NPバナー.004-5

日本サッカーに足りないもの(第5回)

【最終回】日本サッカーの限界を壊せ

2016/4/30

もったいぶる必要はなかったかもしれない。コメント欄で多くの方たちがあげていたように、日本サッカーの破壊と創造を一気にできるのは、現時点では本田圭佑しか思いつかない。

なぜなら衝突をまったく恐れていないからだ。

2011年12月、Numberの取材で「コミュニケーション論」というテーマで直撃したとき、本田圭佑はこう語った。

「まず言いたいのは、一般の人にとって“衝突”に見えたとしても、自分に取っては衝突でも何でもないってこと。むしろオレにとって、衝突を避けるのは、相手にこびていることにしか思えない。本音を言ったことで、何かが起こると恐れている……というようにしか見えへんから。それを言ったところで何も起こらへんのに、むしろ相手のためになるのに、本当のことを言ってあげない。オレから見たら、そんなものは何の改善もされへんコミュニケーションでしかないよね」

──多くの人が、人間関係を優先して、衝突を避けているように見えると。

「いや、それは違う。人間関係を大事にするなら、本音を言わないとあかん。むしろオレは、本音を言わない人は、逆に人間関係を大事にしていないように思える。それって冷たいでしょ? 本音を言って相手がエキサイトするのを、メンドくさいと感じるのか、恐れているのか、なんなのかわからへんけど、無難にソツなくっていう風に見えてしょうがない。オレは衝突を好んで言っているわけではないから。たとえば『お前はこうした方がいいよ』って言っているだけ」

──感情のぶつかり合いがあったとしても、それを避ける方が冷たいと感じるわけか。

「ぶつかると言うけど、人それぞれ意見が違うっていうのは当たり前の話だから。そもそも意見が一緒なんていうことはありえへん。考え方が違うからこそ、そこで一番いい方法を話し合って決めるわけでしょ。衝突でも何でもない。『ほぅ、あなたはそういう考え方なん? でも、オレはこういう考え方なんや』って。どうするのがベストなんかなっていう話なだけやから」

──外国人とのコミュニケーションにおいて意識していることは?

「最初は相手がどこの誰だろうが、オレのペースに合わせんかったらまずは衝突する。あえて“衝突”っていう言葉を使うとね。でも、そういうぶつかり合いがあるからこそ、相手をわかってくるというか。そこから、相手が何を求めているのかが見えてくる」

サッカー界で世界一になる

2014年11月にNewsPicksで書いたように、本田圭佑は「サッカーは人生のウォーミングアップ」ととらえ、すでにビジネスパーソンとしての行動を開始している。そう聞くと、引退後はサッカー界から離れてしまうのではないか、と感じる人もいるかもしれないが、その心配の必要はない。

今年1月に再びNumberの取材でミラノで会ったとき、こう語っていた。

「自分が掲げている『サッカー界で世界一』という目標は、引退後でも成し得ることだと思っている。たとえばクラブの売上で世界一になったり。大きな意味でサッカーの分野で世界一になるのを目指し続ける。それが僕のライフワークです」

日本代表はもっと海外で試合を

将来、サッカーとどんな関わりを持っていくのか想像できないが、自らの行動や発言で日本サッカーの古い価値観を揺さぶってくれるはずである。

たとえば昨年1月にアジアカップのベスト8で敗れた翌日には、こんな提言をした。

「日本の力は間違いなく上がっている。でも今後は日本サッカーのために、できるだけ強豪ともっと戦いたいなっていうのがあるよね」

「ヨーロッパのチームとやって、日本代表チームの株をあげる機会があればなって思っている。もちろんW杯予選が始まってしまうし、スケジュール的に簡単に組めるようなマッチではないけれども」

「今は日本に帰って、アジアのチームを呼んで試合するのがスタンダードになっている。でも、ここから厳しい試合で勝てるチームになるには、できるだけアウェイでの環境に慣れないと。『ヨーロッパの強豪とやるのが当たり前』っていう新たな基準を持たないといけない。それは選手がただプレーしているだけでは実現できない。協会がオーガナイズ、指導、育成というものにもっと気を遣って、もっと強化していく必要がある」

スポンサーや興行収入を考慮するなら、日本で試合をする方がいい。だが、チームとしての強化を考えるなら国外での試合が欠かせない。あつれきを恐れずに、協会の強化担当者が決断を下すことが求められる。

Jリーグの外国人枠の撤廃

Jリーグについては、こんな疑問を投げかけていたことがあった。

「Jリーグはなぜ外国人枠を撤廃しないのか。もっと厳しい環境にした方が、日本人選手が成長する」

Jリーグの1試合における出場登録は、「外国籍選手3名、アジアサッカー連盟加盟国選手またはJリーグ提携国選手1名まで」とされている。

簡単に言えば、外国人選手3人、アジア人選手1人という感じだ。現時点で枠を余らせているチームもあるが、資金力に優れたチームが「何としてもJ1に上がりたい」と考えたとき、もし外国人枠がなかったらどうするか。きっとなりふり構わず一気に外国人選手の数を増やすはずだ。

求められる意識改革

日本サッカー界はトップからの指示を守りすぎる傾向がある。

たとえば日本サッカー協会が各地域のナショナルトレセンに対して「1対1に強い選手を選んで欲しい」と通達を出すと、指導者たちがそこに意識を取られすぎてしまうためか、同じような選手ばかりが出てくる。

協会からすれば、A代表が直面した問題を育成年代に落とし込んでいるのだろうが、結果論として現場が振り回されている部分がある。気がつけば、かつては豊富だったゲームメイカータイプが激減してしまった。

組織改革も大事だが、意識改革も大事である。そういう意味でも、言葉が強い人間に期待が集まる。

無意識に定めた限界を外せ

今年1月に本田圭佑に会ったときに、印象的だった言葉がある。

「人というのは無意識に自分の限界を決めているんですよ。でも、それって自分が決めただけで、もっと大きな可能性がある。僕はその限界を自分で取っ払うことで、ここまで来た。何度も何度もやってきたから、人に対してもそれぞれが思い込んでいるリミッターを外させるのも得意なんです。自分の最大の強みはマネジメント力にある。引退後はこの能力をフルに生かせるんじゃないかと、わくわくしていますね」

日本サッカーの限界を壊す──。

関係する一人ひとりが自らの限界を壊せば、きっとそれは不可能ではない。