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e-Sportsの熱・第2回

アマゾンが買収したゲーム配信サイト「Twitch」の日本戦略

2016/3/10

国際サッカー連盟(FIFA)が主催するサッカーワールドカップ(W杯)において、どの局が生中継するかはファンのみならず、メディア関係者にとって大きな関心事だ。日本の場合、NHKと民放各社で組織されるジャパンコンソーシアムが放映権を購入し、日本代表の初戦はNHK、第2戦以降は抽選の結果、日本テレビとテレビ朝日が生中継した。

こうやって“本家”のW杯が盛り上がる一方で、FIFAはeスポーツにも力を入れ始め、2004年からサッカーゲームの世界大会「インタラクティブワールドカップ」を開催し始めた──ということを連載第1回で取り上げた。

では、ゲーム版W杯はどこで生中継されているのか。その大役を担っているサイトは2つある。動画共有サイト「ユーチューブ」、そして世界一のゲーム専門ライブ配信サイト「Twitch(ツイッチ)」だ。

Twitchが世界的に話題になったのは、2014年8月にアマゾンが同社を9億7000万ドル(約1000億円)で買収したときのことだ。なぜアマゾンが買収したかはウォール・ストリート・ジャーナルによる次のデータを見ればわかるだろう。

アメリカにおける2013年のピーク時のインターネットトラフィック占有率のランキングは以下のようになっていた。1位ネットフリックス(32.0%)、2位グーグル(22.0%)、3位アップル(4.3%)、4位Twitch(1.8%)、5位Hulu(フールー)〈1.7%〉、6位フェイスブック(1.5%)。ゲーム専門ながら4位にランクインしたのだ。

日本でゲーム実況というとニコニコ生放送が有名だが、アメリカではTwitchが圧倒的な人気を誇っている。ユーザーは登録さえすれば、無料で自分がゲームをしている様子をインターネットで配信することができる。

また、人気がある配信者は、自分の配信によって収入を得ることができる。アメリカにはそれだけで生活しているプロも存在する。

Twitch日本支部が立ち上げられ、日本でも本格的な展開の準備が進められている。いったい彼らはどんな日本戦略を練っているのか。マーケティング・マネージャーのエリック・コータロー・インゲ氏に話を聞いた。

昨年12月、女性競技者を増やすべく、クリエイター集団「つくる女」がリーグ・オブ・レジェンズの対戦イベントを主催。その様子をTwitchがライブ配信し、エリック氏はプレゼンターを務めた

昨年12月、女性競技者を増やすべく、クリエイター集団「つくる女」がリーグ・オブ・レジェンズの対戦イベントを主催。その際にエリック氏はプレゼンターを務めた。右端は人気ゲーム配信者のOtofuさん

配信者が収入を得る多様な仕組み

──Twitchとはどんなサービスなのですか。

エリック:私たちはゲームを中心に放送する、動画配信サービスです。

配信者は一定の同時接続数をクリアしていれば「パートナー登録」をでき、自分の配信を収益化できるようになります。アメリカでは「パートナーシップ」と呼んでいます。

各放送者にとって大きな収益源となるのが広告収入と(視聴者からの)投げ銭、そしてサブスクライブボタン(配信者ごとの視聴課金システム)です。あとは各放送者はスタンプをつくれて、接続数が大きくなるにつれて販売できるスタンプの枠が増えます。

あと、eスポーツに欠かせないのは配信の遅延です。ライブではなく、配信を時間を遅らせることができる。リアルタイムで放送してしまうと、大会で敵がどこにいるか居場所がわかってしまうからです。遅延することで居場所を教えない。そういう点でも、eスポーツフレンドリーなプラットホームです。

配信者に実力があって、コミュニティができれば、その分、金銭的な見返りを得られるようになっています。

ゲーム好きが高じて、大手メーカーを脱サラし、Twitchに転職した

ゲーム好きが高じて、大手メーカーを脱サラし、Twitchに転職した

まず日本でのパートナーを増やす

──全世界でパートナーは何人いる?

1万4000人ほどいます。配信者は毎月150万人。ユニークビューアーは毎月1億人。日本ではこれからコミュニティをさらに築いていきたい。

ですので、日本では同時接続のハードルを極めて低く設定している。面白いなと思ったらパートナーにして、コミュニティができるように支援しています。

──eスポーツプレーヤーを育てるという感じですか。

それだけではありません。うちはもともとLoL(リーグ・オブ・レジェンズ)の発展とともに発展したので、eスポーツ寄りなところはありますが、あくまでeスポーツはゲームの一部。日本はモバイルが60%のシェアを持っているので、そこは無視できません。

人気配信者との協力体制

──日本におけるeスポーツのマーケットをどう見ていますか。

日本はとんでもないポテンシャルがある。それを引き出すのが、私たちの仕事です。

日本はプロゲーマーのイメージがあまり良くないですが、アメリカのプロゲーマーはかっこいいという印象がある。パラダイムシフトを日本で起こしたい。

Otofuさん(連載の前回に登場)はパートナーの1人で、私たちが日本に来る前から配信していた。非常に頼もしい味方です。

──Twitchはどうやって収益を上げているのでしょうか。

Twitchの収入の大黒柱は広告収入です。コミュニティから若干のパーセンテージは取りますが、基本的にコミュニケーションに力を与え、滞在時間を増やしてもらい、その結果、広告主を集めるというビジネスモデルです。

人気実況者をスタッフに採用

──エリックさんの経歴を教えてください。

生まれは日本で、小学3年生までバージニア州で育ちました。小3から横浜のインターナショナルスクールで過ごし、大学はカリフォルニア州立大学バークレー校。また日本に帰ってきて、大手メーカー勤めてそこでかなり鍛えられました(笑)。

ゲームにはまったのは、親がゲームボーイをくれたことです。そこから離れられなくなった。中学生のときに成績が落ちてゲーム機を全部捨てられ、それでも朝3時に拾いに行ったのでタブーになった。大学になったら規制から解放されて、再びゲームにはまりました。

Twitchジャパンは今6人です。最近はアールさんという実況で有名な方を採用しました。今後もゲーム界のインフルエンサーを採用する。そのほうがコミュニティにわかりやすい。目線を合わせることを意識しています。

日本ゲームの海外進出を後押し

──日本のゲームメーカーはどんな可能性を持っているでしょう。

日本で人気のゲームは海外ではあまり人気がない傾向があり、その逆も成り立つのですが、そういう常識を去年覆したのがプレステのGTA5(グランド・セフト・オート5。アメリカの会社が発売)。全世界のプレステの売り上げにおいてナンバーワンになり、日本でもヒットしました。

ゲーム業界に関していうと、日本は独特のニーズがある。でも、最近はグローバルなインターネットゲームがはやってきていて、メーカーとしてもグローバルに展開したいという思いがある。

私たちはそのお手伝いをできる。補い合って、ウィン・ウィンの関係になっていけると思います。

(撮影:福田俊介)