びしろの大きなビジネスにもなる。

ロボットや自動化に熱を上げる中国

シャープを買収した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は、フォックスコンとして数々のIT企業の請負製造を行っていることで知られる。同社もまた、工場のロボット化に必死だ。

同社の郭台銘(テリー・ゴウ)会長は、いずれ100万台のロボットを作って作業員を置き換えると豪語したこともある。

世界の製造工場である中国は今、どこの国よりもロボットや自動化に熱を上げている。ロボット市場としての中国はもっとも成長が速く、2014年には世界で売られるロボットの27%が中国向けだった。2015年には、産業ロボットの中国における売り上げが前年度比で16%伸びている。

それにしても、クカといえばドイツの精密さへのこだわりとハードウェア技術のたまものともいうべきロボットを作る企業である。ドイツの自動車メーカーはどこもクカのロボットの恩恵を受けているだろうし、アメリカでは軍事産業のノースロップ・グラマンも顧客の1社だ。

クカはまた、世界の大学のロボット研究室とも関係が深く、小型の移動式ロボットを提供して開発を促したり、コンペティションを開催してきたりした。

つまり、ハードウェア、ソフトウェア、研究開発、そして顧客などの面から見て、クカには単なる製造用ロボットメーカーと簡単に言えないほどの歴史と知恵が詰まっている。中国企業になってしまって大丈夫なのかという懸念も頭をもたげるのだ。

シリコンバレーが目指すのは異なるタイプ

そんななか、アメリカでは「なぜ金のあるシリコンバレー企業が代わりにクカを買収しないのだ」という声も聞かれる。

確かにシリコンバレーは今、中国に負けないほどロボットに熱狂中だ。クカの資産を手に入れれば、怖いものなしのはずだ。

ただ、それもそうだと感じる一方で、シリコンバレーが目指しているのは違ったタイプのロボットであることも確かだ。製造ではなくサービス。企業としても超大型ではなく中小規模。こまわりの利く製品と組織とで、手の届くところからロボット革命を起こそうというのがシリコンバレー風なのである。

中国は製造国家として、さらに次の段階へ進化しつつある。そんなことがクカの買収話から感じられるのだ。

ロボットは現在、かなり分化している。もしクカが中国企業になれば、今後ドイツからはこれまでにないロボットが登場してくるだろう。そんなことも期待できる。ロボットの時代の移り変わりがまさに今、進行中なのである。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。

(文:瀧口範子)