RECRUIT×NewsPicks 求人特集
第2新卒で広がるキャリアチャンス
2016/2/26
就職活動で納得して社会人になったとしても、入社してから、イメージのギャップに悩むこともある。「石の上にも三年」と言われたのは過去の話。今や、入社から3年以内の人材を「第2新卒」として積極的に採用する企業が増えている。新卒でJR西日本に入社するも1年で退職し、現在はキュレーションアプリ「antenna* (アンテナ)」を運営するグライダーアソシエイツ取締役 COOを務める荒川徹氏に、新卒と第2新卒の就職における意識の違いについて聞いた。併せて第2新卒の求人情報も掲載する。
新卒で経験したローカル線の駅員
数あるキュレーションアプリの中でも、若年層、とくに女性ユーザーを引きつけて成長を続ける「antenna*(アンテナ)」。そのマネタイズ戦略やビジネスアライアンスを統括するのが、運営会社グライダーアソシエイツ取締役 COOを務める荒川徹だ。
スマートフォンの新しい広告スタイルを切り開き、今ではすっかり「広告業界人」の荒川だが、実は社会人1年目は、JR西日本の広島エリアで駅員をしていた経験がある。
「駅員の仕事は、毎日がドラマでした。陣痛が始まった妊婦さんが乗った電車を、駅ホームで救急隊員と一緒に待ち構えて、『お母さん、頑張って!』と拳を握りしめて応援したことがあります。JR西条駅というローカル線の駅では、広島大学の学生と一緒に駅利用者に手製のアンケートを取り、駅の装飾を変えて地元の新聞に取り上げられたり、長時間電車が止まったときには乗客からの怒号を浴びながら、振り替え輸送のバスを緊急手配したこともありました」
東京・青山の洗練されたオフィスでスマートフォンメディアについて語る荒川から、広島のローカル線の駅員の姿はイメージしにくい。新卒時の就職活動では、なぜ荒川はJR西日本を選んだのだろうか。
「JR西日本のリクルーターがとても優秀で魅力的な人だったんです。すでに別の会社に入社意思を固めていたのですが、そのリクルーターと話しているうちに、こんな人と働きたいと強く思うようになって、JR西日本への入社を決めました。山口県出身なので、家族も大喜びでしたね」
しかし、実際に入社してみると、自分の理想と現実との間でギャップを感じるまで長くはかからなかった。
「駅員の仕事は楽しいし、多くの上司や仲間に恵まれ、やりがいもありました。その先の支社、本社での経験も夢を描けていました。でも、鉄道会社特有の官僚的な組織やさまざまなルールにちゅうちょし、“将来の自分”を実現するまでに、あまりにも時間がかかり過ぎると感じるようになりました。今になって考えれば当たり前なのですが、学生時代にはそこまで見抜けていなかったというか、覚悟や理解が足りなかったといえます」
そんな中、ある現実に直面した。JR西日本も1つの株式会社として企業の成長戦略を描くうえで、収益が厳しい路線は廃線などを決断せざるを得ない。現に荒川の所属していた広島管内でもとある路線の廃線が決定し、人々の暮らしの変化を目の当たりにする。
公共性とは何か、企業が利益を追求するとは何か、鉄道会社が自治体や経済に与える影響は何か、いろいろと考えることになる。
「入社1年目で純粋に疑問も感じました。いま考えれば会社だって、社員みんなが必死でやっている中で決定した施策だと理解できます。でも、当時は、どうしても内部にいたままだと変えられない、外に飛び出してJR西日本を変えたいと思うようになったんです」
2年目の5月、荒川は退職届をJR西日本に提出した。会社からは引き留められ、地元に近い両親からも反対された。ただ、今は亡き祖母だけが、「やりたいことをやればいいじゃないの。思うところがあるんだったら飛び出しなさい」と背中を押してくれた。
その後、荒川は早稲田大学大学院に進学。交通経済学を専攻し、ICカードが地域商店街、経済に及ぼす影響などを研究テーマにした。大学院には似たような境遇の学生もいて、数多くの戦友と出会えた。
「次は長く続けなければ」
第2新卒としての2度目の就職活動では、失敗は許されない。「次のところでは長く続けなければという覚悟はありました」と、荒川は振り返る。
大学院時代の恩師に、ボストンコンサルティング(BCG)の内田和成がいた。内田からの影響もあり、BCGなど戦略系コンサルティングファームに就職しようと決めていた。ところが友人から、荒川にぴったりの会社を見つけたといって、マクロミルを紹介された。
聞いたこともない会社だった。それでも誘われるままにマクロミルの説明会に参加してみると、戦略コンサルにはない魅力を感じた。
戦略コンサルでは、経営層のレイヤーの課題に取り組むことが多い。一方で、ネットでの市場調査を行う会社として急成長中だったマクロミルなら、身近な生活商品の開発、消費者調査などの市場調査から、全社課題に対応するプロジェクト、社会的な問題まで幅広いレベルの課題に関われることが魅力だった。
当時の恩師や仲間とも話をしたが、最終的にJR西日本にも貢献したい、さまざまな知見を得て実力をつけるんだという想いで、荒川はマクロミルへの入社を決めた。
その悩みは本質的か
マクロミルでは、鉄道・航空業界、放送業界のリサーチ営業から始まり、新規事業となるセルフアンケート事業「Questant(クエスタント)」の事業責任者、そして海外の市場調査会社の情報収集担当者として、同社のアライアンスなどを検討する企業の調査に欧米に出向くことも経験した。
そんな中、2014年1月、立ち上がって間もないグライダーアソシエイツへ出向することになり、取締役 COOとしてantenna* の事業を手掛けるようになった。
もしJR西日本にいたままだったら、どうなっていただろうか。人生に「もし」という仮定を持ち出すのは不毛なことだ。それでも、社会人1年目に感じた「違和感」を、退職という形で行動に移したのが荒川の転機だったのは間違いない。
インターンやOB・OG訪問を通じて、学生時代に描くイメージと社会人の現実とのギャップを埋める努力はもちろん必要だ。しかし、実際に入社してみないとわからないことが多いのも事実。そこで悩みを感じる若い社会人も、また少なくない。
「今、悩みを抱えている人には、その悩みが本質的なものかどうか、考えてほしい。目の前にある仕事が嫌だとか、上司と合わない、という理由だけなら“逃げ”かもしれない。でも、将来自分がなりたい姿がその会社で見いだせないのなら、我慢する必要はない。1社目がなぜ、自分には合わなかったのか。それがきちんと整理さえできれば、別の道が見えてくるのではないでしょうか」
(文中敬称略)
(聞き手:久川桃子 写真:福田俊介)