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「ウェルネスとウェアラブル」- 計ると判る

アメリカと日本。健康に対する価値観の大きな違い

2016/5/9

肥満者数の圧倒的な差

この連載のテーマは「ウェルネスとウェアラブル」です。

これから「計ると判る」の面白さをご紹介していきますが、その前にはっきりとさせておきたいことがあります。それは「健康」に対する価値観の違いです。

僕は縁があって「ウェルネスとウェアラブル」を日本へ浸透させる仕事をアメリカ人らとしています。が、これがなかなか難しいのです。

なぜかというと、「健康」に対する価値観が違うからです。たとえば「運動は健康に良い」、という理解は世界共通かもしれませんが、その価値観はアメリカと日本で大きく違います。

ここでは、代表的なものを2つご紹介します。まず1つ目は医療保険制度です。

アメリカには、日本のようにすべての国民を何らかの医療保険に加入させる制度はありません。だから自費で医療を受けないといけませんし、もしもお金が無ければ医療機関へ行かない選択肢をせざるをえません。

日本のように、医療保険で3割程度の個人負担で「気軽」に病院にかかる感覚は、アメリカにはありません。こんな背景から、高い医療費を支払う代わりに、日頃から運動をすることで健康を維持する考えになります。

2つ目は肥満者の数です。

肥満者が人口に対して31.8%もいるアメリカは、日本と比べ差し迫って運動をしているように思います。

その証拠に、運動をするためのスポーツジムへの登録者は、アメリカの人口16%に対し、日本はたったの3%でしかありません。

サンフランシスコへ出張に行った際、ホテルでテレビをつけてよく目にするのが、ダンベルを持った男女がトレーニングをしているTVCMの映像です。

それはまるで「ジムで運動するやつはクールだぜ!」と言っているかのようでした。また、アメリカで人が身につけたい習慣を調べると、2位の読書を大きく引き離し、「ジムに行く、もっと運動する」が1位です。

このようなことから、アメリカは肥満の人が多い、だから運動しよう、という単純な結びつきになるのです。

オバマ大統領の健康法

もちろん、肥満を解消するために運動するのではなく、もっとレベルの高いところで運動を意識しているアメリカ人もいます。アメリカ合衆国オバマ大統領です。

オバマ大統領は、世界の運命を左右する決断はできるだけ精神が安定しているときに下すことを意識しています。

それを後押しする活動として、週のうち6日は運動から始めることで知られており、ウェイトトレーニングと有酸素運動を交互に45分間、遊びの時間と合わせ、1週間の日程に組み込むようです(参考『最高の仕事ができる幸せな職場』〈日経BP社〉)。

そんなアメリカ合衆国オバマ大統領は、ウェアラブルデバイスで日頃の身体活動を計り記録し、自分がどれだけ運動をしているかを「ごまかさずに」自分と向き合っています(参考「The leader of the free world hasn’t ditched his Fitbit」)。

一方で日本は少し状況が違います。そもそも肥満の人はほとんどいません。肥満率はアメリカ人31.8%に対して、日本人はたったの4.5%です(参考「世界肥満率ランキング」)。

そのせいか、運動をする、ジムへ行く、という習慣が日頃の生活にほとんどありません。

僕がアメリカ人に、冗談半分で日本人の健康の定義をこう伝えたことがあります。「日本人にとっての健康はね、おいしい日本食を食べて、温泉入って、少しの酒を飲んだら、フカフカの布団で寝ること」と、伝えたらアメリカ人に強い関心を持たれました。

なぜなら、アメリカ人が思う健康定義に登場してくる「エクササイズ」「フィットネス」といった言葉が日本人が思う健康にはなかったからです。

日本は世界で最も残業時間が長く、世界で最も睡眠時間が短いので、1日の優先順位に運動を含む「健康」を習慣に取り入れる余裕がないのです。

その最たる例として、仕事中は職場の調和を保ち、表立った対立を避け、仕事が終わった後に、部下、上司、同僚と酒の席で打ち明けて本当の気持ちを伝える会は、日本語と英語を組み合わせた「飲みコミュニケーション」と呼ばれます。

仕事上での信頼を築くのに、お酒の席を利用するのは日本人だけではないですが、日本人は多くの時間を仕事に費やします。当然、これでは運動する時間は少なくなります。

日本は、このような背景から「健康」に対する価値観はアメリカと大きく違います。もちろん、アメリカだけではなく、国、特に言葉が違えば、それにひもづく価値観も違ってきます。

「健康」について伝えるにも、国によって伝え方を変えないといけません。たとえば、アメリカで生まれた「健康サービス」を、アメリカ以外で普及させるには、同じ「健康サービス」でも伝え方を変えないといけません。

次に紹介するジョークは、ある国が一般的に持っていると思われる典型的な性格を端的に表現した「エスニックジョーク」です。

特に、海外のサービスを日本向けにカスタマイズ、日本のサービスを海外へカスタマイズしたことがある人には、比較的当たっている部分があって面白いです。

エスニックジョーク「豪華客船編」

沈没しかけている豪華客船がありました。救命ボートの数が限られているので、船長が男性客に海に飛び込むようにお願いしなければいけません。そこで船長は、以下の5カ国の人に向けてそれぞれこんな声をかけました。

・イギリス人に対しては、「飛び込んでください。あなたは紳士でしょ?」

・ドイツ人に対しては、「飛び込んでください。規則ですから」

・イタリア人に対しては、「飛び込んでください。女性にもてますよ」

・アメリカ人に対しては、「飛び込んでください。ヒーローになれますよ」

・日本人に対しては、「皆さん、そうなさっていますよ」

このジョークの中に出てくる船長が、もしも「ウェルネス」を日本人に伝えなければいけないとしたら、一体どのような伝え方をするのか? 僕にはとても関心がありました。

アメリカと日本で健康に対する価値観が違うこと、なんとなく伝わりましたでしょうか?

次回から、「ウェルネスとウェアラブル」- 計ると判る「面白さ」についてご紹介していきます。

(写真:iStock.com/andresr)

*本連載は毎週月曜日に掲載します。