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インテル、サムスンらが信頼を寄せるASML

半導体製造の進歩が物理的限界という壁にぶつかり、製造コストの上昇が危惧されるなか、半導体業界のリーダーたちはASMLという名のオランダ企業に大きな信頼を寄せている。

ASMLは10年近く前から、トランジスタ製造に関する自社の新しい技術があれば、半導体の小型化と高性能化をこれまでと同じペースで進めることができると請けあってきた。

2012年にはインテル、サムスン電子、台湾積体電路製造(TSMC)の3社が、研究を加速させる目的でASMLに約16億ドルを出資し、50億ドル近くを投じて同社株式の23%を取得するという前例のない行動に出た。

ASMLは2016年、極端紫外線(EUV)露光装置と呼ばれる同社技術の試験に半導体メーカー各社が着手できるよう、7つの新装置を出荷する予定になっている。

ASMLのピーター・ウェニンク最高経営責任者(CEO)によれば、同社の顧客のほとんどは2019年までにEUVを導入する見込みであり、ASMLは2017年中に注文に向けて準備する予定だという。「業界はEUVを必要としている」とウェニンクCEOは語る。

次世代技術「EUV」への期待と現実

だがこれまでのところ、EUVの技術は当初の想定よりも効率が低いことがわかっており、出資者が期待する利益を提供できない可能性もある。

投資銀行スタイフェル・ニコラウスのアナリスト、パトリック・ホーは、スマートフォンやPC部品のコスト増につながる代替手法でさえ、いまやEUVよりも魅力的に見え始めていると指摘する。「(半導体)業界は数年前に、EUVが次世代の技術になることに賭けた。だが、期待は大きく外れている」とホーは話す。

TSMCはこの件に関するコメントを拒んでいる。サムスンもコメントの要請に対する返答を送ってきていない。

リソグラフィ(露光技術)とは、集中させた光線を用いてシリコンチップに塗布した物質の層に回路を焼き付けるプロセスのことだ。このプロセスはトランジスタの製造には欠かせないステップだが、ほぼ原子レベルで仕事をするエンジニアにとっては難所でもある。

最近では、半導体メーカー各社がこのプロセスに用いられる光の波長よりも小さい回路のエッチングを試みており、そのため、より波長の短い極端紫外線に目が向けられているというわけだ。

「EUVがなければ……経済状況は悪化する」とパシフィック・クレスト・セキュリティーズのアナリスト、ウェストン・トウィッグは言う。「EUVの準備が整わなければ、状況はかなり厳しくなるだろう」

「いつになるのか」という疑問

問題は、短い波長を持つ極端紫外線が大量のエネルギーを消費することだ。さらに、このプロセスで使われる反射鏡がEUVにより汚れるため、ASMLの装置では長時間のダウンタイムが余儀なくされる。

ASMLの公式声明によれば、同社は2016年末までにEUV装置に必要なダウンタイムを現在の25~30%から20%にまで減少させることを目指している。これは、価格が8桁に達する工場でもっとも高価な装置(研究開発への出資を別にして)を購入しようというときに聞きたい言葉ではない。

スタイフェル・ニコラウスのホーによれば、欧州の数少ない技術系大手企業の1社であるASMLはスケジュールを守れることを証明する必要があるという。といっても「最新のスケジュールを守れる」ということだが。

2007年の時点では、前CEOのエリック・モーリスがEUV装置は2012年までに半導体メーカーにとってコスト効率の良いものになると語っていた。

パシフィック・クレストのトウィッグは次のように述べている。「(EUVは)おそらく世界でもっとも先進的な科学研究プログラムだろう。それでも、プログラムの進捗は遅れている」

TSMCのマーク・リュウ共同CEOは2016年2月「代替策を用意している」と投資家に向けて語った。

同じ月、インテルのリソグラフィ戦略的ソーシングディレクターを務めるジャニス・ゴルダは同社のブログ記事のなかで、EUVをめぐる疑問は「できるかどうか」ではなく「いつになるのか」だと述べた。だが「EUVリソグラフィによる半導体製造までの道のりは長い」とも書いている。

今年を逃せば次のチャンスは2020年

半導体メーカーは、2~3年のサイクルで製造上の先進技術を導入する傾向がある。したがって、今年中にEUVの準備が整わなければ、ASMLの次のビッグチャンスは2020年近くになるだろう。

現在のところ、回路を小型化するためのもっとも明白な方法は、現行のリソグラフィ技術を用いて各チップでのリソグラフィの回数を増やすことだ。

だが、大手半導体メーカーはその方法を嫌っている。所要時間が長くなるからだ。5年で時代遅れになってしまう100億ドル規模の工場では、スピードは常にもっとも気になる要素だ。

とはいえ、EUV開発の複雑さはより大きな問題となるだろうと、セミコンダクター・アドバイザーズのロバート・マイヤー社長は指摘する。

「失敗するおそれのある要素があまりにも多い。EUVに費やした資金と時間から、利益をまったく回収できない可能性もある」とマイヤーは述べている。

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Elco Van Groningen、Ian King、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:YAO MENG PENG/iStock)

©2016 Bloomberg Businessweek

This article was produced in conjuction with IBM.